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イスラエルで「ホロコースト生存者の美人コンテスト」:ホロコーストを繰り返さないために全世界に情報発信

佐藤仁学術研究員・著述家
優勝した83歳のRita Berkowitz氏(写真:ロイター/アフロ)

第二次大戦時にナチスドイツによってユダヤ人虐殺、ホロコーストが行われ約600万人のユダヤ人やロマらが殺害された。そして2015年11月24日に、イスラエルのハイファで「ホロコースト生存者の美人コンテスト」が開催された。毎年実施されており、今年で3回目である。

参加には事前審査があり、決勝に残った13人のホロコースト生存者の中から、83歳のRita Berkowitz氏が優勝した。ルーマニア生まれのRita Berkowitz氏は7歳の時に第二次大戦が勃発し、ホロコーストを経験した。戦後1951年にイスラエルに移住してきた。ルーマニアでは当時、贈収賄の仕組みがよく整っていたため、ルーマニア政府はユダヤ人が強制労働や旅行制限といったユダヤ人弾圧の免除を買うことを認めていた。つまりルーマニアでは政府の役人をうまく買収できたユダヤ人は生き延びることができたが、それでも10万人以上のユダヤ人が殺害された。

今回の参加者のほとんど全員が幼少期に戦争が勃発し、ユダヤ人という理由だけで迫害を受け、多くの家族、友人を殺されたが、自らは運よく生き残ることができたユダヤ人たちで、若いころには「美人コンテスト」に参加する精神的かつ経済的な余裕もなかった。

■少なくなるホロコースト生存者

ホロコーストの生存者は現在、イスラエルに約20万人いるが、年々少なくなってきている。「ホロコースト生存者の美人コンテスト」の決勝に残った13人の参加者の合計年齢は1,050歳になる。戦争が終結して70年が経過しているため、参加者は70半ば〜80歳以上だ。来年以降も開催されるだろうが、参加者がこれから若返ることもない。参加者らはステージで全員がホロコーストの思い出を語る。彼女らは全員ゲットーか収容所の経験がある。

■語り継がれるホロコーストの経験

「ホロコースト生存者の美人コンテスト」はイスラエルのキリスト教系団体が主催して毎年実施されているが、今年でまだ3回目である。そしてこのコンテストは日本ではほとんど報じられていないが、ハイファの会場は満員になっている。そしてイスラエルだけでなく欧米ではテレビ、新聞だけでなくソーシャルメディアやネットなど、あらゆるメディアで世界中に発信されている。ホロコースト生存者が少なくなりつつあり、生存者が自らのホロコースト経験を語ることも少なくなってきている。

歴史家たちは、ホロコーストの実態についてはほとんど語ってこなかった。恐ろしいホロコーストの風景と実態は、主に生存者たちの回顧録やコメント、それらを集めてきた作家たちによって記述されてきた。ホロコーストの経験は語り継がれるであろうが、経験者自らが語れる場面と機会は年々少なくなってきている。1年に1回でもこのような「美人コンテスト」という世界が注目するタイトルで生存者がホロコーストの経験を語る場面を作ることが重要になっている。

アメリカや欧州をはじめ世界にはまだ反ユダヤ主義の風潮が残っている。生存者が語るホロコースト経験をあらゆるメディアを通じて全世界に発信することによって、反ユダヤ主義の傾向を少しでも軽減または抑制しようとしている。そこには二度とホロコーストを繰り返させないというユダヤ人の強い信念すら感じられる。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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