Amazon、NY地下鉄にナチス紋章と旭日旗の広告:ユダヤ団体からホロコースト想起の批判殺到で撤去
Amazonがアメリカで2015年11月20日から配信を開始したドラマ「The Man in the High Castle(高い城の男)」の宣伝をニューヨークの地下鉄(MTA)で行った。このドラマはフィリップ・K・ディックの作品で第二次大戦でナチスドイツと日本が勝利してアメリカを分割統治するという作品。
■ニューヨーク市長も州知事も反対、広告撤去を指示
このドラマ自体はもちろん歴史的事実とは真逆の内容であり、ネットで見て楽しむ分には何の問題もなかった。問題はAmazonがそのドラマの宣伝を行うために、ニューヨークの地下鉄にナチの紋章と旭日旗をあしらった広告をシートで覆った特別車両を1台走行させたことと、さらに駅に260枚のポスターが貼られていた。
このニューヨークの地下鉄でのAmazonのキャンペーンに批判の声が殺到した。特にナチから迫害を受けたユダヤ人団体からは侮辱的だという意見が多かった。ニューヨークのBill de Blasio市長も「ホロコーストの犠牲者や生存者および家族と市民を不快にするキャンペーンは無責任である」と怒りを表明してAmazonに対して撤去を要求した。またニューヨーク州知事のAndrew M. Cuomo氏も「ナチをテーマにしたような広告をすぐに排除」するようにニューヨーク地下鉄とAmazonに要求した。そして当初は2016年1月まで掲載される予定だった地下鉄でのキャンペーンも既に撤去されたようだ。
アメリカでもこのニュースは大きく報道されているが、ナチの紋章とホロコーストに対する問題からの批判ばかりで旭日旗について触れているニュースはほとんどない。
■今でもアメリカにあるホロコーストへの心咎め
アメリカでは今でもホロコーストの問題はセンシティブだ。アメリカには欧州のように中世の歴史がないので欧州ほどの根強いユダヤ差別意識はなかったものの、南北戦争時にはユダヤ人は両陣営から敵視されていた。1870年代から80年代にかけてユダヤ人がアメリカの社会でも露骨に差別されるようになった。ホテルからのユダヤ人客の締め出し、クラブやリゾートからのユダヤ人の除外などの反ユダヤ主義が実施されたり、私立大学もユダヤ人学生の入学に制限を設けるようなこともあった。
そしてナチが政権を握っていた1930年代のニューヨークでは、黄色いシャツを着たドイツ系アメリカ人のグループが敵意のある反ユダヤ主義の新聞を売っていたようだ。また当時、アメリカ国内の失業問題やアメリカ国民のナショナリズム高揚によって、ナチから迫害を受けていたユダヤ難民の受け入れを歓迎しない空気が強く支配していたことから、ホロコーストやユダヤ人に対する後ろめたさは現在でもまだある。
現在のアメリカにおいてユダヤ系がその影響力を及ぼしているのがメディアとシンクタンク、大学である。ユダヤ人はこれらは世論形成に大きな影響力を発揮することを理解しており、ホロコーストを繰り返さないためにそれらの分野において影響力を及ぼそうとアメリカや全世界でずっと努力を続けている。
Amazonがニューヨークでこのような広告を出したら、どのような展開になるのか理解していなかったとは思えないが、とにかくこれだけ話題になれば「The Man in the High Castle」の宣伝効果はかなりあっただろう。
▼以下が物議を醸し出す原因となったドラマ「The Man in the High Castle(高い城の男)」の宣伝動画