「Internet.org」開始から1年:増加する新興国のFacebook利用者と伸ばしたい広告収入
世界最大のSNSであるFacebookがまだインターネットにアクセスしたことがない「次の50億人」をターゲットにした「Internet.org」のサービスが提供されて2015年7月でちょうど1年が経つ。
■「次の50億人」をターゲットにした「Internet.org」
Facebookは2013年8月、全世界にインターネット環境をもたらすことを目指す団体「internet.org」の設立を発表した。インターネットに接続できる環境にない世界の約50億人の人々を対象にしたサービスである。
そして、Facebookは2014年7月、Facebookを含む13のサービスをデータ課金なしで使えるモバイルアプリ「Internet.org」を発表し、まずはアフリカのザンビアで現地通信事業者Airtelと提携して提供開始した。
「Internet.org」では、データ通信が無料でFacebookやGoogle検索、Wikipediaの他に天気予報や生活情報サイト、求人情報、妊婦や女性向けサイトなど、生活に密着したサイトにアクセスが可能である。スマートフォンだけでなくフィーチャーフォンからもアクセスが可能である。アプリは、Androidとフィーチャーフォン向けで、各国の通信事業者に加入しているユーザーが「Internet.org」のサイトあるいはFacebookアプリ経由でインストールできる。
アプリから起動するサービスやサイトを利用する場合はデータ課金されないが、それ以外のWebサイトにアクセスすると課金される仕組みであるから提携している通信事業者にとってもFacebookから先のデータ通信収入が期待されるサービスである。
「Internet.org」の提供開始から1年が経ち、アフリカ、アジア、南米を中心に17か国で提供している。
▼「Internet.org」を提供している主要な国と通信事業者
■売上の95%が広告収入のFacebook
Facebookは2015年7月、2015年第2四半期の業績を発表した 。Facebookを毎日利用するデイリーアクティブ利用者(DAUs)は、2015年6月時点、全世界で前年同期比で17%増の9億6,800万人。月間アクティブ利用者数(MAUs)は、2015年6月時点、全世界で同13%増14億9,000万人だった。
売上高は同39%増の40億4,200万ドルで、そのうち広告売上高が43%増の38億2,700ドルと売上全体の95%が広告収入である。そして広告売上高全体に占めるモバイル向け広告が約76%で、前年同期の約62%から拡大した。
■伸びる新興国でのFacebook利用者と伸ばしたい新興国からの広告収入
Facebookのビジネスモデルは完全に広告に依拠している。つまり世界中でアクセスしてくれる人が多い程、広告収入の増加も期待される。そしてFacebookへの月間アクティブ利用者数14億9,000万人のうち、アジア太平洋地域が4億9,600万人、その他の地域(欧米、アジア太平洋以外)が4億7,100万人と全体の65%を占めている。新興国を中心に着実に利用者が増加している。
しかし一方で、地域別の収入を見てみると、北米では1人当たりの収入が9.3ドル、欧州では3.36ドルに対して、アジア太平洋地域は1.29ドル、その他の地域(欧米、アジア太平洋以外)は0.90ドルしかない。Facebookの売上のうち74.4%が欧米からの収入である。
■慈善活動ではない「Internet.org」
Facebookは新興国、開発途上国において、ますます多くの人がFacebookへアクセスしてくれることによって広告収入の増加を図っていきたいと考えている。そして新興国においてのアクセスのほとんどはモバイルからのアクセスであることから、これからもますます新興国でのモバイルからのアクセスを促進するためにも、現地の通信事業者と提携して「Internet.org」アプリの普及に努めていくことだろう。現地の通信事業者にとっても、一部のサイトには無料でアクセスが可能であるが、それ以外のサイトへのアクセスには課金できることから、通信収入(パケット費用)が期待される。
「Internet.org」はインターネットに接続できない「次の50億人」市場をターゲットにしたサービスである。そのような「Internet.org」の取組みは「Facebookの慈善活動のように見える」が、これは新興国でのFacebook利用者の拡大と、そこからの広告収入増加に向けた重要な礎である。
▼Facebookの地域別売上と比率(2015年Q2)
▼Facebookの地域別1人当たりの収入(2015年Q2)