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賭けるならこれを読んでから。L.A.在住映画ジャーナリストが、今年のオスカーを予測分析!

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト

オスカー授賞式まで、あと3日。今年の作品部門は、「6歳のボクが、大人になるまで」と「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」の一騎打ち。どちらが獲ってもおかしくないが、どちらが獲った場合も、これまでの統計的“常識”を崩すことになる。一方で主演女優、助演男優、助演女優部門は、もう決まったようなもの。不確定な要素もまだまだある中、主要部門での受賞者を、予測してみる。

作品部門

リチャード・リンクレーター監督が12年かけて撮影した「6歳のボクが、大人になるまで」は、その大胆な試み自体だけでなく、感動の物語に仕上がっているところにも高い評価が集まっている。各都市の批評家賞を数々獲得し、アワードシーズン出だしには最有力と思われていたが、今年に入って、アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督の「バードマン」が、PGA(プロデューサー組合賞、)DGA(監督組合賞、)SAG(映画俳優組合賞)を総なめし、トップに躍り出た。投票者がまったくアカデミーとかぶらないゴールデン・グローブや各批評家賞と違い、これら組合の会員にはアカデミー会員も含まれるため、オスカー予測の上で、非常に重視される。とくにPGAは、2009年にアカデミーと同じ投票システムを導入して以来、受賞作品が毎年必ずオスカー作品賞にも選ばれている(昨年のPGAは『それでも夜は明ける』と『ゼロ・グラビティ』の同点受賞。オスカーは『それでも〜』が獲得した。)

一方で、英国アカデミー賞は、「6歳のボク〜」が受賞。英国アカデミー賞もまた、ここ6年、オスカーと結果が一致しているのだ。さらに、「バードマン」には、編集部門でノミネートされていないという大きな弱点がある。編集部門に候補入りしていない映画が作品賞を獲ったことは、1980年の「普通の人々」以来、一度もない。また、SAG、DGA、PGAを制覇したのに、オスカーでは音響と編集部門でしか受賞しなかった「アポロ13」の例もあり、「6歳のボク〜」にも、まだまだ希望はたっぷりある。

かつてスーパーヒーローを演じたが、今はぱっとしないハリウッドスター(マイケル・キートン)が、ブロードウェイの舞台劇を演出してキャリアの復活をはかろうとする「バードマン」は、映画スターが内面に抱えるエゴをテーマにしたダークなコメディで、業界内ジョークも多く、業界人の心に大きく響く作品。だが、独自の作品を作り続けてきたリンクレーターは、静かに尊敬を集めてきた存在でもあり、彼以外の誰もやらなかったであろう「6歳のボク〜」を応援する人も確実にいる。この部門は、本当に予測が難しい。

受賞するのはおそらく:「バードマン」

でなければ:「6歳のボクが、大人になるまで」

監督部門

この部門の予測の鍵となるのは、DGA。1948年以来、DGAとオスカー監督賞の結果が一致しなかったことは、7回しかないのだ。2013年には、DGAに輝いたベン・アフレック(『アルゴ』)が、オスカーの監督部門にはノミネートもされなかったとう異例な事態が発生したが、その前の9年間は連続して一致しており、昨年もDGA受賞者であるアルフォンソ・キュアロンがオスカーを受賞している。今年のDGA受賞者は「バードマン」のイニャリトゥ。イニャリトゥが受賞すれば、2年連続でこの部門をメキシコ人が獲得することになる。

受賞するのはおそらく:アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ「バードマン」

でなければ:リチャード・リンクレーター「6歳のボクが、大人になるまで」

主演男優部門

この部門は、「バードマン」のマイケル・キートンと、「博士と彼女のセオリー」のエディ・レッドメインの白熱の争いが続いてきた。ゴールデン・グローブでは、キートンがコメディまたはミュージカル部門、レッドメインがドラマ部門で、揃って主演男優賞を獲得している。しかし、その後、レッドメインがSAGを受賞し、キートンの一歩先に躍り出た。この10年間、SAGの主演男優賞受賞者が、オスカーでも主演男優賞を獲得しているのである。レッドメインはまた英国アカデミー賞の主演男優賞も受賞している。さらに、オスカーは、実在の人物、障害をもった人物を好む傾向にあるのも否定できない。

受賞するのはおそらく:エディ・レッドメイン「博士と彼女のセオリー」

でなければ:マイケル・キートン「バードマン」

主演女優部門

このアワードシーズン、この部門はジュリアン・ムーアのひとり勝ちが続いてきた。オスカーも、彼女の手に渡るのは、ほぼ確実。「アリスのままで」でムーアが演じるのは、50代にしてアルツハイマーと診断された言語学の教授。言葉の専門家であるのに、言葉を忘れていく病を抱えた彼女の内面を、見事に表現している。そもそも、実力派として知られるムーアがこれまで一度もオスカーを受賞していないこと自体が驚きで、「そろそろ彼女にあげなければ」というムードが、アカデミー会員の中にあると思われる。

