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ハリウッド映画のセックスシーン:どんな規定があり、どんなふうに撮るのか

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
過激なセックスシーンがある「アデル、ブルーは熱い色」に主演したレア・セドゥ(写真:REX FEATURES/アフロ)

44年前の映画が、今また話題を集めている。「ラストタンゴ・イン・パリ」で、当時19歳だったマリア・シュナイダー演じるジャンヌが、マーロン・ブランド演じるポールにレイプされるシーンは、脚本になく、シュナイダーの合意がないままに撮影されたことが、最近になってメディアを騒がせたのだ。

2011年に亡くなったシュナイダーは、生前に、その体験がとても辛かったことを語っていた。今になってこのことが話題になったのは、2013年にベルナルド・ベルトリッチ監督が受けたテレビインタビューが、数日前にYouTubeに投稿されたせいだ。このインタビューで、ベルトリッチは、「あのレイプシーンは撮影日の朝、ブランドと朝食を取っている時に思いついたもの。女優としてではなく、女性としてのリアクションが見たいと思い、マリアには言わなかった」と告白している。彼はまた、そのせいで彼女は自分とブランドを嫌っている語り、「悪かったと思っている」とも認めた。

この事実に、多くのハリウッドスターが激怒した。ジェシカ・チャステインは、「あの映画を愛する人たちへ。あなたは、19歳の女性が48歳の男性にレイプされるのを見ているのです。監督が企てたのです。気分が悪くなります」とツイート。エヴァン・レイチェル・ウッドは「同感。そんなことをしていいと思ったなんて、このふたりは腐っている」、クリス・エヴァンスも、「あの映画や、ベルトリッチ、ブランドを、もう前と同じふうには見られない。ひどいにもほどがあるよ。僕は本気で腹を立てている」とツイートした。

実際、これは、今日のハリウッドにおいて、絶対に考えられないことだ。映画俳優組合(SAG-AFTRA)は、ヌードおよびセックスシーンに関して、明確なルールを設定し、プロデューサーたちの合意を取り付けている。その役にヌードやセックスが必要になる可能性がある場合は、最初のミーティングあるいはオーディションの前に候補の俳優にそう伝えることがそのひとつ。また、ヌードあるいはセックスシーンを撮る前には、詳細を記した合意書に俳優がサインしなければならない。そういった場面を撮影する時は必要最低限のスタッフしか現場にいてはいけないとの条項もある。

ここで言われる合意書は”Nudity Rider“と呼ばれるもので、どれほど肌の露出があるのか、体のどの部分が映るのか、どんな角度から撮られるのか、時間はどれくらいなのかなど、こと細かい記述がなされている。たいていの場合、その内容は、映画にプロデューサーと俳優のエージェントまたはマネージャーが話し合って決める。何か問題が生じて撮影開始に支障が出ないよう、この合意書は、撮影のずいぶん前に用意されるのが普通だ。アンバー・ハードは、現在、「The London Fields(未公開)」のプロデューサーから契約違反で訴訟されているが、”Nudity Rider”の内容に合意し、サインをいたにも関わらず、彼女がヌードシーンやセックスシーンを拒否したり、プロデューサーに無断で削除したりしたのが、違反内容の大きな部分とされている。訴状によると、この"Nudity Rider”には、映画完成時にハードは先に映画を見せてもらい、それらのシーンをそのまま残していいか意見を言う権利も与えられていると記述されていた。(http://bylines.news.yahoo.co.jp/saruwatariyuki/20161122-00064705/

ヨーロッパ映画だと事情はまた別

しかし、これは、あくまで現代のハリウッド映画の話。「ラストタンゴ・イン・パリ」の時代にはここまでしっかりしていなかっただろうし、現代でも、ヨーロッパのインディーズ映画となると、必ずしもこの通りではない。

ラース・フォン・トリアー監督は、「メランコリア」でヌードになるキルステン・ダンストと、とくにそのシーンについて話し合ってはいないと語っている。「その部分は、もう脚本にあったし、これをやるのに抵抗はないかと聞いただけ。それが一番簡単」とのことだ。

