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アメリカの映画館チェーンAMC:上映中にスマホが使えるように検討したが、結局映画館でのスマホは禁止

佐藤仁学術研究員・著述家
(写真:アフロ)

アメリカの最大級映画館チェーンAMCシアターズのCEOのAdam Aron氏が2016年4月に、同社の映画館チェーンで上映中にもスマホの利用を可能にするように提案した。現在、映画館では日本でもアメリカでも世界中で、通話は当然周囲の迷惑になるし、メッセンジャーやSMS(ショートメッセージ)などを利用するにも、暗い映画館の中では光を発するので周囲に迷惑をかけてしまうことから、スマホや携帯電話の利用は禁止されている。

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若者にとってスマホを奪われてしまうのは左手を奪われるようなもの

AMCシアターズのCEOのAdam Aron氏としては、現在の若い世代はテレビにせよネット動画でもスマホをみながら、視聴していることから、映画館での上映中もスマホ利用を提案した。「22歳の若者にとって携帯電話をオフにしてください、と言われることは、左手を奪われるようなものだ(“When you tell a 22-year-old to turn off the phone, don’t ruin the movie, they hear please cut off your left arm above the elbow. You can’t tell a 22-year-old to turn off their cellphone. That’s not how they live their life.)」と述べて、若者にとってスマホが欠かせないものとなっており、その若者を映画館に引き付けるためにも、上映中でのスマホ利用を提案した。

台頭するネット動画で減少する映画館入場者数

実際、2009年にはアメリカとカナダの映画館の入場者数は14億人だったが、2015年には13億2,000万人に減少している。特にアメリカではNetflix、Huluなどネットでの動画配信の台頭で、映画館に行かなくともPCやスマホ、タブレットでも簡単に、お手軽な価格で映画やドラマが楽しめるようになった。さらにアメリカはCATVが昔から勢いがあり、多くの動画が配信されているため、映画館としても差別化が求められている。また若者にとっては映画館で数時間でもスマホの電源を切らなくてはいけないのは苦痛かもしれない。たしかに上映中でもつまらないシーンではスマホでも見たいと思うだろう。また映画が終わった瞬間に、若者だけでなく大人も含めてほぼ全員がスマホをチェックしている。

このAdam Aron氏の提案にアメリカでは賛否両論があった。しかし結果としてAMCの映画チェーンでは上映中のスマホは禁止のままだ。たしかに上映中に光を発してしまって周囲に迷惑をかけてしまうから、スマホ利用者の専用シートを作るなどの議論があったようだが、現時点ではまだ非現実的だそうだ。また映画の盗撮も懸念される。

だが、近い将来、映画館でもスマホを片手にメッセージをしたり、SNSをしながら映画鑑賞をする時代になるかもしれない。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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