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W杯アジア最終予選、日本のライバルとなるのは?

柴村直弥プロサッカー選手
2次予選最終戦のシリア戦も快勝し、グループ首位で最終予選へ(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

2016年9月1日からスタートする、2018年ロシアW杯アジア地区最終予選。

日本のライバルとなるのはどこの国か?

韓国とは別組になる見込みの中、前回のW杯出場国であるオーストラリアやイランなども強敵だが、2次予選を初戦の敗戦以降、チームの立て直しに成功し、7連勝の首位通過で締めくくった中央アジアの雄、ウズベキスタンをここでは挙げていきたい。

前回のW杯アジア3次予選、最終戦で日本を敗り、グループ1位で最終予選に進んだウズベキスタン。前回のW杯アジア予選を通して、日本が唯一負け越した(1分け1敗)国である。

W杯出場にあと一歩まで迫った前回の最終予選

最終予選では日本と別グループとなったが、早々に日本がW杯出場を決めたグループBとは対照的に、グループAは、ウズベキスタン、韓国、イランの三つ巴となった。

2013年6月18日、同時刻に開催された、ウズベキスタン対カタール、韓国対イランの2014ブラジルW杯アジア地区最終予選の最終戦。

ウズベキスタンがカタールに勝利するという前提において、ウズベキスタンがW杯の出場権を獲得する条件は下記であった。

・韓国がイランに勝利

・韓国対イランが引き分け、かつ得失点差でウズベキスタンがイランを上回る

・イランが韓国に勝利、かつ得失点差でウズベキスタンが韓国を上回る

韓国がイランに勝利した場合はウズベキスタンはカタールに勝利しさえすればよいが、同時刻開催でどのような結果になるかは分からないため、ウズベキスタンは出来るだけ多くの点差をつけて勝つことが求められていた。

試合開始から相手陣内に攻め込み、多くのチャンスを作るウズベキスタン。しかし、なかなか相手ゴールを割ることができずに時間が過ぎていく。

迎えた前半37分、防戦一方だったカタールが、ウズベキスタンの不用意なミスから、この試合初めてのチャンスをゴールに繋げる。

そのまま前半が終了し、攻撃の最後の局面の部分での焦りの見えたウズベキスタンは、勝つことが絶対条件な中、0-1でリードを許した状態でハーフタイムを迎えた。

「今回の最終予選、ずっとこんな感じだったよね。これまでの最終予選の試合を集約したような試合だ。」

2選手がウズベキスタン代表チームに招集されているFKブハラのクラブハウスで、TVで試合を共に観ていたあるウズベキスタン人選手が、私にそう語りかけた。

振り返れば最終予選初戦のホームのタシケントのスタジアムで戦ったイラン戦、チケットは即日完売し、チケットの転売価格は定価の100倍にもなった。

満員のサポーターが応援する中、終始イランを圧倒し、攻め続けたウズベキスタン。しかし、後半ロスタイムの1本のイランのカウンターにより失点し、大事な初戦で0-1の敗戦を喫した。

試合翌日に監督が解任されるという事態を招いた試合であったが、監督交代後のその後の試合も、数多く作り出している決定的なチャンスを決めきれないでいると、カウンターを受けて失点をしてしまい、勝ち点を失う試合が数多く観られたのである。

「韓国対イランの結果次第では得失点差も重要になるし、この状況じゃ相当難しいよね。」

前半を終えての彼の率直な感想だったのだろう。同様の感想が多く飛び交っていた。

韓国対イランは前半を終了して0-0という中、両試合、後半開始。

ウズベキスタン対カタールは依然として0-1で試合が進む中、イランが先制し、1-0でイランがリードしているという速報が入る。

このままイランが1-0で韓国に勝利した場合、ウズベキスタンと韓国との得失点差は5点。ウズベキスタンはカタールに5点差をつけて勝利した上で、勝ち点、得失点差で韓国と並ぶことになる。仮に韓国がイランに追いつき、1-1の引き分けになり、イランとの得失点差争いになったとしても、4点差以上が必要である。

