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箱根でのジャーナリスト死亡事故について思うこと

佐川健太郎モーターサイクルジャーナリスト
事故現場を登り方向から撮影

今週、箱根ターンパイクで4輪ジャーナリストが亡くなった。事故現場は下りの緩いカーブで、原因は速度の出し過ぎではないかと報じられている。

クルマはポルシェのGT3というから、高性能スポーツカーとして知られる911シリーズの中でも最もハイスペックなモデル。仕事で出版社から借りて試乗していたそうだ。まずは故人とご家族にお悔やみを申し上げたい。

相当な速度で走れてしまう現場

走ったことがある人なら分かると思うが、箱根ターンパイクは風光明媚な観光道路でよく整備され、気持ちのいいドライビングが楽しめる。今はちょうど桜吹雪が美しい季節だ。

一方で、その気になれば相当な速度で走れてしまう高速ワインディングでもあり、クルマやバイク愛好家の間では知られた走りのメッカでもある。事故の目撃情報では「200km/h近い速度」とか「片輪が浮くほど」などの表現も見られた。

原形をとどめないほどに大破した車両やひしゃげたガードレールなど、ニュースで流れていた事故現場の映像からも、尋常ではない速度が出ていたことは間違いないだろう。他人を巻き込まずに済んだことがせめてもの救いだ。

事故原因の詳細については明らかにされておらず、ネット上では「クルマの限界を超えた走り」や「ドライバーの腕の未熟さ」、「クルマ側のトラブル」、「心疾患などの急性体調不良」などいろいろな要因が取り沙汰されているが、いずれも憶測でしかない。

ただ、明確に言えるのは、いくら高性能のクルマでも事故は起きること。そしてドライバーが亡くなるほどの衝撃を受ける速度が出ていたことである。

事故の社会的影響

残念ながら、この事故が与えた社会的影響は大きいと言わざるを得ない。ネット上には「ターンパイクにも何らかの交通規制が入るのでは」とか「一部の心ないドライバーのために多くの一般ドライバーがワインディングを楽しめなくなる」などという書き込みも目立った。

箱根だけの問題ではなく、全国にある観光道路やワインディングに波及する可能性もある。交通量が少ない有料道路とは言え、またそれが専門誌へ記事寄稿を目的とした仕事であったとしても、公道を限界まで攻めるような走りは許されるものではないだろう。それは自戒も含めて常々思うことだ。

性能評価の「伝え方」

自分も同業者として亡くなったジャーナリストの気持ちは痛いほどよく分かる。交通法規では一般道は60km/hが制限速度で、ターンパイクもたしか50km/h。そもそも公道は現代のスポーツカーやスポーツバイクの性能評価ができるフィールドではないのだ。

一方でクルマやバイクの性能は上がり続けている。そのようなマシンを作るメーカーがあって、そういった製品を求めるユーザーがいて、その素晴らしさを多くの人に届けたいと専門誌に寄稿する仕事を選んだジャーナリストがいる。

「性能評価はサーキットでやればいい」 今回の事故について、ネット上ではそういった書き込みも多くみられた。私もそう思う。公道では機械としての限界性能ではなく、趣味の乗り物としての感覚性能を語ればいいと思う。

そのクルマやバイクが持つ味わいや個性、ゆったり流しても伝わってくる上質な走りやスポーツマインドについてなど語ることはいろいろあるはずだ。そのモデルが持っている独自の世界観を読者の琴線に触れる言葉で伝える。それこそ、プロの領域の仕事となるはずだ。

匿名性の塀に隠れた誹謗中傷

最後にもうひとつ。世の中、白か黒かで割り切れるものだけではない。ネット空間を見渡すと、悪意ともとれるような心無い乱暴な書き込みに胸が痛くなる。人の不幸を嘲り笑い、故人の名誉を貶めるような中傷がなんと多いことか。同じ人間として悲しくなる。匿名性の塀に隠れて石を投げるようなことは、どうかやめてほしい。

隣人と接するように普通に対話しながら、必要なら議論を重ねながら、皆の力でより良い社会にしていけたらと思う。

出典:Webikeバイクニュース

モーターサイクルジャーナリスト

63年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、RECRUITグループ、販促コンサルタント会社を経て独立。趣味が高じてモータージャーナルの世界へ。編集者を経て現在はジャーナリストとして2輪専門誌やWEBメディアで活躍する傍ら、「ライディングアカデミー東京」校長を務めるなど、セーフティライディングの普及にも注力。㈱モト・マニアックス代表。「Webikeバイクニュース」編集長。日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。

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