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FCソウルと日本人Kリーガー高萩洋次郎の行方

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
今やFCソウルには欠かせないパスマスターとなった高萩洋次郎(写真:Jone Kim/アフロ)

Kリーグの首位争いを走り、ACLでも浦和を下して準々決勝進出を決めているFCソウルのチェ・ヨンス監督が、6月22日に行なわれたFAカップ決勝トーナメント1回戦を最後に、FCソウルの指揮官の座から退いた。シーズン途中に指揮棒を置いたのは、中国スーパーリーグの江蘇蘇寧から熱烈オファーがあったためだ。

2012年にACL準優勝でAFC年間最優秀監督賞に輝き、今年4月には史上最速・史上最年少でKリーグ100勝を達成したチェ・ヨンス監督に、江蘇蘇寧は推定年俸推定年俸350万ドルと高待遇を提示。チェ・ヨンス監督も「シーズン途中の離脱に否定的な見方はあることは理解しているが、江蘇蘇寧行きを決めたのは挑戦だ。世界的な監督たちと面白いゲームをしてみたい」として中国行きを決断した。

(参考記事:“爆買い”中国マネーに侵食される韓国サッカー。「Kリーグ・エクソダス(大脱出)」の前兆か!?)

シーズン途中の中国行きには韓国サッカー界全体が衝撃を隠せなかったが、さらに驚きだったのはチェ・ヨンス監督の後任としてFCソウルが招聘したのが、ファン・ソンホン監督ということだ。

ファン・ソンホン監督と言えば、チェ・ヨンス監督と同じくかつてJリーグでプレーし、1999年にはJリーグ得点王に輝いた人物。2008年にKリーグの釜山アイパークの指揮官として監督デビューし、2011年から古巣の浦項スティーラーズの監督に就任すると、2012年にFAカップ制覇、2013年にはリーグ戦とFAカップの2冠を達成した。

浦項は親会社の業績不振でクラブへの年間支援金を大幅削減され、Kリーグでは珍しく外国人選手ゼロでチーム編成したこともあったが、若い選手を積極起用しながらチームを常勝軍団に作り上げたファン・ソンホン監督の手腕は高く評価されてきた。契約満了で昨季終了後に浦項を退団した際も、惜しむ声が多かったほどだ。

そんなファン・ソンホン監督には、Kリーグの他クラブはもちろん、海外からもオファーがあった。そのなかのひとつには、JリーグのC大阪もあったそうだが、「来年は監督として活動するつもりはない。少し休みたい」として断り、今年はドイツ・ブンデスリーガやイタリア・セリエAの試合会場や各クラブの練習場に顔を出すなど、欧州での指導者留学に精を出していた。FCソウル監督就任か発表された6月21日も、フランスでEURO2016を視察していたという。

そんなファン・ソンホン監督がFCソウル監督就任会見で語ったのは、「すべての選手がソウルに来てプレーしたくなるようなチームを作ることが夢」という言葉。「FCソウルを韓国のバイエルン・ミュンヘンのようなチームにしたい」と具体的な目標も口にした。

その夢の実現までには時間がかかるだろうが、当面はチェ・ヨンス監督が築いてきたFCソウルのスタイルをどう継承していくかに注目が集まりそうだ。

というのも、チェ・ヨンス監督率いたFCソウルは今季、3バックを採用しているが、ファン・ソンホン監督が浦項で取り組んできたのは4バック。しかも、ファン・ソンホン監督は前述の通り、若い韓国人選手でチーム作りを進めてきただけに、「外国人選手の起用が不慣れ」という見方もある。就任会見でも、「外国人選手をしっかり活用できないという弱点を克服しなければならない」と本人も語っているほどだ。

それだけに気になるのは、高萩洋次郎の起用方法だろう。現在、FCソウルにはKリーグ3年連続得点王(2011~2013年)のデヤン、今季Kリーグ得点ランク2位を走るアドリアーノ、スペイン人MFでボランチからセンターバックまでこなせるオスマール、そしてアジア枠で高萩洋次郎と4名の外国人選手が所属しており、チェ・ヨンス監督時代はそれぞれ主軸を務めてきた。

チェ・ヨンス監督が高萩に寄せる信頼は厚く、「高萩は試合や練習中でも見る側をハッとさせるパスを出す。韓国人選手にはない独特のタイミング、多様で時に意外性に富んだパスルートを持っている」と高く評価していた。

(参考記事:韓国で日本サッカーの力を轟かす“パス・マスター”高萩洋次郎)

そんな高萩にファン・ソンホン監督はどんなミッションを与え、どのように起用していくのか。浦項時代はバルサの“ティキタカ”と浦項スティーラーズの愛称を文字って、“スティールタカ”とも呼ばれたパスサッカーを標榜したファン・ソンホン監督だけに、その起点としての役割を高萩にも期待している可能性は高いだろう。

いずれにしても、ファン・ソンホン監督率いるFCソウルの再出発は、6月29日の城南FC戦からとなる。8月24日には中国の山東魯能とのACL準々決勝・第1戦もある。「浦項では届かなかったACL制覇のタイトルがもっとも欲しい」としたファン・ソンホン監督率いる新生FCソウルと、そのFCソウルでACL制覇を達成したいと意気込む日本人Kリーガー、高萩洋次郎のこれからの行方に注目したい。

(参考記事:期待と崖っぷち!! Kリーグで活躍する日本人選手たちの評判)

(初出:『サッカーダイジェストWEB』【韓国メディアの視点】浦和を下したFCソウルのチェ・ヨンス監督が、爆買い中国の標的に。後任はC大阪行きの噂もあったあの人物  6月29日掲載)

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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