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【都知事選】舛添氏支援の連合東京に直撃―「労働者の味方」ではなかったのか?

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
連合東京の事務所に貼られた舛添氏の選挙ポスター

連合東京が都知事選で、舛添要一氏を応援、という報道を目にした時、「連合っての労働者の味方のハズじゃないの?」と思わず首をひねった方も少なくないのではないだろうか。連合(日本労働組合総連合会)といえば、52の構成組織、組合員675万人を誇る日本の労働組合の中央組織。そして、民主党の最大の支持基盤でもある。ところが、その東京支部であり、約106万人の組合員を抱える連合東京は、今回の都知事選では、民主党の応援する細川護煕候補ではなく、自民・公明が推薦する舛添要一候補を応援しているのだという。1990年代から2000年代にかけての自民党政権による労働規制緩和こそ、労働者の権利低下、格差貧困の拡大につながったことから考えると不可解な動きだ。また、一部報道では、細川氏の「即時原発ゼロ」という方針があわなかった、とも伝えられている。実際のところはどうなのか。連合東京の杉浦賢次事務局長や、都内組合関係者らに聞いた。

◯舛添氏応援の経緯と疑問―舛添氏は本当に「労働者の味方」か?

杉浦・連合東京事務局長によれば、先月1月15日、舛添氏が連合東京の事務所を訪れ、大野博・連合東京会長と30分程会談、支援を求めたのだという。それに先立って民主党の松原仁・東京都第3区総支部長と、長島昭久・都連幹事長が連合東京を訪問し、細川氏支援を訴えたが「細川氏本人からの要請はなかった。また、細川氏が連合東京との政策協定を結ぶという話は無かった」(杉浦氏)ため同1月18日会議を開き、一旦、大野会長にあずけるかたちで、舛添氏支援を決定・了承、同20日に舛添氏と政策協定を結び、正式に支援を決定したのだという。また、こうした動きについて、「舛添氏が厚生労働大臣だった時の働きを連合本部も評価しているとのことでした」(杉浦事務局長)と、連合本部とも連絡を取っていたと言う。

だが、舛添氏が本当に「働く人々の味方」なのかは、疑問点も残る。舛添氏と連合東京との会談の中で、政策についての具体的な議論は行われず、政策協定の合意文書も非公開。「連合東京の『政策・制度要求』も舛添氏に見てもらい『合意できると思う』と言ってもらった」(杉浦事務局長)というが、桝添氏は、その政策の中で、「世界一のビジネスインフラに向けた国際戦略特区の設置(妥協の無い規制緩和と人材の呼び込み)」をあげている。この国家戦略特区とは、外国企業の呼び込みや投資を促すため、自治体レベルで大幅な規制緩和をしていくというもの。中でも問題になっているのは、雇用や労働条件に関する規制緩和だ。「解雇ルール」、「労働時間法制」、「有期雇用制度」を見直す、というもので、企業が雇う時からクビにする条件を労働者に同意させ、長時間労働・残業代未払いを許容し、5年を超えても非正規雇用の社員を正社員にしなくても良い、という案が、政府下の有識者会議で示された。そのためメディアや野党などから「解雇特区」「ブラック企業特区」という猛批判を浴び、「解雇ルール」の対象企業は「開業5年以内のベンチャー」「従業員の3割以上が外国人の企業」に限るとし、「5年で正社員になれる権利を放棄して雇用契約を結ぶ」人も、「高度な専門的知識を有し」「比較的高収入を得ている者」と条件を厳しくなった。だが、国家戦略特区が「解雇特区」「ブラック企業特区」とならなくなった訳ではない。国家戦略特区の方針を決める諮問委員会に、あの竹中平蔵氏が就任。同氏はウォールストリートジャーナル紙のインタビューに対し、「雇用のルールについて、条件付きでできるようになったので半歩くらい前進した。重要なのは特区の枠組みをフルに使って岩盤規制を崩していくこと」と語っている。同氏には、小泉政権の下で製造業での派遣労働を解禁させ、そのことが「年越し派遣村」に象徴されるような、非正規労働者の使い捨てが横行する事態を招いたという「実績」もある。こうした国家戦略特区に賛同し、推進するとしている舛添氏が言う「妥協の無い規制緩和」が何を示すのか、大いに気になるところだ。また派遣村と言えば、舛添氏が厚労大臣時代、派遣村に集まった人々を「怠け者」呼ばわりした*ことも忘れてはならないだろう。連合も「解雇特区」自体には反対しているのだから、舛添氏の政策や言動に関し、問いただすくらいの姿勢が欲しいものである。

