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「三ない運動」が転機 今こそ交通教育の見直しを!

佐川健太郎モーターサイクルジャーナリスト

「三ない運動」が転機を迎えている

「三ない運動」とは、高校生によるバイクや自動車の運転免許証取得、車両購入、運転を禁止するため、「免許を取らせない」「買わせない」「運転させない」というスローガンを掲げた社会運動である。

1980年代のバイクブームに伴う交通事故の増加や暴走族による危険走行や騒音によって、バイクに対する否定的なイメージが社会に広まったことに対し、全国の教育委員会やPTAが中心となり推進してきたものだ。

それが最近になって様相が変化してきている。

群馬県では「三ない運動」解除で免許取得者が増加

群馬県が「三ない運動」を解除し、すべての県立高校で生徒の免許取得を妨げない方針に切り替えたという。

同県ではこれを機に、交通安全教育を拡充していこうという動きも出てきているとのことだ。

経緯について「BIKE LOVE FORUM」公式サイトによれば、『2014年12月に「群馬県交通安全条例」が制定され、同時に「群馬県の交通安全対策に関する決議」がなされたことに従って、群馬県教育委員会は従来の「三ない運動」を廃止し、2015年7月に県内すべての県立高校の校長に宛て、「県立学校生徒の二輪車及び四輪車に関する交通安全指導の取組方針について」との教育長通知を出し、「学校は生徒の免許取得を妨げない」という新しい指導方針を提示した』となっている。

さらに2015年12月には「群馬県交通安全教育アクション・プログラム」を策定し、安全教育の充実に向けて着々と準備を進めてきていたという。

新しい指導方針の通知後、高校生の原付免許取得者数や自動二輪車の免許取得申請も県全体で増加傾向にあり、クルマの普通免許についても教習所への入所者が大幅に増加しているそうだ。

また、今年の8月6~7日に行われた「第49回二輪車安全運転全国大会」では、高校生等クラスで群馬県代表の選手が優勝するなど、本活動が成果にも表れ始めていると言えそうだ。

ただ実際のバイク利用に関しては一定の制限を残しつつ、県教委としては「なるべくバイク利用の許可を与える方向で校則を見直すよう調整をお願いしている」と説明している。

県教委が示した新しい指導方針は、「学校は生徒の免許取得を制限しない」というものではあるが、実際のところは各学校の方針に委ねられるということだろう。

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埼玉県でも「三ない運動」廃止の方向へ

そして、埼玉県でも県教育委員会が今年10月、県立高校生のバイク利用を禁じた「三ない運動」について、廃止も含め見直す方針を明らかにした。

産経ニュースなどによれば、『全国の教育委員会の半数以上がすでに運動を推奨しておらず、県内の高校生のバイク事故による死傷者数はピークの昭和55年から20分の1程度にまで減少。県教委は検証組織を立ち上げて運動のあり方を検討する』とのこと。

「三ない運動」が始まった経緯についても詳しく触れられていて、『県内の高校生のバイク事故死傷者数は昭和50年代に増加し、55年に1,557人となった。県教委は翌56年、山間部で通学に不便な場合などを除き「高校在学中のバイク免許の取得、購入、乗車を認めない」との方針を定め、県立高校に指導要項を通知した。運動開始後、死傷者数は減少。平成23年は190人となり200人を割り込み、27年には88人まで減少した。県教育局は運動の効果に加え、車線の増設や直線化など道路環境の改善、交通安全意識の向上などが死傷者数の減少につながったとの見方を示した』としている。

また『選挙権年齢が18歳以上に引き下げられるなど高校生の自立を促すことが求められており、交通安全についても自ら考えさせることが大切だ』と教育長が答弁。

関係者を交えた検証組織を立ち上げてバイクに関する生徒指導を検証し、運動のあり方を検討する意向を示したことを明らかにした。

全国的にも最近では自転車や歩行者も含めた「マナーアップ運動」に転換しているケースが目立っており、文部科学省の調査でも県教委の過半数が「三ない運動」を推奨していないと報じている。

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遠ざけずに向き合う教育の必要性

80年代から全国に広まった「三ない運動」は、高校生からバイクに触れる機会さえ奪うことで、交通事故を大幅に減らしたわけである。

もちろん、バイクによる痛ましい死傷事故を一件でも減らせればと願う気持ちは万人に共通する思いだろう。その意味で「三ない運動」はたしかに一定の効果があったと思う。

ただ、「臭いものにフタ」的な発想でバイクを危険なものと決めつけ、子供たちから遠ざけて、完全にシャットアウトしてしまうのもどうか。

ハサミと同じで、使い方によっては便利な道具も危険な凶器になってしまうことを先ず教えるべきではないか。

血気盛んな高校生にそれを教えて実践されるのは大変だし苦労も多いだろうが、それを逃げずに向き合っていくのが「教育」ではないだろうか。

例えば、交通先進国のドイツのように幼児期から交通教育を行い、小学校でも自転車の乗り方のトレーニングが必須科目になっている国もある。交通ルールの中でいかに自分や他者の安全を守りながら運転すべきか、を幼少期から手間暇かけて教育していく。教育には時間がかかるものなのだ。

高校生になって「バイクってカッコいい、自分も乗りたい!」という自我が目覚めたときに、いきなりダメ出しされても納得がいかず、結局は学校や親に隠れて免許を取って、あるいは無免許で乗って事故を起こすという悪循環を断ち切るためにも「三ない運動」はきちんとした形で再考すべきだ。

さらに言えば、学校での交通教育そのものを見直す時期にきていると思う。

世界に冠たるクルマとバイクの先進国である日本の将来にも関わる課題だ。

※原文より筆者自身が加筆修正しています。

出典:Webikeバイクニュース

モーターサイクルジャーナリスト

63年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、RECRUITグループ、販促コンサルタント会社を経て独立。趣味が高じてモータージャーナルの世界へ。編集者を経て現在はジャーナリストとして2輪専門誌やWEBメディアで活躍する傍ら、「ライディングアカデミー東京」校長を務めるなど、セーフティライディングの普及にも注力。㈱モト・マニアックス代表。「Webikeバイクニュース」編集長。日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。

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