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ザッカーバーグCEOが中国訪問:2030年までに50億人利用を目指すFacebookが欲しい中国市場

佐藤仁学術研究員・著述家
(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

FacebookのCEOのザッカーバーグ氏は2016年3月に中国を訪問し、劉雲山中国共産党中央政治局常務委員やアリババの創業者の馬雲(ジャック・マー)氏と対談した。

ザッカーバーグ氏は天安門広場でのランニングや万里の長城を訪問して中国を楽しんでいる姿を自身のFacebookにもアップしていた。彼の訪問は中国でも多く報道されていた。

天安門広場をランニングするFacebookのザッカーバーグCEO
天安門広場をランニングするFacebookのザッカーバーグCEO

Facebookがなくても困らない中国人

中国ではFacebookは利用できない。FacebookだけでなくGoogleやTwitter、LINEなども利用できない。かつては利用できたのだ。2008年にFacebookは中国語版は中国本土向けの簡体字、台湾と香港向けの繁体字版を開設した。しかし2009年7月に新疆ウイグル自治区の大規模デモに共産党が武力鎮圧してから、中国共産党の支配下にないFacebookを始めとするTwitterやYouTubeなど海外のSNSの利用はできなくなった。

中国でFacebookなど海外のSNSが利用できなくなってから、もう6年以上が経ち、中国人らは中国ではWeChatやWeibo、QQなど様々な中国のSNSがあり、それらを利用しており、中国にいる限りにおいては、Facebookがなくともコミュニケーションには全く困っていない。

Facebookは全世界で15億人以上が利用しているので、中国人が留学や仕事で中国国外に行き、そこで知り合った友人、知人らとFacebookで繋がったが、中国に帰国すると利用できないので困るくらいだ。日本に留学や仕事で来ている中国人が中国に帰国する時に、日本で利用していたLINEやFacebookが利用できなくなり、困った人もいるだろう。それでもWeChatやQQなどは中国国外でも利用できる。特にメッセンジャーアプリWeChatはアジアやアフリカでも利用されている。中国に帰った中国人とのコミュニケーションツールをFacebookからWeChatに変えればいいだけだ。

劉雲山中国共産党中央政治局常務委員はザッカーバーグ氏との対談で以下のように述べている。中国のネット企業との交流は勧めたものの、Facebook自身に中国市場に戻ってきてほしいとは一言も述べていない。

劉常務委員は会談で、「インターネットは人類共同の新しい家庭のかたちであり、サイバースペースの運命共同体構築は国際社会共通の責任だ。習近平主席の世界インターネットガバナンスに関する「4つの原則」と「5つの主張」は広く賛同を得ており、20年余りの発展を経た中国のインターネットも、中国的特色をもつ独自のガバナンスルールを発展させてきた。先進技術と管理経験を持つフェイスブック社には、中国のネット企業と交流し、経験を共有し、相互理解を拡大し、各国の人々にインターネット発展の恩恵をもたらす力となってほしい」と述べました。

出典:China Radio International.CRI.

それに対してザッカーバーグ氏は以下のように語っている。決してすぐに中国市場に再参入することを強く要求はしていない。中国でのネットの問題は、ザッカーバーグ氏1人が頑張ってもどうしようもないことを理解しているのだろう。

「インターネット大国である中国は、世界のインターネット業界で大きな影響力を持っている。我々は中国をもっと理解し、中国を世界に紹介し、中国の同業者と共に、インターネットを通じてさらに美しい世界を築きたい」

出典:China Radio International.CRI.

中国はFacebookとしても再参入したい巨大市場

FacebookのCEOマーク・ザッカーバーグ氏は12周年記念イベントにおいて、Facebookの利用者を全世界で2030年に50億人にしたいと目標を掲げた。2015年末で世界の人口が約70億人でFacebook利用者は15億9,000万人である。

国連の推計によると2030年には世界の人口は85億人になる。そのうちFacebookの利用者は50億人の利用を目指している。中国は世界一の人口で13億人以上存在している。その中国ではFacebookが利用できないが、中国市場に再参入することができれば、2030年までにFacebookの利用者を50億人までに達成することは容易であろう。

そしてFacebookの収入のうち95%以上が広告収入であり、13億人以上をかかえる中国市場の広告収入源としても、何がなんでも欲しい市場である。中国国内企業の広告出稿、中国へ進出している企業からの広告出稿以外にも海外展開している中国企業の海外市場での広告出稿などが期待される。

中国市場はFacebookにとっても自社の規模拡大と収益増において、重要な市場であるが、中国国内で生活している中国人にとってはもはやFacebookがなくとも生活には困っていない。現在ではWeChatやWeiboがあればコミュニケーションは可能である。海外の良いサービスや機能を取り入れて中国向けのサービスに応用して展開していくことは、むしろ中国人の得意技である。

そもそも中国だけでなく世界中でSNSが無くても生活には困らない。SNSをコミュニケーションのプラットフォームにしている人も、Facebookが無くなったら、違うツールを使ってコミュニケーションをするだけだ。日本でもかつてSNSと言えば「ミクシィ」だったが、Facebookが登場してから「ミクシィ」を利用する人は激減した。SNSは「一寸先は闇」なのだ。現在は絶好調のFacebookもいつまでも安泰とは限らない。そのためにもFacebookとしては早いうちに中国市場に再参入して基盤を固めておきたいのだろう。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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