Yahoo!ニュース

フランスのユダヤ人団体、ヘイトスピーチ発言の管理をめぐってソーシャルメディアを訴え

佐藤仁学術研究員・著述家
(写真:ロイター/アフロ)

フランスのユダヤ人青年グループ「UEJF」が2016年5月、ソーシャルメディア上でのヘイトスピーチ監視について、Facebook、Twitter、Googleに対してパリの裁判所に訴えを起こした。UEJFはSNSへの投稿について、誰がどのように管理しているのかを明確にすることを要求している。

UEJFは人種差別反対団体「SOS Racisme」、同性愛差別反対団体「SOS Homophobie」と一緒に2016年5月に発表したレポートによるとTwitter、Facebook、Google傘下のYouTubeが「不快、脅威、暴力助長」とされる投稿を削除したのは非常に少ないと指摘した。特にTwitterとYouTubeでは90%以上の投稿が、削除依頼を出してから平均して15日間は残ったままとのことだ。今回のUEJFの訴えに対して、TwitterとFacebookからは返答がなく、フランスのGoogleはノーコメントとしている。

フランスにも残る反ユダヤ主義

フランスでは今でも反ユダヤ主義的な雰囲気は残っている。最近では2015年1月にパリ20区にあるユダヤ食品専門スーパーマーケットで発生した人質事件では「ユダヤ人はすべて殺す」と言って店内で発砲し、立て籠もった。また2015年2月にアルザス地方のユダヤ人墓地が荒らされて破壊された事件で、10代の少年5人が拘束された。同じ2015年2月にはニースの中心部でユダヤ系施設でテロを警戒中だった兵士3人が、刃物を持った男に襲われた。最近ではムスリム系の移民や難民の増加によって反ユダヤ主義が増長されることが懸念されている。

そもそもフランスのユダヤ人はフランス革命によって集団的に解放されたため、改宗者のように自分は何者かと問わないままフランスでは市民的自由を得た。ところが1886年にエドゥアール・ドリュモンが刊行し、1914年までに200版を重ねた19世紀フランス最大のベストセラーになった「ユダヤのフランス」以降、フランスでは反ユダヤ主義が高まった。この著書の中ではフランスという国がいかに「ユダヤ人の手のうち」にあるか、金融もマスコミによる情報も全てユダヤ人に支配され、さらには全ての不祥事や災難がユダヤ人に起因しているかのように主張されていた。今から見れば荒唐無稽な内容だが、当時フランスで爆発的に売れた。

またナチス時代にはヴィシー政権はパリ警察を使ってユダヤ人狩りに協力した。ヴィシー政権がナチに引き渡したユダヤ人の数は75,000人以上と言われている。このうち生存者は約2,500人、生還率は30人に1人だった。ヴィシー時代の反ユダヤ政策によって、フランスのユダヤ人は国民としての諸権利をはく奪され、ナチスに引き渡されて虐殺された。

誰もが簡単に情報発信できるSNS

Twitter、FacebookなどSNSの普及で誰もが簡単に情報発信できるようになった。またYouTubeへの動画アップも誰もが簡単にできるようになった。それらの投稿の中には、ヘイトスピーチに関するものも多く、特にユダヤ人を標的にした内容は目立っているようだ。中には19世紀のベストセラーのように荒唐無稽な内容の投稿や発言もある。

実際に墓場荒らしや食料品店での発砲事件、ユダヤ系施設での襲撃事件などリアルな攻撃も目立っているから、SNS上での言葉の暴力や実際にはヘイト感情はなくとも、日常の不快感や不満を示すような発言やコメントは多い。どこまでがヘイトスピーチなのか、その線引きも難しくなっている。

そしてSNSではヘイトスピーチに関する投稿や発言も「いいね」やシェア、リツイートであっという間に拡散されていく。SNSでのヘイトスピーチの発言や投稿は削除されたとしても、根本的な人種差別や嫌悪の感情は簡単には消えない。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

佐藤仁の最近の記事