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ジョニー・デップの離婚で一番の驚きは、彼がprenup(婚前契約)を交わしていなかったこと

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

ジョニー・デップとアンバー・ハードが破局した。

3日前に母を亡くしたばかりのデップに対してハードが離婚をつきつけたというのも驚きだったが、もっと衝撃だったのは、たった15か月しか結婚していなかったにも関わらず、彼女が配偶者サポートを要求したことだ。さらに、夫妻は、セレブはもちろんアメリカの金持ちの間では常識であるprenupを交わしていなかったというのである。デップは、即座に、裁判所に対して、ハードの配偶者サポート要求を棄却するよう嘆願を出した。また、ハードが自分の弁護士代を自分で払うことも要求している。

カリフォルニアでは、離婚をする場合、どちらが離婚の原因を作ったかは関係なく、基本的に、結婚中に得た財産を平等に分ける。また、しばしば、離婚後に一方の生活水準が極端に下がらないよう、お金を稼ぐほうが稼がないほうに対して、一定期間、配偶者サポートを払う。金額や期間はそれぞれの場合によって異なるが、つまり、仕事をせずに酒やドラッグばかりやっている相手に愛想を尽かして別れたのに、家計を支え、子育ても一生懸命やってきた自分が相手に対して払うことになった、というケースは、しょっちゅうあるのである。

そういったダメージを最低限に食い止めるためにあるのが、prenupことprenuptial agreementだ。離婚した場合、誰が何を受け取るか、配偶者サポートはどれくらいの期間、いくら支払われるのかなどを含めた細かい条件を定めるもので、その名のとおり、結婚する前に、双方ともそれぞれに弁護士についてもらって署名をする。しかし、prenupは必ずしも絶対というわけではなく、あった場合も、それに打ち勝つことは可能だ。たとえば、スティーブン・スピルバーグの最初の妻エイミー・アーヴィングは、prenupが紙ナプキンに書かれていて、アーヴィング側には弁護士がついていなかったことを理由に争い、1億ドルを手にした。これに懲りて、スピルバーグは、ケイト・キャプショーとの結婚前にはきちんとした形でprenupを取り交わしている。また、ハル・ベリーは、2度目の夫エリック・ベネイとの結婚前にこれを取り交わしていたが、ベネイの連れ子と非常に親しくなり、贅沢に慣れたその子に辛い思いをさせないため、prenupを破って、配偶者サポートを払うことに同意している。

若くして結婚した時は、似たような収入レベルだったので必要ないと思っていたら、離婚までの間に一方が大成功してしまったというケースもある。その結果、ジェシカ・シンプソンはニック・ラシェイに1,000万ドルを払い、リース・ウィザスプーンはずっと収入の低いライアン・フィリップと財産を平等に分けている。

しかし、ジョニー・デップは、50歳を過ぎてから、自分より圧倒的に収入の低い相手と結婚をするのに、この契約を交わしていなかったのである。それがロマンチックなことではないからだったのかもしれない。プロポーズをしたばかりなのに、今度はお金の配分についての契約書を渡したとあれば、相手に、「私のことを永遠に愛すると言ってくれたばかりじゃない」と思われる可能性がある。「セックス&ザ・シティ」にも、トレイ(カイル・マクラクラン)からprenupにサインしてくれと書類を渡されたシャーロット(クリスティン・デイビス)が深く傷つくというシーンがあった。デップは、ハードに対して、「僕は本気で君を愛している、僕らは死ぬまで一緒だ、だから離婚のことなんて考えないでいいんだ」という姿勢を見せたかったのではないだろうか。

シャーロットは嫌々ながらもサインしたおかげで、離婚の時は約束のものをもらってすっきり終わったが、デップにはこれから大きなバトルが待ち受けている。頼もしいことに、デップには最高の味方がついた。「The Hollywood Reporter」の「最もパワフルな弁護士100人」に何度も選ばれているローラ・ワッサーは、アンジェリーナ・ジョリー、アシュトン・カッチャー、キム・カーダシアン、ブリトニー・スピアーズ、ライアン・レイノルズらの離婚を担当した、すご腕離婚弁護士だ。彼女の料金は1時間850ドルで、争いが長引けば、デップにとっては相当な出費になるが、4億ドル(約440億円)の資産をできるかぎり守るためには、けちっていられない。

交渉に疲れたら、ポール・マッカートニーが、デップの良い話し相手になってくれるはずだ。マッカートニーも、ヘザー・ミルズとprenupなしで結婚し、2年にわたる争いの結果、彼女に4,860万ドル(約53億円)を払うはめになった。この判決が出た時、ミルズは「すごくうれしい。がんばった甲斐があったわ」とコメントしている。それはハードのつぶやきにもなるのだろうか。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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