Yahoo!ニュース

LINE上場:これから求められるのは『生活に不可欠でLINEがないと困る』と思われるサービス

佐藤仁学術研究員・著述家
(写真:ロイター/アフロ)

LINEが2016円7月14日にニューヨークで、15日に東京で上場した。日米を通じて今年最大の上場ということもあり世界的にも注目が高い。世界規模で見るとメッセージアプリとしてはライバルと大きな差が開いている。現在のLINEの課題と上場を果たしたLINEに求められるのは何だろうか。

メッセージアプリでは圧倒的にFacebook陣営が強い

日本でこそLINEは誰もが知っていて、多くの人が利用しているメッセージアプリだ。LINEは全世界で2億人以上の利用者がいるがほとんどが日本で国外でLINEが強いのは台湾、タイ、インドネシアの3か国だ。

メッセージアプリで圧倒的に強いのはFacebook傘下のWhatsAppとメッセンジャーだ。それぞれ全世界で10億人以上が利用している。さらに中国のWeCahtやQQなどもFacebookやLINEが利用できない中国国内だけでなく華僑ネットワークのある東南アジアや中国人出稼ぎ労働者が多いがアフリカでも利用者が多く全世界で6~7億人の利用者がいる。LINEの利用者は2億人を超えてから微増のままだが、ライバルの大手メッセージアプリは右肩上がりに利用者が増加している。他の大手メッセージアプリの背中は程遠いく、日本でこそメッセージアプリはLINEだが、世界規模で見るとライバルのWhatsAppやメッセンジャーに加入者数で追いつくのはもはや厳しいだろう。

また最近ではLINEが人気があったタイやインドネシアでも、今までLINEでやりとりしていたのに、Facebookメッセンジャーに切り替えている人が多く「LINE離れ」が顕著だ。メッセージアプリ自体は、無料での通話やテキストのやり取りだからどのメッセージアプリでも差別化はない。タイやインドネシア、台湾などでLINEの人気があったのは、LINEのキャラクターやスタンプに人気があったからだが、現在はFacebookのメッセンジャーでも似たようなスタンプや絵文字が多く登場しており、LINEでメッセージをやり取りする必要はなくなっている。またFacebookメッセンジャーはPCでも利用しやすいとの評判だ。LINEはPCで利用する時には専用のアプリをPCにインストールして利用しなければならずに、それが面倒というアジアの人は多いようだ。

LINEのキャラクターはタイで人気があり、若者の 生活の中に溶け込んでいる。 チュラロンコーン大学の卒業パーティ案内
LINEのキャラクターはタイで人気があり、若者の 生活の中に溶け込んでいる。 チュラロンコーン大学の卒業パーティ案内
インドネシアでもLINEのキャラクターは人気がある。ジャカルタのデパートにて
インドネシアでもLINEのキャラクターは人気がある。ジャカルタのデパートにて

自転車操業のコンテンツ事業から脱却できるか

またLINEの現在の収益はスタンプやゲーム、音楽などコンテンツにも依拠しているが、これらコンテンツ事業は自転車操業で、どれも「当たるも八卦、当たらぬも八卦」で当たれば大きいがリスクがあり、ギャンブルに近い。常に新しいコンテンツを創出して利用者を惹き付けておかなければならない。飽きられてしまったら終わりだ。そしてこのようなコンテンツ事業の競争は非常に激しい。スマホ向けのゲームはmixiやDeNAなどあらゆる会社から提供されているし、音楽もAppleやGoogleなどライバルがたくさん存在している。人気あるコンテンツを常に提供していかなければ、利用者はすぐに他のアプリに行ってしまう。

今後のLINEに求められるのは定期的に安定した売り上げが見込める事業だろう。特に、上場したLINEとしては株主や投資家が納得、安心できるような収益の柱を構築して維持していくことが求められる。

決済系の生活インフラ事業の展開にとって重要な上場

その中で注目されているのが「LINE Pay」に代表されるような決済系の生活インフラに関わる事業だ。ゲームやスタンプのように主観で「好き、楽しい、嫌い、飽きた」と言われ、自転車操業が求められるコンテンツよりも、毎日の生活の中に溶け込んで利用される「生活に直結したサービス」の提供が重要になるだろう。

LINEは日本だけでなく2016年4月にはタイでモバイル送金・決済サービス「LINE Pay」を展開している子会社通じて、タイの公共交通システムやオフライン店舗の電子決済用スマートカード「Rabbit」を提供しているBSS Holdingsと資本提携に合意した。2016年第4四半期にはバンコク地区にて本格展開を行うことを予定している。現地で「Rabbit」は日本のSuicaのようなものでバンコクを中心に多くのタイ人に利用されている。BTS鉄道の乗客はほとんどが利用している。また小売店舗でも利用できる。LINEのリリースによると、バンコク都市圏を中心に4,000台以上のカード読み取り機があり、500万人以上が乗車券の購入やRabbit加盟店での買い物に利用している。そのようにタイ人の生活インフラになっている「Rabbit」なので、「LINE Pay」のサービス名称をタイ国内のみでは「Rabbit LINE Pay」に変更して提供する。またタイでは日本ではサービス開始1年で撤退したデリバリーサービスを2016年5月からタイの物流最大手「Lalamove」と提携し「LINE MAN」という名称で提供開始した。

