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オスカーノミネーション結果を分析。番狂わせアリのノミネーション、この後どうなる?

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト

第87回オスカーノミネーションが発表になった。最有力と思われている「6歳のボクが、大人になるまで。」「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」などは、作品賞を含む主要部門でしっかり候補入りしたが、予想外の結果もいくつかあり、オスカー戦線の流れに、変化を生じさせている。特筆すべきことを、以下にいくつか挙げてみよう。

突如勢いを得た「アメリカン・スナイパー」

最大のサプライズのひとつは、「アメリカン・スナイパー」が6部門でノミネートされたこと。業界内で尊敬を集めるクリント・イーストウッドが、実話にもとづく戦争映画を撮るということで、早くからオスカー狙いと位置づけられてはきたが、アワードシーズン初期に、この作品はほとんど何も獲得していない。各都市の映画批評家賞にも引っかからず、ゴールデン・グローブでもノミネーションはゼロだった。しかし、この10日ほどで、状況は急速に好転。作品は、オスカー予測上、最も大事とされるPGA(プロデューサー組合賞)に、イーストウッドはDGA(監督組合賞)にノミネートされた。SAG(俳優組合賞)では空振りしたが、オスカーでは見事、ブラッドリー・クーパーが主演男優部門に食い込んでいる。興行面で好調な滑り出しを見せていることも、この後、さらに拍車をかけるかもしれない。イーストウッドは監督部門へのノミネートを逃したものの、プロデューサーとしても名を連ねており、作品が受賞すれば、イーストウッドの家には、またひとつオスカー像が増えることになる。

勢いを失った「Selma」

逆に、アワードシーズン前半には勢いたっぷりだったのに、ここへきて息切れを見せているのが、アヴァ・デュヴァーナイ監督の「Selma」だ。マーティン・ルーサー・キング・Jr.を描くこの映画は、批評家から高く評価され、作品部門、監督部門、主演男優部門で有力とされてきた。だが、先日のゴールデン・グローブでは、歌曲というマイナーな部門で受賞しただけ。主演のデビッド・オイェロウォは、イギリス人だというのに英国アカデミー賞にもノミネートされなかった。オスカーでは、作品部門にこそ入ったものの、監督、主演男優部門は逃している。事実とやや違うという指摘が出ていることや、昨年の受賞作が、やはり黒人の歴史をテーマにした「それでも夜は明ける」だったことなどが、不利に働いた可能性もある。

「LEGO (R)ムービー、」エイミー・アダムス、ジェニファー・アニストン、ジェシカ・チャステインの候補漏れ

アニメ部門で最有力と思われていた昨年の大ヒット映画「LEGO(R)ムービー」は、作曲部門には入ったが、本命のアニメ部門からは候補漏れ。全米各地の批評家賞を多数受賞してきただけに、かなりの驚きだった。アメリカの一般観客はCGアニメを圧倒的に好むが、オスカーの候補作を決めるアニメの専門家たちは、伝統的な形式のアニメに敬意をもつ傾向がある上、2014年は記録的な数のアニメが製作されたことも障害になったと考えられる。

女優部門にも、意外な候補漏れがあった。インディーズ映画「Cake」のために太り、ノーメイクで出演したジェニファー・アニストンは、SAG、ゴールデン・グローブにノミネートされたが、オスカーでは「Two Days, One Night」のマリオン・コティヤールに負けることになった。5度のノミネーション歴をもち、今年もゴールデン・グローブを獲得したばかりのエイミー・アダムス(『ビッグ・アイズ、』)今年は「A Most Violent Year」で3度目の候補入りがささやかれていたジェシカ・チャステインも、涙を飲んでいる。

「6歳のボク〜」の最大のライバルは、「グランド・ブダペスト・ホテル」か、「バードマン」か

作品部門で有力なのは「6歳のボク〜」と「バードマン」と思われてきたが、ここにきて「グランド・ブダペスト・ホテル」もフロントランナーに加わった。先日のゴールデン・グローブでは、「バードマン」を制して、作品賞(コメディまたはミュージカル)を受賞。オスカーでも、最多ノミネーションにあたる9部門で候補入りを果たした。ライバルの「バードマン」も、やはり9部門でノミネートされたが、「バードマン」は、鍵となる編集部門でノミネーションを逃している。編集部門に候補入りしなかった映画が作品賞に輝いたことは、1980年の「普通の人々」以来、一度もない。「6歳のボク〜」は6部門受賞と数では少ないが、主要な部門を抑えている。また、アカデミーはコメディよりもドラマを好む傾向があるのも有力要素だ。

最有力作品は、3月、8月公開作。年末公開が有利という神話は崩壊?

“オスカー狙い”と位置づけされる作品の多くは、秋から年末にかけて公開される。9月のトロント映画祭あたりでお披露目し、アワードシーズンに向かう2、3ヶ月の間、たっぷりとプロモーションすることで、投票者に忘れられないようにするためだ。だが、「6歳のボク〜」は8月公開で、「グランド〜」は3月公開。一方で、年末公開戦略でオスカー候補入りを狙ったアンジェリーナ・ジョリー監督の伝記ドラマ「Unbroken」は、ゴールデン・グローブはまったくの空振りで、オスカーでも撮影、音響編集、音響調整という、マイナーな部門にしか入らなかった。作品が本当に良ければ、見たのが少し前であっても、投票者の記憶に残るのだという教訓だろう。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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