受賞するのはおそらく:ジュリアン・ムーア「アリスのままで」

でなければ:ムーア以外はありえない

助演男優部門

この部門も、「セッション」のJ・K・シモンズがありとあらゆる賞を制覇してきた。シモンズの役は、スパルタという表現を大きく越えた、音楽学校の鬼教師。彼がスクリーンに出てくるだけで、観客も体をこわばらせてしまうくらいの恐ろしさだ。「フォックスキャッチャー」のマーク・ラファロの控えめで細かい演技を支持する声もあるが、シモンズは長年、個性派の助演男優として陰で支えてきた存在。ここでもまた、「そろそろ彼に」という思いがありそうだ。

受賞するのはおそらく:J・K・シモンズ「セッション」

でなければ:シモンズで決まり

助演女優部門

この部門は、「6歳のボク〜」のパトリシア・アークウェットが独走してきており、オスカーでも、ほかに逆転されることは、まず考えられない。ふたりの子供を抱えて離婚したシングルマザーが、間違った男に出会って不幸な再婚をしたりしつつも、愛をもってわが子を育てていく様子を、12年にわたって演じてきた。ノミネート歴19回のメリル・ストリープ(『イントゥ・ザ・ウッズ』)を除けば、この部門は新鮮な顔ぶれが並んでいる。アークウェットがオスカーにノミネートされたのは、これが初めて。「バードマン」のエマ・ストーンも初ノミネーションで、キーラ・ナイトレイ(『イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密』)は9年ぶり、ローラ・ダーン(『Wild』)も23年ぶりのノミネーションだ。

受賞するのはおそらく:パトリシア・アークウェット「6歳のボクが、大人になるまで」

でなければ:ほかは可能性なし

脚本部門

WGA(脚本家組合賞)は、「グランド・ブダペスト・ホテル」のウェス・アンダーソンが受賞している。が、脚本家組合のルールで、「バードマン」は資格がなく、そもそも選考の対象に入っていなかった。そうったルールの関係で、WGAとオスカー脚本部門の結果が食い違った例は、過去にも多数ある。だが、「グランド〜」は、「バードマン」と並んで最多9部門で候補入りしているだけに、作品賞、監督賞が無理ならここでということが十分ありえる。

受賞するのはおそらく:ウェス・アンダーソン「グランド・ブダペスト・ホテル」

でなければ:アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ、ニコラス・ジャコボーン、アレクサンダー・ディネラリスJr.、アーマンド・ボー「バードマン」

脚色部門

この部門は、なかなかの強敵が揃う。WGAは「イミテーション・ゲーム」が受賞したが、「アメリカン・スナイパー、」「セッション、」「博士と彼女のセオリー」がオスカーを獲ってもまるで不思議はない。ところで「セッション」は、デイミアン・チャゼルが自らの体験にインスピレーションを得て書いたものだが、先に短編映画として製作したものを長編にしたため、オスカーでは“脚色”の部門に入れられている。

受賞するのはおそらく:グラハム・ムーア「イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密」

でなければ:デイミアン・チャゼル「セッション」

外国語映画部門

この部門は、毎年、ノミネーション段階からいろいろと論議を醸し出す傾向がある。今年も、カンヌ映画祭で「ある視点」部門で最高賞を受賞した「White God」や、やはりカンヌの「ある視点」部門で審査員賞に輝いたスウェーデンの「Force Majeure」が候補入りを逃したことが話題になった。一番有力と思われるのは、ポーランドの「Ida」と、ロシアの「Leviathan。」自分がユダヤ人だと知らずに修道女として育てられた若い女性を描く「Ida」は、撮影部門でもオスカーにノミネートされており、英国アカデミー賞の外国語映画賞も受賞している。一方で、政府の腐敗を描くドラマ「Leviathan」は、昨年のカンヌ映画祭コンペ部門で脚本賞を受賞した。

受賞するのはおそらく:「Ida」

でなければ:「Leviathan」

長編アニメ部門

アニー賞は「How to Train Your Dragon 2」(『ヒックとドラゴン』の続編)が受賞したが、アニー賞とオスカーは、必ずしも一致しない。「シュガーラッシュ」がアニーを受賞した年、オスカーは「メリダとおそろしの森」が受賞している。「ヒックとドラゴン」アニーを受賞したものの、オスカーは「トイ・ストーリー3」が獲得した。「ヒックとドラゴン」を支持する声も強かったのだが、さすがに「トイ・ストーリー3」は強敵すぎた。続編でついに念願のオスカー受賞となるか。

受賞するのはおそらく:「How to Train Your Dragon 2」

でなければ:「ベイマックス」

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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