状況は極めて厳しい。

FKブハラのクラブハウスの一室でも暗い雰囲気が漂っていた。

そのような状況下の中、後半15分、FWゲインリフとの交代でピッチに投入されたFWナシモフが、投入直後に同点ゴールを決めた。

一瞬沸いたクラブハウス内も、すぐさま

「まだ同点だもんな…。あと4点は厳しいよな…。」

と誰かがつぶやき、暗い雰囲気が再び漂う。

しかし、後半27分、3分前に投入されたMFゾテエフが逆転ゴールを決めた。

さらに、その2分後の後半29分には、再びFWナシモフがゴール。カタールから立て続けにゴールを奪う。

クラブハウスで観ていた数人の選手たちの腰が浮く。

「もしかして」

「いけるんじゃないか!」

後半終了間際の43分、MFアフメドフがゴールを奪うと、ロスタイムには、途中出場のFWバカエフがゴールを決め、5-1。

「もう1点!」

「いけー!」

気がついたらFKブハラのクラブハウスの一室で観戦していた、私を含む10 数人の選手、スタッフが総立ちで応援していた。

試合は5-1のまま終了し、韓国対イランの試合もそのまま1-0でイランが勝利したため、ウズベキスタンは勝ち点では韓国と並んだものの、得失点差でわずかに1点及ばず、プレーオフに廻ることになった。

※仮に韓国対イランの結果が引き分けであったのであれば、得失点差でウズベキスタンはイランに並ぶことができ、W杯出場権を手にすることが出来ていた。

わずかに1点及ばなかったものの、0-1で前半を終了し、後半に5点以上奪わなければならないという状況下で、最後まであきらめずに一心不乱に戦い、残り30分で5点を奪ったウズベキスタン代表チームの姿には感動を覚えた。

成熟したチームに世界大会で実績のある若手選手たちも加わる

3年前のあの試合を経験した、FWゲインリフやMFアフメドフ、MFトゥルスヌフやDFイスマイロフなど、11人の選手たちが一昨日の2次予選最終戦のメンバーにも名を連ねている。逆境を跳ね返し、絶望的な状況からあと一歩まで迫った経験は、確実に彼らの力となり、今回の最終予選でも力を発揮してくるだろう。

経験豊富なメンバーに加え、2013年U-20W杯でウズベキスタンを世界のベスト8に導いた、FWセルゲエフやMFイスキャンダラフなどもフル代表に入ってきており、日本と対戦することになった場合、非常に厄介な相手となることが予想される。

昨年3月に東京スタジアムで行われた親善試合では日本が5-1でウズベキスタンに勝利しているが、ウズベキスタンは4日前に韓国とアウェーで親善試合を行った(結果は1-1)後に日本に移動し、試合をしたことで疲労の色も見えた上に、主力選手たち数人をケガで欠き、かつ親善試合という位置づけであったため、この試合を基準に考えることは極めて危険であるといえる。

能力の高い選手たちも多く、実力があると言われながらも、あと一歩のところで最終予選で苦汁をなめて来たウズベキスタン。

前回の経験を経て、精神的にも成長した彼らが今回の最終予選にかける思いは強い。

日本とは異なるポットになる見込みであり、日本と同じグループになる可能性がある。

4月12日、運命の抽選が行われる。

プロサッカー選手

1982年広島市生まれ。中央大学卒業。アルビレックス新潟シンガポールを経てアビスパ福岡でプレーした後、徳島ヴォルティスでは主将を務め、2011年ラトビアのFKヴェンツピルスへ移籍。同年のUEFAELでは2回戦、3回戦の全4試合にフル出場した。日本人初となるラトビアリーグ及びラトビアカップ優勝を成し遂げ、2冠を達成。翌年のUEFACL出場権を獲得した。リーグ最多優勝並びにアジアで唯一ACL全大会に出場していたウズベキスタンの名門パフタコールへ移籍し、ACLにも出場。FKブハラでも主力として2シーズンに渡り公式戦全試合に出場。ポーランドのストミールを経て当時J1のヴァンフォーレ甲府へ移籍した

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