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浦和レッズがリベンジに成功した3つの理由

清水英斗サッカーライター

2015年J1第9節、G大阪をホームに迎えた浦和は、FWズラタンのゴールで1-0と勝利を収め、念願の“リベンジ”に成功した。

なぜ、この勝利がリベンジなのか?

昨年末に行われたJ1第32節のG大阪戦は、勝てば浦和のJリーグ優勝が決まる試合だった。勝ち点差5をつけて首位に立っていた浦和は、引き分けでも構わない情勢だったが、終了間際に連続失点を喫し、0-2で敗戦。ショックに引きずられた浦和は残り2節も調子を落とし、結局、G大阪の逆転優勝を許してしまった。

ミハイロ・ペトロビッチ監督が「苦い記憶」と表現する2014年が終わっても、その苦味が消えることはなかった。2015年2月、プレシーズンに行われたゼロックス杯で、またもG大阪に0-2で敗れてしまったからだ。

前年度3冠王者の強さとは何か? G大阪の試合戦略は、省エネのディフェンスと、爆発的なカウンター。この2つに特徴がある。

MF4人とDF4人が自陣に並び、計8人でゾーンディフェンスの網を張り、相手の攻撃を待ち構える。無理に急いでボールを奪おうとはせず、最小限の動きで危険なスペースを埋め、相手にパスを回させる。そして網にボールがかかり、奪ったならば、前線に攻め残りしている2トップの宇佐美貴史とパトリックへ素早く縦パスを送り、一気呵成に攻め上がる。

省エネと、高火力。メリハリの利いたG大阪のスタイルだ。

『トラッキングデータ』もそれを表している。第9節終了時点で、G大阪の1試合あたりの平均走行距離は111.591km。18チーム中16位だ。あまり多くの距離を走っていない。もともとG大阪は個人のスキルが高いチームなので、上記のディフェンス方法に加えて、試合を落ち着かせる技術も巧みだ。ボールを回し、効果的に休憩を取ることができる。

その一方、平均スプリント回数を見ると、G大阪は183回。18チーム中4位という高水準だ。1位の名古屋グランパスとも3回分の差のみ。(※スプリントとは、時速24km以上の走りを示す。50メートル走に換算すると7.5秒以上の速さ)

G大阪は走行距離が少ないが、スプリントをかなり多く行っている。この数字からも、省エネと、爆発的なカウンターというスタイルが浮かび上がる。

一方、ボールをゆっくり保持するスタイルの浦和は、敗れた過去2戦、このG大阪の強烈なカウンターに手を焼いた。いや、浦和だけではない。J1のほとんどのチームが敗れている。だからこその3冠王者だ。

なぜ、今回は浦和のリベンジが成功したのか。その理由は主に3つある。

『トレーラー』を封じ込めた槙野智章

G大阪はディフェンスが自陣を固める分、攻撃に出る距離が長くなり、カウンターの中でも『ロングカウンター』を成立させなければならない。

ここでG大阪を押し上げる『トレーラー』の役割を果たすのが、FWパトリックだ。高さ、強さ、スピードを兼ね備えたパトリックは、縦パスに走り込んでサイドを駆け上がり、敵陣に起点を作って味方のオーバーラップを促す。彼の存在はG大阪の『推進力』そのものだ。

ところが、その戦術トレーラーを、車庫へ押し込んだ男がいる。「パトリックを抑えられるのは自分だけだと思っていた」と語る、DF槙野智章だ。

右サイドへ流れてボールを引き出すプレーが得意なパトリックは、自然と槙野が守るサイドへ顔を出す。しかし、そこで槙野はハイボールに競り勝ち、強いプレッシャーをかけ、パトリックからスペースを奪った。

試合を中継したNHKの表示によれば、後半38分の時点で、槙野は両チーム中トップとなるスピード33.5kmを記録し、33.4kmのパトリックを上回った。「抑えられるのは自分だけ」という言葉は伊達ではない。「(パトリックから)今日は全く推進力を感じなかった」と語る長谷川健太監督が、後半26分に彼をベンチに下げる決断に迫られたほど、この日は槙野の完全勝利だった。

そうであるならと、分の悪い対決になる槙野を避けて、パトリックが左サイドの森脇良太側へ流れる判断も、サッカーでは重要になるかもしれない。しかし、右利きスピード派の彼にとって、プレーしやすいのはやはり右サイドだ。宇佐美のような技巧系のドリブラーは、左サイドから右足でボールをさらしながら仕掛けるプレーを得意とするが、パトリックはそのタイプではない。

