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志布志市のふるさと納税PR動画が、美少女飼育ポルノに見えるのは誤解なのか

千田有紀武蔵大学社会学部教授(社会学)
志布志市のふるさと納税PR動画より

志布志市のふるさと納税推進室がネット上にアップした納税PR動画が話題である。「女性差別的だ」と批判が殺到しているようなので、早晩削除を余儀なくされるのではないか。

私自身もアップされてすぐに見る機会があったが、何とも言えない不安な思いに駆られた。その不安の内容はなんなのだろう。

真夏の学校のプールと思しきところに、スクール水着で浮かぶ女性と、「彼女と出会ったのは、1年前の夏だった」というナレーションで、動画は始まる。学校のプールとスクール水着という組み合わせと、20歳の成人女性が起用されているところがミスマッチであり、まず違和感を掻き立てられる。スクール水着は、学校教育の場以外で着用されることはほとんどない。本来であったら性的な意味が、極力排除されているはずだ。ところがこの水着が性的な意味を持たされてしまっていることは、「暗黙の了解」でもある。「スクール水着? いや競泳用の水着を見間違えているのか? 少女に対する性愛を読み込むなんて、自分は変なのではないか?」と、行政の宣伝動画を、性的な眼差しで見てしまう自分に、まず当惑させられる。小中高校生の年代の女性を起用しなかったのは、ロリータポルノとの批判をかわすためなのだろうか。

そのあとは、なぜか突然、「養って」と迫る女性。「その日から、彼女との不思議な暮らしが始まった」。女性が泳ぐ水中のシーン、プールサイドでけだるく横たわる、寝転ぶ彼女の顔に上から迫る影。「養って」というセリフの唐突さと、タレントの水着のイメージビデオのような作りに驚いていると、今度は女性はプールサイドのテントに入り、「私の部屋!」とはしゃぐ。女性の無邪気さとは対照的に、「これって、女性を飼育するってこと?」という当惑が広がる。飼育もまた性的な文脈があり、監禁事件などの犯罪もよく起こっているために、さらに不安が募る。

そこからの映像は、プールにたらされた一本のホースの先から、顔に延々と水をかけられ、「はぁ!」とあえぐ女性。プールサイドで水着のまま、フラフープで意味なく腰を振り続ける女性、水の入ったペットボトルを取ろうとしても粘性の液体が糸を引き、なぜか取れないという繰り返し、横わたる女性の寝顔のアップといったものが続く。「彼女の触れる水は、天然の地下水だけにした」「いつものびのびと過ごせるようにし、おいしいものをおなか一杯食べさせ、ぐっすりと眠れるようにした」というナレーションが、言い訳のように添えられるのであるが。

また次の夏が来て、「さよなら」といって女性はプールに飛び込む。その映像が今度はウナギへと変わる。「彼女は去っていった。その美しい人の名は、うな子。志布志市の豊かな自然で育ちました」。背景はウナギのかば焼き。「実は人間じゃなくて、ウナギだったんですよ」という種明かし。

この種明かしによって、「ウナギだから、プールで飼育しても変じゃないでしょう? ペットボトルが粘性の液体で糸を引いていたのにも理由があるでしょう? 性的なポルノとしてみたかもしれないけれど、それはあなたの思い過ごしですよ。騙されちゃったでしょう?」というメッセージが伝えられてくる。しかし、「なーんだ、騙されちゃったよ、あはは」という気持ちには、とてもなれない。

なぜならこの映像は、水着を着させて無邪気な風を装ったティーンエイジャーを、性的な目で眺めて消費する文化の存在を、如実に明らかにしてしまっているからである。「実はウナギだったんですよ」という言い訳は、「実は可愛い女の子を見ているだけなんですよ。いやらしい目で見るなんて言いがかりだ」というチャイルドビデオの言い訳と、微妙に重なるような気すらする。私が不安になったのはおそらく、日頃は目を背けているそういった文化を突然突きつけられたからなのではないか。

税金を使ってこういうビデオを作るなんてという批判もある。私は志布志市の納税者ではないので、関係ない。しかし納税者であってもなくても、このような文化を肯定し、助長するようなPR動画を、公の機関が作ってはいけないとは思う。

おそらくこのPR動画を作ったときには、ある程度の「炎上」を予想はしていたのではないか。少なくとも注目を集めるとは思っていただろう。しかし問題は、どう注目を集めるかである。この動画を見て、多くの女性たちは志布志市にふるさと納税する気にはならないだろう。女性の財力など最初からあてにしていないのだろうが、この動画はさすがにまずいというチェック機能が、どこかで働かなかったのだろうかとも思う。このような動画が作っても大丈夫だと思うような場所だと思われたら、むしろ志布志市のイメージダウンにつながるのではないか。

この動画は、また次の少女が出てきて、「養って」といって終わる。その少女が今度は、本当のティーンエイジャーにしか見えないところに、絶望的な気分になってしまう。

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武蔵大学社会学部教授(社会学)

1968年生まれ。東京大学文学部社会学科卒業。東京外国語大学外国語学部准教授、コロンビア大学の客員研究員などを経て、 武蔵大学社会学部教授。専門は現代社会学。家族、ジェンダー、セクシュアリティ、格差、サブカルチャーなど対象は多岐にわたる。著作は『日本型近代家族―どこから来てどこへ行くのか』、『女性学/男性学』、共著に『ジェンダー論をつかむ』など多数。

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