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巨大組体操 各地で規制進む 橋下大阪市長「過去は否定しないが、制限かけるべき」▽組体操リスク(10)

内田良名古屋大学大学院教育発達科学研究科・教授
全国の自治体が、巨大組体操に規制をかけ始めている。図は5段のタワー。

■橋下市長 規制に「賛成です」

教育界が動き始めた。

ピラミッド(10段)の例[内田良『教育という病』光文社新書、p. 37]
ピラミッド(10段)の例[内田良『教育という病』光文社新書、p. 37]

9月1日、大阪市教育委員会は、巨大組体操に規制をかけることを、正式に発表した(NHK朝日新聞)。市内で事故が多発していることを受けて、ピラミッドは高さ5段まで、タワーは3段までと上限を定めた。

大阪市の橋下徹市長は、3日の定例会見で、市教委の方針に対して「賛成です」とはっきり答えた(発言全文は記事下部参照)。「これまでやってきたことを否定するつもりはない」ものの、事故の多発や土台の大きな負荷量などが明らかになったからには、「どこかで制限かけなきゃいけない」と述べた

■各地で規制始まる

タワー(5段)の例[内田良『教育という病』光文社新書、p. 38]
タワー(5段)の例[内田良『教育という病』光文社新書、p. 38]

大阪市教委が巨大組体操に規制をかけたことは、高く評価したい。これまで各地の教育委員会は、「現場に任せている」との立場をとり、巨大化する組体操に何らの判断も示してこなかった。大阪市教委は、学校教育のリスクをマネジメントする責任主体として、子どもの安全確保の観点から、巨大化に囚われている学校現場に介入した。

いま、全国各地で巨大組体操規制の動きが進んでいる。じつは大阪市よりも先んじて、今年の3月、愛知県の長久手市教委が、「人間ピラミッドの高層化は行わず、4段までにする」と上限を設けている(「巨大化・高層化の見直し始まる」)。

長久手市、大阪市に続いて、複数の教育委員会が声をあげている。NHKの報道によると、愛知県の尾張旭市教委は、「この秋の運動会から組み体操の規模を小さくする」、滋賀県彦根市教委は、詳細なガイドラインを作成し、「3段以上のタワーなど難易度が高い技については、具体的な安全対策を計画書で示すよう求める通知」を各校に発出した。

■自主規制の学校も

教育委員会による上からの規制ではなく、自主的に規制をかけた学校もある

京田辺市立のとある小学校は、9月1日のブログにて、「全国的にみますと、技の高層化・巨大化による大きな事故が後を絶ちません」との認識を示し、「高さ制限(児童2人分程の高さまで)」を設けるとの方針を打ち出している。

「高い塔や巨大なピラミッドは無くなりますが、子どもたちの安全を最優先に考えた措置であり、何卒趣旨をご理解いただき、懸命に取り組む児童の姿に、ご声援くださいますようお願い申し上げます」と保護者や地域住民に呼びかけている。

■感動の呪縛は解かれた

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上記の小学校の提言を見つけたときには、私はとても感激してしまった。だが、よくよく考えてみれば、子どもの安全を管理する立場として、まったく当然の姿勢を示したにすぎない。

そもそもこれほど重大なリスクを抱えていて、しかもいまやそれが十分に知れ渡っているにもかかわらず、学校側が自主的に規制できないところにこそ、大きな問題がある。学校まかせではどうにも巨大化の流れが止まらないから、教育委員会がやむなく上から制限をかけたにすぎない。

組体操は見栄えもよいし、感動を呼ぶ。これまで私たちは、その感動の呪縛にとらわれていて、巨大組体操の危険性を直視することができなかった。だが昨年から、さまざまなデータが発表され、危険性がはっきりと顕在化してきた。呪縛は解かれたはずだ。これでもなお巨大組体操に拘ることは、もはや許されない。

▼参考資料:2015年9月3日 橋下大阪市長 定例会見 巨大組体操の規制について

<記者>

大阪市の教育委員会が組体操のピラミッドやタワーの高さ制限をおこなって、これは全国的に珍しいということですが、市長はどのようにお考えですか。

<橋下市長>

賛成です。

ただ、うちも子どもの運動会を観に行って、高いのはやっぱりすごく感動しました。ハラハラしながら、本当にできるのかなぁという思いで。うちはけっこう高いのを挑戦していて、感動もしたので、過去やっていたものとかを全部否定するつもりはないし、そのときには担任の先生とかも、一生懸命ケガがないようにしながらね、「挑戦」という、「挑戦」の意識というのは、僕はやっぱり子どもたちに挑戦させるのは重要だと思っているので、これまでやってきたことに、先生たちが一生懸命努力してきたことは全部否定はしないけれども。でも、いろいろ議論をするなかでね、実際に事故がやっぱり多い、多発しているということだったりとか、数字的に調べていくと、最下段の子どもたちにかなりの負荷がかかるということが、実際に数字として科学的に出てきたのであればね、ああいうかたちで制限をかけるといのは、賛成です。数字とか事故の事例とかが出てくれば、どこかで制限かけなきゃいけないんじゃないでしょうかね。でも、これまでやってきて、うまくいって、みんな苦労しながら安全も確保しながら、高さを競ってかなり上の段までいったところは、そこは僕はよくやった、すばらしいと思います。今後のピラミッドについては、そういう事情で高さ、段については制限をかけていく。教育委員会がそう判断したのであれば、そういうふうにやってもらいたいと思っています。

会見の動画はこちら→YouTube

【写真の出典】

「写真素材 足成」

名古屋大学大学院教育発達科学研究科・教授

学校リスク(校則、スポーツ傷害、組み体操事故、体罰、自殺、2分の1成人式、教員の部活動負担・長時間労働など)の事例やデータを収集し、隠れた実態を明らかにすべく、研究をおこなっています。また啓発活動として、教員研修等の場において直接に情報を提供しています。専門は教育社会学。博士(教育学)。ヤフーオーサーアワード2015受賞。消費者庁消費者安全調査委員会専門委員。著書に『ブラック部活動』(東洋館出版社)、『教育という病』(光文社新書)、『学校ハラスメント』(朝日新聞出版)など。■依頼等のご連絡はこちら:dada(at)dadala.net

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