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部活の過熱 都道府県の実態 明らかに

内田良名古屋大学大学院教育発達科学研究科・教授
関東・関西・四国・九州地方で、運動部活動がとくに過熱している

■国が都道府県の実態を初めて公表

スポーツ庁は15日、全国体力テストに合わせて実施した、中学校の運動部活動の調査結果を発表した。そこで初めて都道府県単位での、運動部活動の活動時間数や休養日の実態とその格差が、明らかになった

文部科学省は毎年、国公私立のすべての小中学校を対象に、体力テストを実施している。今年度はその体力テストに合わせて、中学校の運動部活動についても実態調査がおこなわれた。部活動に関する大規模調査の実施自体がまれであり、注目すべき調査である。

スポーツ庁からの結果発表を受けて、マスコミでは「中学の部活動、休養目安の『週2日以上』は2割以下」(産経ニュース)といったように、そのほとんどが休養日の有無に関心を向けている。だがじつは今回、それ以上に注目すべきことがある。それは、休養日の有無を含む複数の質問項目について、都道府県の実態が初めて明らかになったことである。

■文科省が本気を出した

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率直に言うと私は、都道府県の実態(詳細は後述)が明らかにされたことに、かなり驚いている。

私はこれまで、「文科省は調査をすると言っているけれども、調べるだけで終わってしまうだろう。都道府県のデータを示さない限り、自治体は動かない」と、半ばあきらめながら発言してきた。

というのも、体力テストや学力テストをはじめ、各種調査において文科省は、都道府県別のデータを公開している。都道府県の数値を比較することで、各自治体に問題や課題の自覚を促す狙いがある。だが、部活動についてはそもそも調査自体がほとんど実施されておらず、そのうえ、都道府県の実態はまったく明らかにされてこなかったのだ。

全国の状況を一つの数値にまとめただけでは、自治体は他人事としてその数値を見る。それを都道府県別に示すということは、各自治体に事態の改善を迫ることになる。文科省はいよいよ本気で、部活動の過熱に向き合い始めたようだ。

だが他方で、今回の調査に関して、全国紙の地方版や地方紙が、自分の自治体の実態を取り上げているようには見えない。ついに国が都道府県別のデータを公表して、部活動改革への本気度を示したとしても、マスコミや世論がそれに付いてこないと、改革も道半ばにして終わってしまう。

■最大は千葉県の1,121分/週

平日と土日を合わせた活動時間数(分)
平日と土日を合わせた活動時間数(分)

さてここで本記事では、基本的な情報として、中学校の男女別に見た、運動部の平日と土日の活動時間数(分)の都道府県別データに着目したい(休養日の都道府県データは解釈に説明を要するため、分析は別稿にゆずる)。

生徒への質問紙調査の結果によると、たとえば、男子の運動部活動における活動時間数は、平日(月曜~金曜の5日分合計)では、最長が秋田県の736分、最短が岐阜県の323分で、その差は2.3倍に達する。男子の土日(土曜と日曜の2日分合計)では、最長が宮崎県の482分、最短が鳥取県の261分で、1.8倍の差である。

女子の場合、平日では、最長が秋田県の711分、最短が岐阜県の324分、土日では、最長が千葉県の463分、最短が鳥取県の254分である。

以上をひとまとめにして、一週間(平日+土日)における活動時間数(分)の男女平均を算出し、その上位5県(活動時間が相対的に長い)と下位5県(活動時間が相対的に短い)を表に示した。男女平均では、千葉県の1,121分が最長である。

■関東・関西・四国・九州でとくに過熱

運動部活動の時間数が相対的に多い県がオレンジ
運動部活動の時間数が相対的に多い県がオレンジ
都道府県を、時間数(男女の平均)が多い順に並べた
都道府県を、時間数(男女の平均)が多い順に並べた

図のとおり、全国の状況を一覧すると、とくに関東・関西・四国・九州で、一週間あたりの運動部活動の時間数が長いことがわかる。なかでも、四国と九州地方は、すべての県が、上位または中位16県に入っている。

その理由には、環境要因として「日が長いから」という答えが返ってきそうだが、日が長ければたくさん練習してもよいということにはならないはずだ。学校の部活動が過熱していることが問題であり、条件が許したとしても、それでも制限をかけること、休養日をしっかりと確保することが大切である。

また、下位15県は、相対的に時間数が少ないからと言って、今後は時間数を増大させてよいということにもならない。下位15県であっても、平日は言うまでもなく、土日でも平均計5時間ほどは部活動が実施されている[注]。

部活動を、放課後の付加的なスポーツ・文化活動の「機会保障」と考えれば、土日を含めて連日のように活動する必要はない。だが現実には、トップアスリートを育てるべく毎日過剰な練習が続いていて、「スポーツ・文化活動に親しむ」という状況からはほど遠い。

文科省の貴重な調査結果を無駄にすることなく、各自治体は、学校「教育」の一環であるはずの部活動の現状を、早急に改善していくべきである。

※今回の調査からは、活動時間数以外にも、運動部活動に関するさまざまな都道府県別の実態が見えてくる。今後、複数回にわたって、その実態を報告していきたい。

  • [注]「部活動」の活動時間や日数を減らしたように見せかける方法として、名目的には「部活動」ではなく、「保護者主催の練習会」、「地域のスポーツクラブ」、「自主的な集まり」といったかたちで、同一メンバーにて練習を続けるという抜け道がある。これは実質的には「部活動」とみなすべきものである。今回の調査における部活動の時間数に、そういった活動の時間がどれほど含まれているかは不明である。ただし、部活動の時間数に関する質問には生徒が回答しているのであり、生徒がそうした名目上の区別を厳格に適用するとは考えにくいように思われる。
名古屋大学大学院教育発達科学研究科・教授

学校リスク(校則、スポーツ傷害、組み体操事故、体罰、自殺、2分の1成人式、教員の部活動負担・長時間労働など)の事例やデータを収集し、隠れた実態を明らかにすべく、研究をおこなっています。また啓発活動として、教員研修等の場において直接に情報を提供しています。専門は教育社会学。博士(教育学)。ヤフーオーサーアワード2015受賞。消費者庁消費者安全調査委員会専門委員。著書に『ブラック部活動』(東洋館出版社)、『教育という病』(光文社新書)、『学校ハラスメント』(朝日新聞出版)など。■依頼等のご連絡はこちら:dada(at)dadala.net

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