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2015年オスカーは“ヴァージンの年?”監督、主演男優部門の有力候補はニューフェイス揃い

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト

次のアカデミー賞は、3ヶ月半先。賞ねらいと位置づけられる作品で、まだ誰も見ていないものも残っているが、オスカー予測は早くも出始めている。おもしろいことに、有力視されている人々の多くが、一度も候補入りしたことがない、“オスカー・ヴァージン”だ。その傾向はとくに、主演男優部門、監督部門で顕著に見受けられる。

主演男優部門で候補入り確実と言われているのは、「Theory of Everything」のエディ・レッドメイン。レッドメインが演じるのは、学生時代に筋萎縮性側索硬化症(ALS)と診断され、余命は2年ほどと宣告されながらも、研究を続け、著書を出版した理論物理学者スティーブン・ホーキンズ。難病が次第に進行していく様子をとらえ(映画は順番どおりに撮影するものではないので、なおさら難しい、)しかも後半はほとんどせりふもないという状況で、感情を見事に表現してみせた。日本では主に「レ・ミゼラブル」で知られているが、レッドメインは、まだ31歳にして、すでにオリヴィエ賞とトニー賞に輝いている。

ほかの有力候補は、「バードマン」のマイケル・キートン、「The Imitation Game」のベネディクト・カンバーバッチ、「フォックスキャッチャー」のスティーブ・カレルら。いずれもベテラン俳優だが、オスカー候補入りしたことはない。さらに、カンヌ映画祭で男優賞に輝いたティモシー・スポール(『Mr. Turner、』)「Selma」でマーティン・ルーサー・キング・Jr.を演じるデビッド・オイェロウォも、もし食い込めば初ノミネーションとなる。すでにノミネーション歴のある俳優では、「St. Vincent」のビル・マーレイ、「Nightcrawler」のジェイク・ギレンホール(『ブロークバック・マウンテン』で助演部門にノミネート)などが候補入りの可能性ありだ。

監督部門の “ヴァージン”は、「Whiplash」で大絶賛を受けている29歳のデイミアン・チャゼルや、「The Imitation Game」のモルテン・ティルドゥムら。「6歳のボクが、大人になるまで」で候補入り確実とされるリチャード・リンクレイターも、脚色部門では2度ノミネート歴があるが、監督部門はこれまで一度もない。クリストファー・ノーラン(『インターステラー』)も同様に、脚本部門で2度候補入りしているものの、もし今回監督部門に入れば、初めてとなる。「バードマン」のアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥは過去に「バベル」で、また「フォックスキャッチャー」のベネット・ミラーは「カポーティ」で、この部門に候補入りをしており、次あたりにチャンスがありそうな「Theory of Everything」のジェームズ・マーシュは、ドキュメンタリー部門で受賞歴がある。また、まだ誰も見ていないが、アンジェリーナ・ジョリー監督の「Unbroken」もかなり期待されており、すでにオスカー女優である彼女が、初の監督部門候補入りを果たすことも、あるかもしれない。

主演女優部門のロザムンド・パイク(『ゴーン・ガール』)やフェリシティ・ジョーンズ(『Theory of Everything、』)助演男優部門のJ・K・シモンズ(『Whiplash、』)助演女優部門のエマ・ストーン(『バードマン』)など、ほかの部門でも“ヴァージン”たちの健闘は見受けられそうだ。

とは言っても、これから先、まだ何があるかわからない。思いもかけない有力候補が突然現れる余地はまだまだ残っており、今年末から次々に発表される多くの賞の結果も、オスカーの行く末に影響を与える。しかし、初めての顔ぶれがいつもより多く揃うとしたら、それだけで、今年のオスカーレースは、より新鮮さを感じさせるものになるかもしれない。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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