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Kリーグの名将になって浦和レッズの前に立ちはだかる元Jリーガー、チェ・ヨンスの監督力

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
今やKリーグの“名将”の仲間入りを果たしたチェ・ヨンス監督(写真:ロイター/アフロ)

本日行なわれる浦和レッズ対FCソウルのAFCアジア・チャンピオンズリーグ決勝トーナメント1回戦。ともに燃えるような赤色をチームカラーにする両チームの対決は、日韓ビッグクラブ対決と言っても良いかもしれない。

周知の通り、浦和レッズはJリーグ最高の観客動員数を誇る“熱狂のクラブ”だが、対するFCソウルもKリーグ・ナンバーワンの熱狂を誇る。2010年に韓国プロスポーツ史上1試合最高観客動員(6万747人)を記録し、その後も1試合平均観客数は毎年3万人強。Kリーグでは2012年からクラブ別有料観客数を発表しているが、昨日5月17日に発表された今季10節までのランキングでも、FCソウルは平均1万6722名(招待客を含んだ場合は1万8997名)でトップなのだ。

そのFCソウルを率いるのが、かつてJリーグでも活躍したチェ・ヨンス監督だ。01年から05年までジェフ千葉、京都サンガ、ジュビロ磐田などでプレー。06年に古巣FCソウルに戻ったあと、同年8月にコーチとなり、2011年から監督に就任したチェ・ヨンスは、韓国でも成功した“青年監督”のひとりに数えられている。

何しろ監督2年目(2012年)でリーグ制覇。翌2013年にはACL準優勝。2015年にはFAカップも制している。去る5月15日には、Kリーグ通算100勝も達成。42歳8ヵ月と4日での達成は史上最年少で、監督193試合目での100勝達成は史上最速だ。日本のオールドファンたちの中には、92年アジアユース決勝の試合終了後に日本ベンチにボールを蹴りこんだ血気盛んで闘争心剥き出しだった若き日のチェ・ヨンス監督のことを覚えている方たちもいるかもしれないが、今の彼に現役時代に見せていたようなエゴイスト然としたところはない。

兄貴分のような対応で選手を鼓舞するその統率力は“ヒョンニム(兄貴)リーダーシッブ”と言われ、ときに大胆な選手起用で試合を逆転してしまうその采配から最近は“知略家”とも言われている。「あの若さで早くも名将の香りが漂う」という記者もいるほどだ。

そのチェ・ヨンス監督に以前、「現役時代にもっとも影響を受けた監督は誰か」と尋ねたことがある。ジェフ時代はイビツァ・オシム監督、ジュビロ時代は山本昌邦監督、韓国代表ではフースヒディンク監督、FCソウルでは元トルコ代表のセノール・ギュネス監督などの指導を受けてきた彼は、すべての監督たちから良い影響を受けたと語ったが、もっとも多くを語ったのはオシム監督についてだった。

「オシム監督は一見すると怖くて厳しく、選手たちをよく走らせる監督だった。言い回しも独特で、ときにそれが嫌味っぽく聞こえてムカつくときもあったが、実は見えないところで選手を配慮し、真に選手のことを考えてくれる監督だった。まるでアボジ(父親)のような温かさと懐の深さがある。あの優しさとチームのすべてを的確に把握して正しき方向に導いていくカリスマ性は、指導者として絶対必要な要素だと思う」

(参考記事:再録インタビュー/チェ・ヨンス「Jリーグで特別やりにくい選手はいなかった」)

日本メディア用のリップサービスではない。彼が25歳だった頃から何度もインタビューしてきたが、とある取材では「決定機を外す日本のFWに問いたい。点取り屋としての羞恥心はないのか」とキッパリ言い切るタイプでもある。今やKリーグを代表する指揮官になったチェ・ヨンスが、オシム監督をロールモデルのひとりにしていることは間違いだろう。

そんなチェ・ヨンス監督率いるFCソウルは、今季Kリーグで首位を走っている。10試合で21得点を挙げた攻撃力が自慢で、ACLでも6試合17得点と好調だ。得点頭はブラジル人FWアドリアーノ。リーグ戦7得点、ACLで10得点、さらにFAカップでも4得点とゴール量産中。このアドリアーノに加え、かつて3年連続Kリーグ得点王を置き土産に中国に渡るも今季からソウルに復帰したデヤン、昨季途中からKリーグ復帰したパク・チュヨンなどが、今季FCソウルの強さのシンボルになっている。

韓国メディアはこのFCソウルの強力な攻撃力と、ACLグループリーグ6試合で4失点しかしていない浦和の守備力が、両雄対決のキーポイントになると見ている。「ソウル対浦和の16強戦は槍と盾の対決」。そんな見出しが複数の韓国メディアで上がっている。

韓国の著名なサッカージャーナリストであるソ・ホジョン記者も言っていた。

「Kリーグ得点ランク1位のアドリアーノ、ベテランですがここ一番で勝負強いデヤンが2トップで、韓国人FWのなかでも優れた決定力を誇るパク・チュヨンが後半から登場するのがパターン。調子ほ落としているデヤンとパク・チュヨンが入れ替わる可能性もありますが、浦和にとっては終始緊張感を強いられる試合になるでしょう」

また、FCソウルの日本人選手・高萩洋次郎を、ソウルが勝利するためのキーマンに上げているメディスも多い。もともと高萩は韓国メディアでの評判が高かったが、「日本の浦和と対戦するFCソウル、高萩の足元に寄せる期待」(『STN SPORTS』)と報じるメディアもあるほどだ。チェ・ヨンス監督も高萩に関しては信頼と期待を寄せている。それは昨日の公式記者会見で監督か語った言葉からも伺えるだろう。

(参考記事:韓国で日本サッカーの力を轟かす“パス・マスター”高萩洋次郎)

(関連記事:期待と崖っぷち!! Kリーグで活躍する日本人選手たちの評判 ヤフーニュース個人 2016/03/15)

「ただ、高萩洋次郎とともに中盤でのパスゲームを牽引してきたシン・ジンホが、兵役のためにチームを離れてしまったこともあって、ここ最近は思うような試合運びができていないのも事実です」(ソ・ホジョン)

ならば、浦和との第一戦をチェ・ヨンス監督はどう戦うつもりなのだろうか。ソ・ホジョン記者はこんな予想をする。

「まずは慎重かつ安全に第1戦を進めていこうとするはずです。浦和はそんなソウルをどう崩すか、でしょう。ソウルの立場からすると、浦和のズラタンはさほど脅威ではないはずです。彼のようなタイプはKリーグにもいますから。むしろ、スピードや俊敏性のある武藤雄樹、石原直樹などがソウルとしては気になるのでは。また中盤では、運動量の多さに加えて強さと巧さを兼備する阿部勇樹が、ソウルの立場からするとかなり脅威に映ります。彼ら3人はKリーグ勢からすると、本当にイヤなタイプのはずなんです」

昨日の公式会見では「今回の試合は韓日間のプライドを賭けた戦いだ」と強い覚悟を口にしたチェ・ヨンス監督。果たしてJリーグを知る指揮官は、浦和レッズ相手にどんな戦いを見せるのだろうか。史上最年少・史上最速でKリーグの名将の仲間入りを果たした青年監督の采配にも注目したい。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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