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BMW新型S1000RRに初試乗! スーパースポーツを公道で楽しめるか!?

佐川健太郎モーターサイクルジャーナリスト
2017年型 BMW S1000RRで都内を走る

世界的に売れているBMWのベストセラーに

2017年モデルの新型S1000RRに乗ってみました。「世界でも最先端をいくスーパースポーツ」と称され、サーキット愛好者の間では「吊るしの状態(ストック)でサーキット最強」との噂もあるなど大変評価の高いモデルです。

それを証明するかのように、世界でも長年BMWの2輪で、セールスナンバーワンだったR1200GSを販売台数で超える勢いだそうです。

日本でも最近多くのS1000RRを見かけるようになりました。

伝統を捨てて電子デバイスで武装

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S1000RRは、2009年に衝撃的デビューを果たした、BMW初のスーパーバイクモデルです。

それまでもHP2など伝統のフラットツイン(水平対向エンジン)を搭載したレーシングチューンのモデルはありましたが、S1000RRは従来のBMWの路線とは異なる並列4気筒エンジンにチェーンドライブ、テレスコピック式フロントサスペンションを採用するなど、いわゆるBMW的ではない日本製スーパースポーツに極めて近い車体構成が与えられていました。

さらにドライブモードやトラクションコントロール、レースABSに電子制御サスペンションなど最新の電子デバイスが投入され、最高出力も当時、クラス最強の192馬力を誇るなど、初期型にして圧倒的スペックと完成度に驚いた記憶があります。

それまでスーパースポーツのカテゴリーで圧倒的なアドバンテージを築いてきた国産メーカーとしては意表を突かれた形となり、かなり焦ったと思います。

素性はレースで勝つために生まれたマシン

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実際のところ、S1000RRは元々スーパーバイク世界選手権参戦(WSBK)のために開発されたホモロゲモデルということもあり、BMWとしては、本気でレースに勝つつもりで作ってきた肝入りのモデルです。

事実、WSBKでも常にトップ争いを繰り広げるなど好成績を上げていますし、特にストック状態での実力が試される、FIMスーパーストック1000(欧州でWSBKと併催されている人気のレース)では、デビューイヤーからの8年間で、昨年2016年を含む4度のタイトルを獲得するなど実力を証明しています。

果たして公道では…

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前置きが長くなりましたが、こんな戦闘マシンを公道で普通に乗れるのか……という素朴な疑問に自分自身でも答えを見つけるために1週間ほどじっくり試乗してみました。

見た目は本当に美しいです。「デザインは機能に宿る」と言いますが、まさにそれを全身で表した感じ。

よく比較されるドゥカティ・パニガーレに見られる彫刻のような流麗なラインとは異なる“機械”としての完成度の高さをアピールする造形であり、そこにBMWの美学を見出すことができます。

ユーロ4に対応しキャタライザーを大型化

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ちなみに2017年モデルは、欧州の新排ガス規制ユーロ4に適合したエキゾーストシステムが採用されたことでエンジンスポイラーの形状が若干変更になっているだけで、機能面での変更はありません。

簡単に言うと、大きなキャタライザーを収めるためにアンダーカウルの後端部がカットされた形状になっています。もちろんカラーリングも新しくなりました。

4輪ドイツ車にも通ずるジェントルな乗り味

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車格はゲルマン系らしくやや大柄ですが、シートは815mmと低めで足着きも良いほう。ライポジも前傾が思ったほどきつくなく、ステップ位置も高すぎることなく自然な感じです。

エンジンは泣く子も黙る199馬力フルスペック仕様ですが、出力特性が最も尖った「レース」モードでもスロットルさえ乱暴に開けなければ鼻歌交りに普通に街中でも流せます。

自分では、最も穏やかな「レイン」モードがお気に入りで、雨でもないのにほとんどこのモードで通していました。

それでも、もちろん十分すぎるほどのパワーとレーシングマシン直系の俊敏で緻密な吹け上がりが楽しめるのですが、スロットル開けしなのツキ(初期のレスポンス)が柔らかいので、神経を遣わず疲れにくいのが利点です。

この辺りは4輪のBMWにも共通する部分で、普段使いでは扱いやすく快適に、アウトバーンでは怒涛の加速とトップスピードで“時間を買う”という、ドイツ車全般に見られる発想に近いかもしれません。

厳しい道ほど感じる電子制御の恩恵

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ワインディングでは、まだ路肩に雪が残り、融雪剤の跡も生々しい路面でしたが、安心して走ることができました。

バンク角に応じて最適な制御を行うコーナリングABSや、トラクションコントロールの恩恵をこれほど感じた局面はありません。

特にレインモードは、その真骨頂を申し分なく発揮してくれ、コーナー立ち上がりでちょっと強めに加速しようとすると、即座にトラコンの作動を知らせるオレンジ色のインジケーターの瞬きが視界の片隅に入ってきます。

つまり、本来なら有り余るパワーで後輪がスリップしているところを、トラコンが自動的に助けてくれているわけです。言わば大きな安心感を得られる保険のようなものですね。

スーパースポーツなのにホットグリップという心遣い

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高速道路では風圧を受けるため、前傾スタイルもそれほど気にならなくなりますし、ウエッジシェイプされたカウルに軽く伏せれば、走行風をほとんどかわすこともできます。

また、圧倒的な動力性能と俊敏なフットワークに加え、電子制御に守られているという自信に支えられ、どんなスーパーカーに後ろに付かれても怯むことはありません(笑)。

胸のすくサウンドも魅力でしょう。甲高い直4独特のエキゾーストノートに混じって、キーンという吸気音が胸元辺りに響いてきます。ジェット機が離陸していくときの高周波によく似たサウンドに気分も高揚し、周囲の景色まで違って見える感じです。

こうした巧みな演出もさすがBMWと言えるでしょう。

そして、最高に意外なのはグリップヒーターが標準装備されていること。かじかんだ手にこの温かさは本当にありがたい。そのままレースに出られるスーパーバイクなのに、ちゃんとツーリングも視野に入れて設計されているという心遣いに、ついニンマリしてしまいます。

最先端の設計思想に触れられる価値

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結論。S1000RRは日常で使うには、たしかにオーバースペックかもしれませんが、たとえサーキットを走らなくてもその最先端の性能や設計思想に触れることができるのはライダーとしての大きな喜びと言えるでしょう。価格も安いとは言えませんが、その価値は十分にあると思いました。レースで勝つために作られたスーパースポーツの性能が先鋭化していくことは宿命ですが、一方で近年は電子制御技術の著しい進歩によってその性能を安全かつ快適に引き出すことが可能になってきています。S1000RRにおいてもそのエッセンスの一部を公道で味わうことはできると感じました。

スーパースポーツは乗りづらいとか、サーキット専用マシンなどの先入観を持たれがちですが、実際にはそうでもなかったりする。自分も含め、食わず嫌いは損をするかもしれないと実感した1週間の試乗でした。

※原文より筆者自身が加筆修正しています。

出典:Webikeバイクニュース

モーターサイクルジャーナリスト

63年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、RECRUITグループ、販促コンサルタント会社を経て独立。趣味が高じてモータージャーナルの世界へ。編集者を経て現在はジャーナリストとして2輪専門誌やWEBメディアで活躍する傍ら、「ライディングアカデミー東京」校長を務めるなど、セーフティライディングの普及にも注力。㈱モト・マニアックス代表。「Webikeバイクニュース」編集長。日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。

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