Rabbitはタイでの生活インフラになっているので、今後の「Rabbit LINE Pay」の展開も期待されている
Rabbitはタイでの生活インフラになっているので、今後の「Rabbit LINE Pay」の展開も期待されている

このような決済に関わる生活インフラの事業を推進していくためには、上場していることは「LINEの会社としての信用度が高まる」ので、今回の上場は重要だ。今後、このような生活インフラ事業、特に決済に関わるサービスを海外で展開していくにあたって上場している企業の方が信用が高い。そのためには東京だけで上場しているよりもニューヨークでも上場していることは企業としての価値も高くなる。これからLINEはタイの「Rabbit」のような現地で根付いている生活インフラに関わるサービスを提供している企業とどれだけ提携できるかがグローバル展開では重要になるだろう。

現在、メッセージアプリとしてのLINEは欧米ではほとんど存在感がない。アメリカ人はLINEを知らない人がほとんどだ。今回ニューヨークで上場してタイムズスクェアの巨大電子看板にLINEのお馴染みのキャラクターが大々的に登場して、メディアでも取り上げられて初めてLINEの存在を知った人も多い。また欧州でもLINEを利用している人はほとんどいない。今回の上場でアメリカでも少しは知名度が上がったが、彼らの多くが現在利用しているメッセンジャーやWhatsAppからLINEに変更するとは考えにくい。だが、たとえメッセージアプリのLINEを知らずに利用されなくとも、欧米諸国において別のジャンルの企業と提携して現地に根付いたサービスを展開し、普及させていくことによって、メッセージアプリのLINE利用者の増加にもつながる可能性はある。

ただ、生活インフラに関わるサービスを国内外で収益の柱にしていくまでには、リアルな店舗や決済を提供している企業との提携が必要になるのでコストも時間も相当にかかる。またサービスを提供しても、それらの認知度を上げて利用してもらうためには信用度だけでなく、プロモーションへの投資も相当必要だ。

LINEは「生活に不可欠でLINEがないと困る」と思われるサービスを提供できるか

メッセージアプリやスタンプ、ゲームなどコンテンツとしてのLINEがなくても、他に代替できるサービスが日本だけでなく海外にもたくさんある。例えばメッセージアプリならLINEでなくてもメッセンジャーなど代替サービスはいくらでもある。さらに決済系のサービスも既に国内外で他企業が類似のサービスを提供しており、LINEが提供することで、それらのサービスに「どれだけの付加価値を提供できるか」が重要になる。

また特に日本人は新しいサービスが登場すると、いっきにサービス利用をやめて新しい方に移行する傾向が強い。かつて日本でSNSといえばmixiだったがFacebookが登場したら、誰もがmixiをやめて一斉にFacebookに移った。ガラケーからスマホへの移行も速かった。またゲームや音楽、動画などのコンテンツの流行り廃りは日本だけでなく世界中で顕著だ。いつまでも日本でメッセージアプリもLINEを使っているかわからない。LINEに変わる新しい便利で画期的なサービスが登場したら、そちらにすぐに移行されてしまうかもしれない。逆にLINEが新たな分野でシェアをライバル企業から顧客を奪い取れることもありうる。

ただLINEはメッセージアプリからゲーム、音楽、動画、マンガ、ニュースや天気、決済、バイトなど様々なコンテンツやサービスを提供している。いわゆる多角的な戦略なので中核になるサービスがどれだかわからないというデメリットはあるが「どれか1つのサービスが倒れても他のサービスで生き残れる」かもしれない。Facebookのように売上の95%以上を広告に依拠しているようなリスクは少ない。

現在LINEが国内外で提供しているサービスはほとんどが代替可能であり、LINEが無くなっても他に提供しているサービスやコンテンツを使えばいいだけで、利用者は「LINEが無くなっても困らない」ものが多い。これからLINEに求められるのは「生活に不可欠でLINEがないと困る」と利用者から思われて、かつ安定した収入につながる事業だ。

そして上場すると投資家の厳しい目にさらされる。メッセージアプリのユーザー数が少しでも減少したりすると、メッセージアプリの利用者をターゲットにして現在LINEは多くの企業が情報発信やクーポン提供などを行っているので、利用者減はLINEの基盤が危ういという悪い印象を与えてしまう。そのため、世界規模でメッセージアプリの加入者も増加させながら、同時に次の収益の柱を目指す事業展開も慎重に行う必要がある。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

佐藤仁の最近の記事