Yahoo!ニュース

ヒラリー大統領も予言!? 20年後の『インデペンデンス・デイ』はどうなっているのか?

斉藤博昭映画ジャーナリスト
映画史上最大の宇宙船が空を埋めつくす『インデペンデンス・デイ:リサージェンス』

夏休み映画超大作の先陣を切って登場するのが、7月9日公開の『インデペンデンス・デイ:リサージェンス』。北米公開が6月24日で、プレミアが行われたのが本日(日本時間6月21日)ということで、ようやくその内容を伝えられる時期が来た。

1996年に公開された『インデペンデンス・デイ』(以下、ID4)は、日本でも興行収入113億円という驚くべき数字を記録。エイリアンの地球侵略と、それに対する人類の抗戦を、当時としては圧倒的なスケールで描いた作品だった。その後の『ディープ・インパクト』(興収80億円)、『アルマゲドン』(同142億円)と、「パニック超大作」のブームを形成した作品と言っていい。

しかし、それから20年。「ハリー・ポッター」などのファンタジー大作や、アメコミヒーロー大作のブームなどに押され、パニック大作はやや影が薄くなっていた。そこへ来て、20年ぶりの『インデペンデンス・デイ』の復活である。しかも監督は、前作と同じローランド・エメリッヒだ。エメリッヒといえば、ID4の後も『デイ・アフター・トゥモロー』(2004年)、『2012』(2009年)と、世紀末パニック映画を率先して作ってきた人。リアリティは二の次で、怒濤のスケール感を得意としているのだ。

よくよく考えれば、ID4のようなエイリアン侵略に「リアリティ」が必要だろうか? いや、むしろ映画として、いい意味での荒唐無稽さこそ、このジャンルに求められるものだろう。『2012』でも世界各地を容赦なく崩壊させたエメリッヒが、今回の『インデペンデンス・デイ:リサージェンス』(以下、IDR)では、その志向をさらに強振させるかのように、信じられないシチュエーションを用意した。

ます、宇宙船の大きさ

舞台は2016年。前作から、まさしく20年後。人類はエイリアンの技術も拝借しながら、文化を進化させたという設定で、月面に基地も作っている(月面で作業するロボット「ムーン・タグ」のデザインがカッコいい!)。その月をすべて覆うほど、エイリアンの巨大なマザーシップが現れる。直径が月よりデカいので、地球に接近すると大西洋の上部をすべて覆い隠してしまうほど。

その宇宙船が「反重力」という吸引パワーを駆使して、各都市の建造物を根こそぎ引き上げ、別の都市に落下させるという、かつてないディザスター映像が展開されていく。ドバイのブルジュ・ハリファやクアラルンプールのツインタワーが、ロンドン市街を壊滅させる……といった具合に。このシークエンスを観るだけでも、入場料の元は取れるのではないか?

新たに主役を任されたのは、リアム_ヘムズワース
新たに主役を任されたのは、リアム_ヘムズワース

そしてID4の魅力だったのが、痛快さとユーモア

エイリアンの襲撃は人類最大の危機ではあるのだが、シリアス一辺倒では、観客の心はどんよりするばかり。合間の「楽しさ」こそID4が観客を引きつけたポイントでもあった。しかしリアル重視のアクション大作が増える近年、作風も変わったのでへ……という心配をよそに、IDRにもその精神は受け継がれているではないか! 前作で死んだと思われていた博士の復活シーンや、女性キャラの長い髪が無駄になびく演出、エイリアンと主人公の殴り合いなど、思わず笑わせる箇所をあちこちに用意。いいスパイスになっているので、「違和感」と思わずに素直に楽しませてもらった。

前作とやや異なるのは「多様性」への意識だろうか。

ID4で、人類の最前線で戦ったのは男たちだったが、IDRでは、訓練生も含めて女性の戦闘機パイロットがやけに目立っている(キャストは香港出身のアンジェラベイビーなど)。ここ数年、人種や性別など何かと「多様性」が求められるハリウッドの風潮を、エメリッヒ監督が意識したかどうかはともかく、IDRで、2016年のアメリカ大統領は女性である。演じるのは『ゴーン・ガール』などのセラ・ワード。前作と同じく大統領の判断が、エイリアンvs.人類の戦いを左右するのだが、観ているこちらはどうしても、アメリカ初の女性大統領の可能性がある、ヒラリー・クリントンを重ね合わせてしまう。ちなみにニュース画面にちらっと映る日本の首相も女性。エメリッヒは、現在の世界に対し、女性のリーダーシップへの期待を高めているのかもしれない。

前作からのキャラクターに、若いメンバーが加わり、人間ドラマも盛りだくさん。エイリアン再襲来の「理由」も明確に描かれている。しかし上映時間は前作の2時間25分から、約2時間へと短縮。怒濤ともいえるスピードで突き進むのが、このIDRの魅力でもある。まさにジェットコースター並みの加速とテンション、緩急が待ち受けている。2時間超えのアクション大作が多いなか、こうして勢いで見せてしまう作りも、じつに爽快ではないか。

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

斉藤博昭の最近の記事