http://ameblo.jp/kokkoippan/entry-10328267073.html

◯「脱原発」での相違

報道にあるような細川氏と連合東京の「脱原発」についての方針相違はあったのか。杉浦事務局長は「それはあります」と認める。「連合本部の政策集にもあるように、連合は『即時原発ゼロ』ではなく、徐々に『原発依存を減らしていく』という立場です」(同)。確かに、連合本部のウェブサイトにある「2014~2015年 政策・制度 要求と提言」の81ページには、

「中長期的に原子力エネルギーに対する依存度を低減し、最終的には原子力エネルギーに依存しない社会をめざすための政策を推進する」

出典:http://www.jtuc-rengo.or.jp/kurashi/seisaku/yokyu_teigen2013.pdf

と、書いてある。また、同「要求と提言」によれば、

「既存の原子力発電所については、原子力に関する新たな規制組織・安全規制・防災体制の確立など、安全性の強化・確認を国の責任で行うことと、周辺自治体を含めた地元住民の合意と国民の理解を得ることを前提に、代替エネルギー源が確保されるまでの間、活用していく」

出典:http://www.jtuc-rengo.or.jp/kurashi/seisaku/yokyu_teigen2013.pdf

ともあり、条件付きながら、連合本部が原発再稼働を容認していることも明記されている。

だが、こうした連合の「要求と提言」や、「細川氏の主張は連合のそれと違う」と切り捨てる連合東京の姿勢には、やはり疑問を感じざるを得ない。原発を推進してきた挙句、福島第一原発事故を起こしてしまった、あまりに多くの人々の生活を破壊し、仕事を失わせた、という当事者としての反省がもっとあってもいいのではないか連合本部の役員には、電力総連や電機連合といった原発推進派の労組出身者が名を連ね、連合会長の古賀伸明氏も電機連合の出身。連合東京の大野会長も東電労組出身だ。これら原発推進派労組が、原発推進派の国会議員の票田となり、強力なロビー団体となってきたことは否定できない事実である。杉浦・連合東京事務局長は「舛添氏と大野会長との会談で原発のことは語られなかった」としているが、舛添氏を推薦する自民党が、原発再稼働や原発輸出に積極的であるのは、誰もが知るところだ。現在も福島第一原発の事故収束作業は難航し、現場の作業員達は超高線量の放射線に曝されながら、ピンはねなどの搾取横行する労働環境、慢性的な人手不足にも悩まされている。公的資金9兆円(当然、都民からの税金も含む)が東電救済のために使われている一方、東電は環境省が立て替えている除染費用(当然、都民からの税金も含む)の支払いを拒否。そして、東京都は東電の大株主だ。都知事が脱原発派になるかそうでないかは、大きな争点であるはずだ

◯問われる連合―構成団体関係者からの不満

この間、志葉は連合構成団体関係者、都内の労組関係者らにも取材を行った。最後に「絶対匿名」を条件に取材に応じた彼らの声も紹介したい。

「(連合東京が、脱原発を主張する細川氏ではなく、枡添氏を支援することとなった理由として)結局、電力系の労働組合の声が大きかった、という力関係はあるのでしょうね。民主党が政権から脱落した中、自公政権にすり寄ろうという経済界の動向に労組側も同調しているという状況がありますし、それに反対する構成団体は連合から出て行けばいい、という風潮すらあります」

「都知事選での舛添氏支援は、連合東京を構成する各労組による多数決ではなく、大野博会長の決定です。構成各労組には従う義務はありません*。組合員からもクレームが来ています」

言うまでもなく、連合も連合東京も民間組織であり、あくまでその方針は彼ら自身が決めることだ。だが、その影響は、組合員のみならず、一般市民にも及ぶ。その影響力や社会的責任を考えれば、組織内の異論や、「格差是正」や「脱原発」を求める世論にも耳を傾けるべきなのだろう。

*舛添氏は「連合本部としての推薦」ではなく、「連合東京が支援する」と決めたにすぎなく強制力も伴わないとのこと。つまり、連合東京加盟の労組であっても、各労組の裁量に任される、ということ。

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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