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国連WFP、虹彩認証技術を活用してヨルダンのシリア難民への食糧支援に導入:財布なしでも瞳で買い物

佐藤仁学術研究員・著述家

国連WFPは、 瞳の虹彩を読み取ることによって地元商店での買い物の清算ができる革新的な虹彩認証支払システムを、試験的にヨルダンの難民キャンプに暮らすシリア難民の人々を対象に導入した。

現金や食料引換券の代わりに「虹彩」で買い物

このシステムによって難民の人々は、 現金や食糧引換券、 クレジットカードの代わりに、 瞳を読み込ませることによって、 食料品を購入できるようになる。「虹彩(こうさい)」とは目で色のついた部分である。

ヨルダン北部のキング・アブドゥラ公園難民キャンプで暮らすシリア難民の人々は、 従来は国連WFPが電子マネーをチャージしたプリペイド式の食糧引換カードを使い、食品を購入した。虹彩認証支払システムの導入によって、人々はスーパーで買い物をする際に、虹彩認証カメラを見て読みとらせるだけで、食料品の支払いができるようになった。 つまり現金をイチイチ銀行まで降ろしに行ったりしなくてもよい。また食料引換券が盗まれてしまって、買い物ができないということがなくなる。

この国連WFPの革新的な虹彩認証支払システムには、 国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の生体認証による難民登録データが使用されている。虹彩認証プラットフォームの開発は、ヨルダンの現地法人IrisGuard(アイリス・ガード社)が構築し、システムの運営はヨルダンアリ銀行、Middle East Payment System(中東決算システム) の協力のもとに行われている。

カメラが瞳の虹彩を読みとると、システムは自動的にUNHCRの難民登録データに情報を照会し本人確認を行い、中東決済システムを通じてヨルダンアリ銀行に購入者の食糧支援の残額を確認後、支払処理が行われる。

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食糧支援をより効率的で透明性の高いものへ

国連WFPは今後、この新しい虹彩認証支払システムをヨルダン国内の難民キャンプに住むすべてのシリア難民へ適用していく予定。難民キャンプ内での実施評価次第では、難民キャンプ外での使用することも検討している。

国連WFPヨルダン事務所長のマジード・ヤヒア氏は「食糧そのものを配っていたシリア紛争勃発当初の数ヶ月間と比べると、 食糧支援における飛躍的な進歩と言えます。この技術のおかげで、食糧支援がより効率的で透明性の高いものになります。また、難民生活を送る人々にとっては、買い物がより簡単に安全にできるようになります。ヨルダンが中東地域における最新技術の発信地に発展するためにも、この地で革新的な技術が導入されることは、一層意義深いことです」と述べている。

UNHCRの動画を見ると、難民の全員が瞳の虹彩を登録しているようだが、子供が親に代わって「お使い」で買い物に行った時にも虹彩認証支払システムが利用できるのかどうかは不明だ。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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