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ピープルズ・チョイス受賞で証明されたジョニー・デップの揺るぎない人気ぶり

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
ピープルズ・チョイス授賞式でファンに感謝を述べるジョニー・デップ(写真:ロイター/アフロ)

ドロドロ離婚、DV疑惑、出演映画の大失敗。2016年、ジョニー・デップはさんざんな目に遭ったが、ファンは彼を捨てていなかった。アメリカ時間18日夜に行われたピープルズ・チョイス授賞式で、デップは「お気に入りの映画アイコン」部門を受賞したのである。

ピープルズ・チョイスは、その名のとおり、一般人の投票で決まるもの。部門も「お気に入りのスリラー映画」「お気に入りのSF/ファンタジードラマ」「お気に入りのアクション映画俳優」など多数あり、デップは過去に13回受賞している。

デップ以外の「映画アイコン」部門候補者は、デンゼル・ワシントン、サミュエル・L・ジャクソン、トム・クルーズ、トム・ハンクス。デップの名前が呼び上げられると、客席は総立ちとなり、大きな拍手と歓声が上がった。

舞台に立ったデップは、まず、彼らしいおっとりとした笑顔で「みなさん、お元気ですか?」と客席に呼びかけている。その後、まじめな表情になり、「僕が今日、ここに来た理由は、ただひとつ。君たちのため、人々のためです。良い時も、悪い時も、僕を支え、僕を信頼してくれた、あなたたちのため。ありがとう。ここに僕を呼んでくれたことに、僕は、心底感謝しています。どれくらい僕が感謝しているか、きっとわからないでしょう」と語った。自分にこのような賞をくれたこと、また、人々が自分と自分の家族を応援してくれたことに「強く感動した」と言うデップは、「だから、あなたたちを前にしてありがとうと言うことは、僕にとって、すごく意義のあることなのです」と述べている。

彼のスピーチの間、会場からは何度か「I love you」の叫び声があり、デップも「I love you, too」と答えたりしている。アンバー・ハードがデップにDVを受けていたと訴えを起こして大騒ぎになっていた最中に彼がバンド仲間とツアーをした時も、各地でファンは変わらず彼を大歓迎していた。同じ頃に公開された「アリス・イン・ワンダーランド/時間の旅」が北米興収7,700万ドルとがっかりの結果に終わり(1作目の4分の1以下)、「Forbes」からは「最もギャラをもらいすぎている俳優」に名指しされて、ハリウッド業界関係者が、彼のスターとしての力に疑問を持つようになっても、人は、まだデップが大好きだったということである。

年が明けてからも明るくないニュースに見舞われてきただけに、昨夜のデップのファンに対する言葉は、本音だろう。先週、デップは、元ビジネスマネージャーを、詐欺や過失などの被害で訴えている。その1日前には、ハードとの離婚がついに完全決着したとの報道が出て、争いがまだ引きずられていたことがわかった。デップがハードに700万ドルを払うことで8月に双方は合意していたのだが、その後もハードは書類にサインをしなかったらしい(デップ側は、わざと事を引き延ばしているハードに10万ドルの罰金を命令してほしいと裁判所に要請したが、認められなかった)。その間、ハードはまた、デップの名前こそ出していないとはいえ、DV体験者として公共広告に出演したり、雑誌「Porter」にエッセイを寄稿したりしている。最終的に落ち着いた合意で、デップは不動産など主要な財産を確保したものの、愛犬のピストルとブーは、両方ともハードに取られてしまった(ソーシャルメディアには『犬がかわいそう』というコメントが飛び交っている)。

これからまたマネージャーに対する訴訟で忙しくなりそうだが、デップはすでに、新しい未来に向けて歩き始めている。現在、デップは、L.A.で、新作「Labyrinth」を撮影中だ。ヒップホップアーティスト、2パックとノートリアス・B.I.G.の殺人事件捜査をめぐるスリラーで、デップはL.A.市警の刑事を演じる。彼はまた、最近撮影が始まった「Murder on the Orient Express」にも出演。アガサ・クリスティの人気推理小説「オリエント急行の殺人」を再び映画化するもので、ケネス・ブラナーが監督と主演を兼任する。デップの役は、被害者のアメリカ人ラチェット・ロバーツらしい。今作にはほかに、ペネロペ・クルス、デイジー・リドリー、ミシェル・ファイファー、ジュディ・デンチ、ウィレム・デフォー、マイケル・ペニャなどが出演する。

そして今年は、ジャック・スパロウを久々にビッグスクリーンで見られる。北米では5月26日、日本では7月1日に公開される「パイレーツ・オブ・カリビアン 最後の海賊」は、デップにまだ映画をヒットさせられる力があるのかどうかが試される、重要な1作だ。しかし、シリーズも、もう5作目。2011年の「パイレーツ・オブ・カリビアン/生命の泉」の北米興収が、最初の3作(1作目と3作目は3億ドル強、2作目は4億2,000万ドル)に及ばない2億4,000万ドルだったことや、昨年の夏、北米で、大作映画の続編の多くが失敗したことを考慮すると、大きくかまえてはいられない。

心に不安がよぎったなら、デップは、昨夜受け取ったトロフィーに触れるといいだろう。あるいは、娘リリー=ローズ・デップが出るCMや映画を見るのでもいい。彼が受けている愛の量は、興行成績という数字だけでは測れない。だからこそ彼は、「映画のアイコン(象徴的存在)」と呼ばれるのだ。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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