『君の名は。』が軸の2016年劇場アニメ活況の現状と、「超当たり年」のカギを握る秋の注目作
勢いが止まらない『君の名は。』を中心に、2016年は劇場長編アニメの当たり年と記憶されそうだ。
『映画ドラえもん 新・のび太の日本誕生』が3週連続1位、『名探偵コナン 純黒の悪夢(ナイトメア)』も3週連続1位、『ズートピア』は4週連続1位。夏休みに入ると『ファイディング・ドリー』、『ONE PIECE FILM GOLD』、『ペット』がそれぞれ1位を飾り、10月第2週までの全41週のうち、アニメが1位になったのが約半分の21週。2015年のアニメ1位の総計18回をすでに上回っている。
ちなみに過去10年で、アニメ1位が何週あったか振り返ると
2014年:26週(『アナと雪の女王』『STAND BY ME ドラえもん』など)
2013年:28週(『風立ちぬ』8週連続など)
2012年:11週
2011年:2週
2010年:10週
2009年:12週
2008年:14週(『崖の上のポニョ』6週連続など)
2007年:5週
1位の数だけ見ると、今年の活況が「極端」とは言えないのだが、特筆したいのは、この夏のアニメ「上位独占率」である。
7〜9月の3ケ月間、13週の興行収入トップ3、合計39(13×3)のうちアニメは22
2015年同時期は、39のうち11
2014年は、39のうち12
夏休みといえど、これほどアニメ作品の上位が顕著な年は珍しい。夏が終わっても『君の名は。』『映画 聲の形』の好調が続いているが、2016年がアニメの「超当たり年」になるうえで、秋公開の作品の動向が気になってきた。例年、10〜11月はアニメ映画の大ヒット作はあまり生まれない。昨年、11/21公開の『ガールズ&パンツァー 劇場版』がその後、ロングランヒットにつながったが、今年は……?
11/12公開『この世界の片隅に』
現在、マスコミ試写が連日満席で、恐ろしいほどの評判の高さを呈している作品だ。
こうの史代の同名コミックを原作に、昭和8年から20年までの時間を、広島、そして軍港のある呉を舞台に描く本作。絵のタッチといい、ヒロイン・すずさんのキャラクター(女優・のんにとって「あまちゃん」以来のハマリ役かも!)といい、どこか穏やかでのんびり、心安らぐ世界観を保ちながら、時代と場所から当然、「あの日」へのカウントダウンとなる緊迫感がつねに漂う。ユーモアもたっぷりの日常と、死と隣り合わせの世界。そのギャップがじわじわと胸を締めつけるのだが、シーンの切り替えが、あの『シン・ゴジラ』と比べたくなるテンポの良さだったり、過去と絶妙にシンクロする演出がなされていたり、とにかく計算され尽くした展開で一瞬たりとも飽きさせないのが見事。ここまでさまざまな感情をかき立てる作品は、年に何本もあるものではないが、『君の名は。』のような大規模公開ではなく、ヒットを左右する若い世代にどこまでアピールするかは未知数ではある。逆に、この感動と衝撃がクチコミで広がれば、「社会現象」になるポテンシャルも秘めた作品でもあるのだ。
そしてもう一本、“特異”なアニメとして
11/4公開『ソーセージ・パーティー』
スーパーマーケットで売られる食品たちが意志をもって会話をしている……という設定は『トイ・ストーリー』を連想。食品たちは日夜、買い物客によって外の世界に出ることを夢みており、主人公のソーセージくんは、美女のパンとともに買われ、彼女の中に挟まれる日が待ちきれない! 「ソーセージが挟まれる」欲望からして、子供には観せられない危険な作品なのが一目瞭然。事実、CGアニメとしては異例の「R15+」(15歳未満、鑑賞不可)。ブラックでお下劣、マニアックなネタのオンパレードなので、食品たちのキュートな外見とは裏腹の「もうひとつのトイ・ストーリー」として大いに笑わせてくれるのだ。とはいえ、『美女と野獣』の作曲家、アラン・メンケンが主題歌を手がけるなど作り自体は超一流。全米でも予想以上のヒットを記録しているし、『テッド』や『デッドプール』のノリを楽しんだ日本の観客層を引き込むパワーはありそう。
アニメ作品が元気な2016年でも、たとえばスタジオジブリの『レッドタートル ある島の物語』のように苦戦を強いられた作品もある。「大作アニメ」が減る秋の映画興行で、新たなヒット作が生まれれば、2016年のアニメ活況は「本物」ということになるだろう。
『この世界の片隅に』
配給:東京テアトル
11月12日(土)より、テアトル新宿、ユーロスペース他全国にて公開
(c) こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会
『ソーセージ・パーティー』
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
11月4日(金)より、TOHOシネマズ 六本木ヒルズほかロードショー