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「家を買った瞬間に失う金は1000万円」というのは本当なのか?〜賃貸・持ち家の比較は本質的ではない〜

酒井一樹就活SWOT代表

「家を買った瞬間に失う金は1000万円」という記事をプレジデントオンラインで見かけました。元マッキンゼーの大前研一氏の記事のようです。

「議論の前提」が書かれておらず ちょっと不親切な記事なのですが、意外に話題になっているようだったので、乗っかって1記事書いてみます。

なお、エイリストでは賃貸情報サイトと、不動産売買サイトを運営しており、賃貸派・売買派、いずれかの肩を持つつもりはありません。以下、ポジショントーク無しで書かせていただきます。

なお、先に結論として書いておきたいのは「割高な物を買えば損をするし、割安な物を買えば得をする。賃貸か持ち家か、新築か中古か…という議論は本質的ではない」ということです。

【 それは新築の話、なのか…? 】

大前氏の記事を読んで、まず真っ先に思ったことが「それは新築マンションの話なのか」という事です。分譲価格5〜6000万円くらいの新築なら「買った瞬間に1000万円失う」という話も納得できます。たしかに「そういう物件もある」のは事実です。

新築マンションは個人間の相対取引ではなく、デベロッパーが個人に売るのが基本形です。相場価格ではなくマンションデベロッパーの利益を載せた「売りたい価格」で売り出されます。その価格が割高すぎれば売れないわけですが、日本の場合「新築信仰」の方が多いという要因もあります。

ですので、デベロッパーのブランドや営業力次第では多少高くても新築なら売れてしまうわけです。結果として「5〜10年後に中古で売っても4000〜5000万円にしかならないかも?」というような物件が5000〜6000万円で販売されるのです。

【 マンション騰落率ランキングの話 】

ただし、新築だからと言ってどんな物件でも即座に1000万円も目減りするわけではありません。例えば大手デベロッパーの分譲マンションに関しては、下記のような調査結果があります。

>売主別中古マンション騰落率ランキング(2012年版)の公表について

http://www.a-lab.co.jp/research/press130906.html

上記ランキングで上位のデベロッパーのマンションは、新築→中古での値下がり率が1〜3%程度となっています。

正直なところ調査を行うタイミング次第でこの騰落率は変わるものですが、5000万円の物件が2%値下がりしたら、下落額100万円ですね。

この金額なら「意外と目減りしないな」と思われる方が多いのではないでしょうか。

5000万円から10%値下がりすると4500万円となり、500万円の目減りとなります。

これに購入時の諸費用(登記費用、ローン申し込み費用や保証料などなど)を入れると、ようやく「1000万円失う」と言っても良いのではないかと思われます。

…もちろん、それ以上に価値が目減りする物件も世の中にはたくさんあるわけですが。

【 むしろ値上がりする新築もある 】

なお上記調査でマンションブランド別に見た場合は、丸紅の「ファミール」ブランドは値上がり率2.2%。値下がりではなく「値上がり」率です。

建物別に見た場合、2004年に分譲された「グランスイート白金マークス」は値上がり率がなんと35.5%。(5事例の平均とのことです)

億ションなので、「1億円で買ったら1億3550万円になった」というようなノリですが。

三井、野村、三菱などに比べて丸紅の物件はマイナーなイメージがあるかもしれませんが丸紅の分譲マンションは価格設定が他社に比べて良心的で、豪華な共用設備もありません。割高な維持費もかからない分、「実」を重視する中古市場でも支持されやすいのではないかと思います。

【 値上がりする物件・値下がりしない物件の共通点 】

新築時から値下がりしにくい物件には、2つの共通点があります。

・分譲時の価格が割安である(絶対額の高低ではなく、市場価格と比較しての高低)

・土地の価値が高いエリアに建っている

以下、1つずつ説明いたします。

>・分譲時の価格が安い

「分譲時、デベロッパーが設定した価格が高ければ、買った後に値下がりします。」

…はい、ごくごく当たり前のことですね。

新築だろうが中古だろうが「割高なものを買えば損をする」し、「割安なものを買えば得をする」ものなのです。ここが本質であって「賃貸が得か、購入が得か」とか、「新築か中古か」というような議論は本質的ではありません。

ただ前述のように日本人は新築信仰が強いので、多くのデベロッパーは新築時の分譲価格を高めに設定することができます。

デベロッパーも自分たちの利益を確保しなければいけないので、「割高になりやすい」のは確かです。

しかし中古で購入する側にとって、新築時にいくらだったかは「あまり」関係ありませんので、その事には十分気をつけるべきでしょう。

逆に、デベロッパーの方針で割安に設定されていることもあるでしょう。

少し特殊な例ですが、自治体から再開発用の補助金が出て割安になっているというマンションもあります。

そんな物件であれば、資産価値は目減りしにくいと言えます。

とはいえ、「資産価値が目減りするとしても、維持費が割高になっても、共用設備の豪華なXX社の分譲マンションに住みたい!」…という考えの方もいらっしゃるでしょう。

それはもう「趣味・嗜好の問題」なので止めはしませんが、贅沢をしているという認識は持っておいた方が良いでしょう。

>・土地の価値が高い

「値下がりしづらい物件」のもう1つの共通点が、土地の価値が高いエリアに建っている事が多いということです。(これは十分条件というよりは必要条件に近いのですが、ここ数年の傾向として顕著です)

