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皮肉と風刺と異色デモで韓国の若者たちが「朴槿恵大統領の退陣」を叫ぶワケ

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
(写真:Lee Jae-Won/アフロ)

今日11月12日、ソウルでは朴槿恵大統領への退陣要求を目的した大規模なデモが行われている。その数は主催者発表と警察発表で異なるだろうが、もはやその数は重要ではないかもしれない。

何しろ連日のように、朴槿恵大統領への退陣を要求するデモが、各地で繰り広げられているのだ。韓国国民の怒りの熱量は凄まじい。

ただ、かつての民主化デモを連想させるような荒々しさや悲壮感はない。ニュースを見てもおわかりの通り、若い世代も多く、今やすっかり定着した“ろうそく集会”ではパフォーマンス型デモも増えた。ネット上ではミス・コリア出身の美少女もデモ参加したと話題にもなっているほどで、最近、流行りの“お一人様”での参加も増えているらしい。

(参考記事:お一人様の参加者が急増!! 韓国のデモ文化が進化している)

しかも、その熱量は首都ソウルだけに止まらない。釜山、光州、済州などでも同じ主旨の集会が開かれており、朴槿恵大統領の退陣要求デモは2012年の大統領選挙当時は80.8%もの支持を集めた慶尚北道の浦項市などにまで拡散しているほどだという。

韓国国民の怒りを爆発させたきっかけは、11月4日の「対国民談話」だったかもしれない。「真相解明」や「辞任」を期待していた国民だったが、朴槿恵大統領の談話は「弁明に汲々としていた」との指摘が絶えなかった。

談話の一節に「こんなことをするために大統領になったのかという自己恥辱感を感じるほど心苦しい」という部分があったが、「これは名言だ」と皮肉る始末で、一般人から芸能人までその一節のパロディーが流行している有様だ。

(参考記事:朴槿恵大統領の“対国民談話”に皮肉炸裂!! 自虐パロディーが大流行中

しかも、その怒りは全年齢に波及しており、今回のデモには幼い子供を連れた家族連れをはじめ、10代の学生から60代までの幅広い層が参加している。

そのなかでも特に目立つのは、前述した通り、やはり若者たちの参加だろう。若者が多いからか、異色のデモ集会が多いのも今回の退陣要求デモの特長と言えるかもしれない。

例えば、渦中の人物・崔順実(チェ・スンシル)氏が帰国した10月30日の昼過ぎ、光化門広場の芝生には、10数人が集まって新聞を読み出したという。それぞれ手にしていた新聞は違ったが、どれも一面には“崔順実ゲート”に関する記事が掲載されていた。

さらに韓国外国語大学の大学生300人は、日本語、英語、中国語はもちろん、イタリア語、フランス語、ポルトガル語など計10の言語で“時局宣言文”を発表。各言語を専攻する学生たちが順番に宣言文を朗読し、「封建時代にも起こりえない出来事が2016年の大韓民国で発生した」などと怒りを表したという。

まさに若者たちが先陣を切っているわけだが、そもそも彼らは大統領選挙当時から朴槿恵大統領に対する支持を示していなかった。2012年の大統領選挙当時の支持率を見ると、20代33.7%、30代33.1%で、対立候補(文在寅)への支持が圧倒的だったのだ。

もともと朴槿恵大統領誕生を危惧していた彼らが、「今こそ」と奮い立っているのは自然なことなのかもしれない。

ただ、その一方で、喪失感や脱力感もあるようだ。

ネット上には、現在の韓国の事態を風刺した“崔順実ゲート”がらみのギャグが次から次へと生まれている。若者たちからすれば、怒りはもはや一周回って、ギャグにしなければやっていられないわけだ。

また、「崔順実にペコペコ…“国民火病”がぶり返した」(『THE FACT』)といった見出しや、「憤怒と悲哀で火病が生じた」(『週刊朝鮮』)と論じる韓国メディアも散見されるようになった。

国を根底から揺るがす今回の事件を、韓国特有の病気である“火病(ファビョン)”と表現するのが、なんとも生々しく痛々しいが、いずれにしても今日の大規模な退陣要求デモを見てもわかる通り、韓国国民の怒りは頂点に達している。そしてその怒りはまだまだ国民の怒りは収まりそうにない。

(参考記事:年間11万人が“火病(ファビョン)”に苦しむ現代韓国。なぜ火病は韓国特有の病気なのか

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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