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ハイチ支援、多彩な恋愛、そして今度は麻薬王の独占インタビュー。オスカー俳優ショーン・ペンの数奇な人生

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
シャーリーズ・セロンと交際時のペン。私生活でも慈善活動でも話題を提供してきた(写真:REX FEATURES/アフロ)

ショーン・ペンが、またまた世間を騒がせている。そして今回も、映画とはいっさい関係がない。

ペンが執筆したメキシコの麻薬王ホアキン・グズマンの単独インタビュー記事が、8日(土、)「Rolling Stone」誌に掲載された。グズマンは昨年7月の脱獄以来、行方をくらましていたお尋ね者だ。記事の中で、ペンは何度か自分のことを“ジャーナリスト”と呼んでいる。たしかに、これは、多くのジャーナリストがやりたくてもかなわなかったスクープ記事と言えるだろう。過去にも彼は「San Francisco Chronicle」紙などに寄稿したりしているが、俳優、アクティビストのほかに、正式にこれも肩書きに加えたようである。

アメリカとメキシコの政府が必死になって探している人物に彼が秘密で接触したことには、違法ではないとはいえ、非難の声も出ており、おそらく彼は、なんらかの証言のために出廷させられることになりそうだ。しかし、この取材を行うと決めた時から、それくらいの覚悟はできていたはず。ペンは2002年、ブッシュ政権に反対するべくイラクを訪れているし、2008年には、アメリカ人が渡航を許されていないキューバに渡り、ラウル・カストロに会っている。バッシングには慣れている上、2005年にはハリケーン・カトリーナで大きな被害を受けたニューオリンズにいち早く向かい、2010年には地震の被害に遭ったハイチを訪れ、最悪の状況での救援活動も体験している彼にとって、裁判所に呼び出されるくらい、どうということはない。ついでに、ペンは、ずいぶん前に、刑務所暮らしも体験している(パパラッチに暴力を振るった罪。60日の実刑判決を受け、33日で出所した。)

グズマンのインタビュー記事が公開された夜、ペンが、ハイチ支援のチャリティイベントに元妻のマドンナと一緒に出席し、仲睦まじく写真撮影に応じていたことも、注目を集めた。ペンとマドンナは80年代後半に4年間結婚していたが、当時は、ペンがマドンナに家庭内暴力をふるった疑惑がゴシップ雑誌を騒がせている(近年になって、マドンナは、この疑惑を否定している。)

恋愛や結婚に関するお騒がせは、その後も後を絶たない。96年に結婚したロビン・ライトとは、離婚申請をしては取り下げるということを2度行った末、3度目の申請で、2010年に正式離婚。そのすぐ後には24歳年下のスカーレット・ヨハンソンと短くも熱いロマンスを楽しみ、2013年末には、長年の友達だったシャーリーズ・セロンと交際を始めた。ふたりは、ペン監督、セロン主演で、支援活動をする女性(セロン)を主人公にした映画「The Last Face」(今年北米公開予定)を、セロンの生まれ故郷南アフリカで撮影。昨年のカンヌ映画祭にはセロンにお供をしてペンもレッドカーペットを歩くなど、熱愛ぶりを見せつけ、結婚間近とも言われていたが、その直後に破局している。

そうやって常にマスコミに登場し続けている一方で、俳優業のほうは、ずいぶんごぶさただ。ここ4、5年の主演作といえば、昨年の「ザ・ガンマン」くらいだが、この映画の北米興収はたった1,100万ドルで、つまりほとんど誰も見ていない。その前は「LIFE!/ライフ」に小さな役で出たのと、これまた不発に終わった「L.A.ギャングストーリー」だ。「ミスティック・リバー」と「ミルク」で2度のオスカー主演男優賞に輝き、「デッドマン・ウォーキング」「ギター弾きの恋」「I am Sam アイ・アム・サム」でもノミネートされた実力派中の実力派だが、今、彼の中で、演技の重要度は低いということらしい。俳優として出演する将来のプロジェクトは、今のところひとつも上がっていない。

さまざまなジャンルの映画で、さまざまな顔を見せてきてくれただけに、彼の不在は、映画ファンにとってやや残念なこと。だが、人は変革していくものだ。55歳の彼は、人生の違う場所にいるのだろう。次は何をやらかしてくれるのかと思うと、楽しみでもある。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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