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L.A.在住映画ジャーナリストが今年のオスカーを予測!

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト

今年のアカデミー賞が、ついにあと10日後に迫った。昨年は「アルゴ」と「リンカーン」の争いだったが、今年は「アメリカン・ハッスル」「それでも夜は明ける」「ゼロ・グラビティ」の3作品の接戦。ここ6年間、PGA(プロデューサー組合賞)の結果はそのままオスカー作品賞の結果に重なっており、通常ならここでかなり予測がつくものなのだが、今年は「ゼロ・グラビティ」と「それでも夜は明ける」の2作品がPGAを同点獲得。一方で、やはり重要なSAG(俳優組合賞)は「アメリカン・ハッスル」が受賞したことで、混戦となった(昨年のアワードシーズン、出だしは『リンカーン』が優勢だったが、SAGを『アルゴ』が受賞したことからはずみがつけている。)なかなか読めない今年のオスカーを、あえて予測してみよう。

作品部門:「それでも夜は明ける」

「アメリカン・ハッスル」あるいは「ゼロ・グラビティ」のどちらかが取ってもおかしくはない状態。とくに、70年代の実話にインスピレーションを得たユーモアのセンスあふれる「アメリカン〜」は、アカデミー会員のノスタルジーに強くアピールする可能性がある。しかし、アメリカの奴隷制度に正面から向き合う「それでも夜は〜」のもつ意義の大きさを、アカデミー会員は評価すると予測。ただし、過去に、「恋におちたシェイクスピア」が「プライベート・ライアン」を破った例もあり、明るいタッチの作品のパワーもあなどれない。

監督部門:アルフォンソ・キュアロン「ゼロ・グラビティ」

キュアロンはDGA(監督組合賞)を受賞。DGAとオスカー監督賞の結果はほぼ一致するので、この部門はほぼ彼で決まりと言っていい。昨年は非常に稀なケースで、DGAに輝いたベン・アフレック(『アルゴ』)は、オスカーの監督部門にはノミネートもされなかったが、その前の9年間は、連続で、DGAの受賞者がオスカー監督賞も獲得している。

主演男優部門:マシュー・マコノヒー「ダラス・バイヤーズクラブ」

ロマンチックコメディ専門だった頃、マコノヒーは、オスカーから最も遠い存在だった。しかし、近年、キャリアの大改革に成功。極端に減量して挑んだこの実話の映画化作品で、ついに初のオスカー候補入りを果たした。SAGの受賞でオスカー主演男優部門の最有力となったが、ほかもなかなか強敵だ。「ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅」のブルース・ダーンはカンヌ映画祭で男優賞を獲得している上、77歳にして35年ぶりにノミネートされたという事実がアカデミー会員の感傷をそそるかもしれない。レオナルド・ディカプリオ(『ウルフ・オブ・ウォールストリート』)は、SAGにノミネートもされず、当初は希望が薄いかと思われたが、SAGのノミネーション締切があまりに早いために、その段階ではSAG会員の多くが「ウルフ〜」の試写を見ることができていなかったことが判明。今になって巻き返しの可能性も十分ある。またキウェテル・エジョフォー(『それでも夜は明ける』)は、英国アカデミー賞から主演男優賞を獲得している。

主演女優部門:ケイト・ブランシェット「ブルージャスミン」

主演男優部門が、クリスチャン・ベール(『アメリカン・ハッスル』)以外に過去の受賞者がいないのに反し、主演女優部門は候補者5人のうち4人が過去の受賞者。残りのひとりエイミー・アダムス(『アメリカン・ハッスル』)も、過去に4度ノミネートされているオスカーの常連だ。それだけ実力派が揃ったものの、今年は、SAG、英国アカデミー賞、ゴールデン・グローブ賞などを総なめしているブランシェットでほぼ間違いなく決まり。

助演男優部門:ジャレド・レト「ダラス・バイヤーズクラブ」

しばらくスクリーンから遠ざかっていたレトは、久々の復帰作で実在のトランスジェンダーを演じ、SAG、ゴールデン・グローブ賞ほか、数々の批評家賞を受賞。英国アカデミー賞は「キャプテン・フィリップス」のバーカッド・アブディが取ったが、オスカーはレトが断然リードしていると言っていい。

助演女優部門:ルピタ・ニョンゴ「それでも夜は明ける」

この部門は、ニョンゴか「アメリカン・ハッスル」のジェニファー・ローレンスの大接戦。どちらが取ってもおかしくない。昨年、主演女優部門に輝いたローレンスは、今年も英国アカデミー賞、ゴールデン・グローブ賞を獲得。しかし、重要な鍵を握るSAGをニョンゴが受賞したことで、ニョンゴに勢いがついた。もしローレンスが受賞した場合、2年連続の受賞となり、たった23歳にして、トム・ハンクス、スペンサー・トレイシー、キャサリーン・ヘップバーンなど、史上5人しかいない稀少な例のひとりに加わることになる。

アニメ部門:「アナと雪の女王」

この分野は「アナと雪の女王」と宮崎駿の「風立ちぬ」の勝負。宮崎駿はハリウッド業界内で大きな尊敬を集めており、これが引退作であることを惜しむ人は多い。作品自体の評価も非常に高く、相当に有力だが、ディズニーアニメ「アナと雪の女王」は、11月中旬に北米公開されたというのに、今もトップ10内に君臨。その大ヒットぶりには目を見張るものがある上、批評家の評価も高い。明るく、楽しく、心に残る音楽に満ちた、この王道ミュージカルがやや優勢と見る。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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