パトリックが相手を剥がしてグングン押し上がることができなければ、宇佐美もなかなか自由になれない。G大阪の武器であり、同時に生命線でもある『トレーラー』を封じ込めた槙野は、この勝利の第一の立役者に違いない。

攻守の切り替え。カウンタープレスで圧倒

リベンジが成功した2つめの理由は、浦和が仕掛ける『カウンタープレス』の強度が非常に高かったことだ。

パトリックの推進力に頼れなくても、G大阪は、遠藤保仁を始めとする選手たちが、足下でパスをつなぐスキルを備えている。

しかし、それを封じたのが、浦和が昨シーズンから取り組んでいる『カウンタープレス』だった。ボールを奪われた瞬間、すぐに強いプレッシャーをかけて、ボールを奪い返す。後半39分の先制シーンが、まさにそれだった。

右サイドの関根貴大から柏木陽介へのパスは、今野泰幸にインターセプトされるものの、すぐに切り替えてカウンタープレス。今野からボールを預けられた藤春廣輝のパスを、李忠成が奪い返すと、反対の左サイドからカウンター返しに出る。

カウンターよりも怖いのが、カウンター返しだ。ディフェンスが整わないG大阪の隙を突き、後方でバランスを取っていた宇賀神友弥や阿部勇樹までもが、”ここぞ”とばかりにG大阪のお株を奪うメリハリを付けたスプリントで、ゴール前になだれ込む。李から武藤雄樹を経由し、最後は宇賀神の折り返しを、ズラタンが押し込んだ。

G大阪の守備から攻撃の切り替えについて、今野は「ボールを取った瞬間に、前にいる(浦和の)5人がプレスしてきて、ロングボールを蹴らされる場面が多かった。ダイレクトパスを使うとか、ドリブルではがすとか、ボランチとして打開できればよかったけど、うまくいかなかった。前への推進力を出せなかった」と振り返っている。

浦和のカウンタープレスに押され、さらにパトリックの推進力に頼ることもできなければ、G大阪は打つ手がない。次に対戦するときは、この点を改善しなければならないだろう。

サイドを圧倒されたG大阪

リベンジが成功した3つめの要因として、G大阪はDFが足りず、サイドの攻防で常に押され続けたことが挙げられる。

岩下敬輔、米倉恒貴、オ・ジェソクのDF3人を負傷で欠くG大阪は、ボランチが本職の小椋祥平を右サイドバックに回さざるを得ず、急造の4バックを形成した。

ボランチの守備と、サイドバックの守備は全く違う。ボランチは360度、至るところに味方がいて、連係しながら守る能力が重要になるが、サイドバックはより1対1の戦いにさらされる。しかも浦和はサイドチェンジを多用するため、小椋は中のカバーと、外への寄せを、頻繁に繰り返さなければならない。宇賀神、武藤、槙野らに攻め込まれ、小椋の右サイドは前半から苦しい展開が続いていたが、後半30分辺りから、ついに小椋の足がつりかける。

さらに逆サイドでは、後半21分に投入されていた浦和の関根が、得意のドリブルで切り込んでいた。新人だった昨季とは違い、今季の関根は、ボールをもらう前の動きが改善された。寄せられてプレッシャーを受ける前に、相手に対して先手を取ってオフザボールから仕掛け、自分のスピードやドリブルを発揮する知性を身につけ始めている。

この関根を止めるために、G大阪は、ボランチの今野が左サイドへ張り出すシーンが増えた。そのぶん右サイドは手薄になり、得点シーンでは宇賀神のオーバーラップを、もう身体が限界に達していた小椋が抑え切れず、フリーで折り返すことを許してしまった。すでにこの時間帯、G大阪の『省エネのディフェンス』は破綻していたのだ。

実力伯仲の浦和とG大阪の対決では、わずかな天秤の傾きが勝敗を分ける。それだけに、お互いに慎重に、かつ潰し合いのような試合になることも多い。この対戦カードは、昨年末からの3試合で5ゴールが生まれたが、実はそのすべてが後半に決まったものだ。しかも、そのうち4ゴールは、後半40分以降の終盤に決まっている。それだけでも、この試合の緊張は充分に感じられる。

浦和はリベンジを果たしたが、力の均衡が崩れたイメージはない。今シーズンの対決は、まだ第一ラウンドが終わったに過ぎない。この試合の終わりを告げるホイッスルと同時に、次の試合のホイッスルが待ち遠しく思えた。

サッカーライター

1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合を切り取るサッカーライター。新著『サッカー観戦力 プロでも見落とすワンランク上の視点』『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』。既刊は「サッカーDF&GK練習メニュー100」「居酒屋サッカー論」など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材に出かけた際には現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが最大の楽しみとなっている。

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