カンヌ映画祭のパルムドールに輝いた「アデル、ブルーは熱い色」に主演したレア・セドゥは、アブデラティフ・ケシシュ監督が10分のセックスシーンに10日間もかけたと不満を漏らしている。また、全撮影期間は2ヶ月ほどと聞いていたのに、5ヶ月以上もかかったとも言った。彼女の恋人を演じるアデル・エグザルコプレスも、ケシシュ監督が要求していたようなことを要求する監督はめったにいないだろうと述べている。そうなった背景として、セドゥは、「フランスはアメリカと違うの。監督がすべての権力をもっていて、出演契約をしたら、言われるとおりにしないといけない。ある意味、罠にはまってしまうの」と説明している。(彼女らの発言に激怒したケシシュ監督は、裁判を起こしてやると脅しをかけたが、実際に行動に移してはいない)。

見せたくない部分は小道具で隠す

SAG-AFTRAの規約にもあるが、撮影当日は、極力、クルーの数を減らす上、俳優たちが少しでもやりやすいよう、あらゆる工夫がなされる。たとえば、エイドリアン・ライン監督(『幸福の条件』『ロリータ』『運命の女』)は、遠方から長いレンズで撮り、静かすぎて俳優が緊張しないよう、「今のは良かったよ」などとできるだけ声をかけるようにしているとのことだ。

体ができるだけ直接触れ合わないよう、見えないところにクッションが配置されていることも多い。また、全裸という設定でも、俳優はボディストッキングと呼ばれるものを身につけており、男性は性器の上にプロステティックをつけている。おふざけが好きなチャニング・テイタムは、「君への誓い」で、小道具係にわざとものすごく長いプロステティックを作ってもらった。愛する妻(レイチェル・マクアダムス)が事故で記憶を失くしてしまい、自分が夫だということもわからなくなってしまったというストーリーで、彼が家の中で裸でいるところを見た彼女がびっくりするシーンなのだが、「レイチェルが本当に衝撃を受けているリアルな表情が撮れると思ってやったのさ。なのに、彼女はなかなかあの部分を見てくれなかった」ということだった。「アデル、ブルーは熱い色」でも、女性の性器の上に、偽物の性器がかぶせられている。

セックスシーンの動きに関しては、監督によって、事前にきっちり決めるという人もいれば、自然な流れにまかせるという人もいて、さまざまだ。現在北米公開中の「マリアンヌ」で、ロバート・ゼメキス監督は、ブラッド・ピットとマリオン・コティヤールのセックスシーンを事前にきっちり決め、リハーサルをした。一方、ライン監督は、たとえば「危険な情事」の台所でのセックスシーンのように、おもしろいことが起こり得る状況を作り上げるようにしているという。

俳優たちが良く知る関係になった、撮影期間の後半に、こういったシーンをもってくるようスケジュールを組むという監督もいる。だが、必ずしもそうできるとは限らず、今月末北米公開となるベン・アフレック監督の「Live by Night」でアフレックとのセックスシーンがあるゾーイ・サルダナによると、「ああいうシーンは、いつもたいてい初日」なのだそうだ。

さまざまな条件に合意し、現場で配慮をしてもらって撮影したものの、何年もたってから、ヌードになったことを後悔することもある。そういったコメントをしている女優には、ナタリー・ポートマンやエミリア・クラークなどがいる。しかし、ヌードを利用してスターになった例も、少なくはない。シャロン・ストーンは「氷の微笑」で世界的スターになったし、キム・ベイシンガーも「ナインハーフ」で知名度を格段に上げている。「フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ」の主演に抜擢されたダコタ・ジョンソンも同様だ。

セックスが売れるのは、万国共通。それが良いふうに出ることもあれば、悪く出ることもあるだろう。世界に向けて裸をさらす時、俳優が考えるべきことは、たくさんあるのである。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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