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クリス・プラット:「ギャラがとてつもなく高くても、それを理由に出演を決めてはだめ」

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
「パッセンジャー」のプレミアに妻同伴で現れたクリス・プラット(写真:REX FEATURES/アフロ)

いつも笑わせてくれる、サービス精神旺盛な人。ハリウッドを代表する主演俳優の仲間入りをしても、クリス・プラットのそんな部分は、変わっていない。

マーベルのスーパーヒーロー映画「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」に驚きの抜擢をされるまで、プラットは主にコメディ番組「Parks and Recreation」で知られていた。当時は体型もややぽっちゃり気味だったが、役のために肉体改造。続く「ジュラシック・ワールド」「マグニフィセント・セブン」で、アクションスターの肩書きを確実なものにした。

そんな彼が、今度は「パッセンジャー」で、SF恋愛映画に初挑戦する。地球を離れ、 遠く離れたところに移住しようとする人々は、宇宙船の中を冬眠して過ごすのだが、 ジム(プラット)とオーロラ(ジェニファー・ローレンス)だけ、90年早く目が覚めてしまうという物語。登場人物の限られたこの映画で、プラットは最初から最後までたっぷり出演する。それも、今作の大きな魅力だったようだ。

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プラットは、ミネソタ州生まれの37歳。学校ではレスリングとアメフトで活躍するなど、昔から運動は得意だった。高校卒業後はコミュニティカレッジに入学するも中退。ホテルのルームサービス係、洗車、バーテンダーなどいろいろな仕事を転々とし、一時はホームレス生活もした彼が俳優としてデビューするきっかけを得たのは、マウイのカジュアルなレストランでウエイターをしていた時だった。客としてやってきた女性が、彼に役をオファーし、飛びついたのである。「低予算映画で、主演俳優が降板してしまったと彼女は言ったよ。リハーサルは4日後にL.A.で始まるということだった。その 4日後、僕はL.A.にいた。ギャラは700ドルだったよ」と、プラットは人生を変えた出会いを振り返る。

妻は、やはりコメディがお得意の女優アンナ・ファリス(『最終絶叫計画』『ロスト・イン・トランスレーション』)。最近までは妻のほうがもっと有名だったが、「それをずっとそばで見てきたから、自分が有名になった時に正しく対処できたんだと思う」と語る。若い頃のハリソン・フォードを思わせるとも言われる彼に、 今の人生、作品選びの基準、そして最新作「パッセンジャー」について聞いた。

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たくさんのオファーをもらえる中で、「パッセンジャー」を選んだ大きな理由は、何でしたか?

僕はこれまで恋愛映画の主演をやったことがない。そこが、新しかった。映画に最初から最後までたっぷり出続けるというのも、初めての体験だ。ジムという役にも、それは言える。彼はおっとりしていて、物事をしっかり考えるタイプ。何かが起こったからといって、すぐに反応したりしない。これまでに僕が演じた役とは違うんだよ。今作は、僕がこれまで使ったことのない筋肉を使ってみるチャンスを与えてくれたのさ。それに、脚本は、僕が過去に読んだ中で最高だった。この脚本を読んだほとんどの人は、同じことを言うよ。

アクションはすでにたくさんこなしてきていますが、今回は肉体面でも違うチャレンジがありましたか?

重力がなくて浮かんでいるという状態を、ワイヤーに吊るされてリアルにやってみせるのは、すごく難しかった。過去の作品でやったどんなアクションよりも大変だったよ。宇宙服が重いし。40キロくらいあるんだ。撮影開始前に僕とジェニファーはたっぷり特訓をしたし、撮影中も、時間があれば練習していた。

ジムとオーロラは 地球を離れることを決めますが、あなたもチャンスがあれば宇宙に行ってみたいと思いますか?

いや、息子が大人になるまでは、嫌だね。 息子が成人して独立したら、興味を感じるかもな。でも、僕は地球が大好きなんだよね。木々、鳥、ミツバチ、いろんな動物。そういうものを与えてくれるこの星の大自然が好きなんだ。そこから引き離されてしまうのは、辛いだろう。

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ジェニファー・ローレンスとの共演は、楽しかったですか?

映画の中ではすごく素敵なカップルなのに、カメラが回っていないところで嫌い合っていた俳優と女優の話は、たまに聞くよね。たとえ僕らがお互いと合わなかったにしても、僕らもカメラの前でそういうフリをすることはできただろう。でも、僕らは、本当に仲良くなったんだ。ジェニファーは、すごくファニー。僕はこれまでたくさんファニーな人に会ってきているが、その中でも彼女は最高にファニーだよ。彼女は自虐的なジョークが得意。オスカー女優で、ディオールのモデルになっても、本当の自分を忘れていないんだ。

あなたも、有名になっても影響を受けず、自分の置かれた状況を冷静に見ることができているみたいですね。

そうかもしれない。ほかの人よりは、そうできているかも。家族と神様のおかげだね。それに、(有名になるまで)15年も下積みをしてきたことも、関係しているかもしれない。

それでも、人に注目される立場にいることは、時に息苦しいですか?

セレブリティというものにまつわる要素に、僕は対処できていると、自分で思っている。それらの中には、決して楽しく感じられないものも、混ざっている。でも、対処しなきゃいけないんだ。そういうことにぶつかるたび、僕は自分に、「じゃあ、前に戻りたいか?」と聞く。答はノーだ。僕は、今、自分が置かれている状況が好き。家族を養うことができているし、すばらしい脚本をオファーされている。世の中には、おもしろくないことがたくさんあるんだよ。僕にとってのおもしろくないことが、たまたまそれというだけだ。

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ここからさらにキャリアを伸ばしていくために、どんなことを心がけていますか?

正しい意図のもとに作品を選ぶこと。僕は、観客や自分自身を驚かせてみせられるプロジェクトを選ぼうとしている。「最近、これと似たようなのをやったな」というだけの理由で断った映画は、たくさんあるよ。ギャラがとてつもなく高くても、その理由で選んではいけない。もちろん、それは「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」より後の話だけどね。それまで僕は選ばれる側だった。毎回、役を勝ちとろうと闘っていたんだ。突然にしてノーと言えるパワーを得た時、幸いにも僕は、すでにこの業界で長く仕事をしてきていた。

仕事をしていない時は、何をしますか?

釣り。狩猟。森の中に行く。ガレージの掃除。車の修理。何より、妻と息子と時間を過ごすことだね。

「パッセンジャー」は本日より全国公開。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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