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相次ぐ高齢ドライバー暴走事故! 「アナログな仕組み」や「キルスイッチ」の導入を提言したい

佐川健太郎モーターサイクルジャーナリスト

クルマが暴走し人を殺める事故が後を絶ちません。私の専門は二輪ですが、最近あまりにも多すぎるこうしたクルマの事故を見ていると、どうにもいたたまれない気分になります。

昨年末、福岡市博多区の病院にタクシーが突っ込み3人死亡、7人が負傷した事故がありました。新聞報道によると、運転手の男性(64)は「ブレーキを踏んだが利かなかった」と供述。約350メートル直進後にさらに急加速した様子が目撃されていて、現場にはブレーキ痕はなかったそうです。

その後の警察の調べで、運転席のあしもとにフロアマットが二重に敷かれていたことが判明。上部のマットがずれてアクセルペダルを押さえ込む形となった結果、タクシーが暴走した可能性も指摘されています。

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これ以外にも昨年11月には東京都立川市の医療センターの敷地内で、83歳の女性が運転する乗用車が暴走し、歩道を歩いていた男女二人をはねて死亡。また、栃木県下野市の大学病院の敷地内で84歳が運転する乗用車にはねられた女性が亡くなっています。

かつては飲酒運転による事故が目立っていましたが、最近では「高齢ドライバーの暴走による死亡事故」がニュースの見出しに踊ることが多くなった気がします。たまたまでしょうが、これらの事故現場が本来、人の命を救うはずの病院というのも皮肉なものです。

事故原因は踏み間違えがほとんど

こうした事故のほとんどが、アクセルとブレーキの踏み間違えが原因と見られています。

機械的な故障なども絶対ないとは言えませんが、専門家の意見などを聞いても人為的なミスが大多数とみて間違いないでしょう。高齢になれば肉体的にも思考的にも衰えるのは無理もないことです。当然ミスは多くなるでしょう。

政府や警察では高齢者に対して免許証の自主返納を呼び掛けていますが、地方では生活のための必需品としてクルマはなくてはならないものになっています。誰でもいつかは老いていくのです。高齢社会に突入した現在、誰もがより安全に長く乗れる“仕組み”を作ることが急務と思えます。

ひとつには各メーカーが導入を急ぐ「自動ブレーキ」や「衝突軽減ブレーキ」などがあります。自動運転化の前段階にあるこうした装置は未だ完全なものではなく、条件によっては誤作動する場合もまだ多いのだとか。あくまでも自己を防ぐための補助的な装置にすぎないということです。

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追記:

警察庁では今年1月、増加する高齢ドライバーによる交通事故の対策を検討する有識者会議を立ち上げることを発表しました。効果的な安全教育や免許の自主返納の促進などをテーマに6月まで会合を重ね、その後の施策に活かしていく方針となっています。

アナログでも確実に安全な装置が急務では

そんな中、注目したいニュースに目が留まりました。「STOPペダル」というもので、既存のブレーキに後付けできるタイプの「踏み間違え防止装置」です。

アクセルを普通に踏んだ時には反応せず、「危ない!」と思って、アクセルをぐっと踏み込んでしまったとき(ブレーキを踏んだつもりで)に作動する装置なのだとか。

仕組みを理解するには映像を見ていただくのが早いと思いますが、センサーと違って誤作動する余地がないという意味でも安全性は高いと思われます。開発したのは町工場を営む高齢者ドライバーの方々。自ら同様の事故を起こした経験から思いついたアイデアだそうです。

出典:

バズふら「『踏み間違い事故』防止の装置」町工場の社長が生出演 | ホウドウキョク

バズふら「自身も事故を経験…町工場が作った踏み間違い防止ペダルは、「高齢者の運転事故」を止められるのか!?| ホウドウキョク

自動車メーカーはグローバルでの生き残りをかけて先端技術の開発にしのぎを削っています。ただ、電子制御に頼らずともこうしたアナログな仕組みでも安全性が確実に担保されるのであれば、まずはそちらを優先して導入することを考えてみるのも手かもしれません。

二輪の「キルスイッチ」を導入してみては

もうひとつ、二輪のメカニズムの応用ということでは「キルスイッチ」が使えるかもしれません。

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そもそも二輪の場合はアクセルとブレーキの操作がまったく別々の動きなので間違えようがありませんが、加えて転倒時などでのエンジンの暴走を防ぐための安全装置として、ボタンひとつでエンジン停止ができる「キルスイッチ」が右手側のアクセルグリップのすぐ近くに装備されています。

二輪の場合、通常は右手側にあるアクセルグリップを空けたり閉じたりして速度を調整しますが、その操作を燃料供給装置(FIやキャブレター)に伝えるスロットルワイヤーが、何らかの原因で引っかかったりして戻らなくなるなどの危険性も考えられます。その分、ライダーは常日頃から「キルスイッチ」の存在を強く意識していると言えます。私自身、かつてバイクで走行中にスロットルワイヤーが切れた経験がありますし、アクセルグリップが戻りづらくなりクラッチを切って事なきを得たこともあります。

二輪の場合、未だにマニュアルミッションがほとんどなので、発進時のアクセルの誤作動による急加速などは発生しづらいと言えますが、それでも二輪のアクセル機構が持っている構造上のリスクを低減するために「キルスイッチ」が装備されているわけです。

4輪でもレーシングマシンには「キルスイッチ」付いていると聞いたことがありますが、市販車にも何らかの「緊急停止装置」の導入を考えてみても良いのではと思います。それが人の手で操作するものなのか、あるいは電子的な仕組みであるのか、その両方の組み合わせなのかは一考の余地があるとは思いますが……。

何よりも優先されるべきは人の命を守ること。それだけは断言できます。

出典:Webikeバイクニュース

モーターサイクルジャーナリスト

63年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、RECRUITグループ、販促コンサルタント会社を経て独立。趣味が高じてモータージャーナルの世界へ。編集者を経て現在はジャーナリストとして2輪専門誌やWEBメディアで活躍する傍ら、「ライディングアカデミー東京」校長を務めるなど、セーフティライディングの普及にも注力。㈱モト・マニアックス代表。「Webikeバイクニュース」編集長。日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。

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