先ほどのランキングに出てきた「値上がりしたマンション」の立地を見るとわかりますが、白金、本駒込、西原、四谷…などなど、全て都心で高級住宅地と呼ばれるエリアです。もちろん一等地に建っていようが 割高な価格設定がされている物件ならば下落の可能性はあるのですが、「一等地に建っているかどうか」は1つの基準としても良いでしょう。

不動産というものは、都心になるほど購入価格における「土地代」が高くなり、郊外に行くほど「建物代」が高くなります。

建物というものには耐用年数も定められており、新築された後、その価値はどんどん目減りしていきます。

(ただ、帳簿上の価値はゼロになっても、実際の価値がゼロになるとは限りません)

「建物の費用割合」が大きい物件であれば価値の目減りも早くなります。

具体的に書くと、残念ながら郊外で分譲価格3000〜4000万円くらいの物件は価値が目減りしやすいと言えます。(ほとんど建物代なので…)

ですので購入後も資産価値を維持したいという方は、郊外の物件を買ってはいけません。郊外の物件を買う場合は「x年間住めば資産価値が目減りしていても賃貸よりお得なので、それでOK」というある種の割り切りが必要です。

都心でファミリータイプの新築を狙うとすれば4000万円では到底買えないため、頑張って6〜7000万円くらいの予算を捻出するか、そうでなければ中古の築古を狙うことになります。(都心・築浅ですと中古でも4000万円台はなかなかありません)

あまりに築古だとローンが通りにくくなるため、現実的には築10年〜20年くらいの物件を狙う方が多いようです。

なお、都心・都心と書いていますが、地方都市でも良い場所はあると考えています。

【 購入が得か、賃貸が得か 】

先程も書きましたが「新築を買うと損をする」「中古を買えば得をする」という単純な物ではないのです。

自分が中古物件の情報サイトを運営しているのは「中古物件の方が割安な可能性が高い」と思っているからですが、「すべての中古物件が新築より割安だ」とまでは思っていません。

「購入が得か、賃貸が得か」みたいな議論も飽きるほど出てきていると思うのですが、このテーマで結論が出ることはありません。「割高なものを購入するくらいなら賃貸の方が良い」ですし、「割安に購入できるなら購入した方が良い」のです。

割安に買っていれば、賃貸に出してもそこそこの利回りを取れますし、売却するにしても余裕で利益を出せます。

(ちなみに自分で居住していれば、売却益が出ても譲渡税はかかりません。)

割高に買っていたら、賃貸に出しても利回りは低くなりますし、売るにしても赤字となります。「 賃料 < ローン返済額 」 となってしまう可能性も高いです。

何が言いたいかというと「賃貸なら月額〜円かかる」という前提なしに議論しても意味が無いのです。「相場x円の物件がy円で購入できる」という情報なしに「購入が得かどうか」を考えることもできません。

(ついでに言うと、その人の資産状況・属性にもよります。)

極論ですが会社の福利厚生などで、住みたい物件に月額1万円で住める方もいらっしゃるかもしれません。当然そういった方にとっては「賃貸の方が良い」と言って良いでしょう。当たり前ですね。

万一、相場4000万円の物件が3000万円で買えたとしても、そこに移り住む必要などありません。

(買った物件を賃貸に出すのはアリかもしれませんが)

【 一番重要なのは、物件の目利き 】

「割安に買え」と言われても、不動産購入経験の無い方には物件の目利きなど難しいかもしれません。

先日聞いてビックリした話なのですが、相場の2倍くらいの価格で売り出している物件を「2〜3割引になった」と言って喜んで買う方もいらっしゃるそうです。2〜3割引になっても、まだまだ割高なのに…です。

「割安かどうか」の判断が出来る自信の無い方は、不動産は買ってはいけません。ご自身で判断できないなら、利害関係がなく、不動産に詳しい第三者に相談する方が良いでしょう。

慣れない方には大変なことですが、自分で住むにしても「貸したらいくらか」「売ったらいくらか」をしっかり予測し、計算しておく事をオススメします。

(なお、販売会社の出す「想定賃料」「保証賃料」はアテにならない事も多いです。)

ちなみに私が最初に不動産を買った時は、1つ良さそうな物件が見つかったタイミングで他の仲介会社の意見を聞くようにしていました。

物件が特定されない範囲で「これより良い条件の物件はありますか?」と聞いて回るということです。

手間はかかりますが、対抗馬となる物件を集めながら比較していくと、物件を見る目も養われてくるのでオススメです。

ただ、これだけ書いておいて最後にちゃぶ台を返すのですが、そうは言っても新築は「5年後、10年後の価格」は予想しづらいものです。そもそも物件が完成していない状態で「青田買い」しなければいけませんし、市場の原理で価格が決まっているわけでもないので、中古に比べれば「適正価格」が読みにくいということには注意しておく方が良いでしょう。

就活SWOT代表

慶應義塾大学在学中、世界初の就活SNSの代表に就任。国内最大の就活SNSへと成長させた後に大学を卒業し、エグゼクティブサーチを行う人材ベンチャーに入社。役員・事業責任者などの幹部人材の採用支援に携わる。2009年にエイリストを設立し「自分の頭で考え、行動する人材を増やす事」を命題として就職情報サイト「就活SWOT」を開設。

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