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安倍政権の「沖縄潰し」本土マスコミが伝えない機動隊の暴力ー高江ヘリパッド建設問題

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
ヘリパッド反対派の市民の首を絞める機動隊員―22日、沖縄・高江で筆者撮影

抗議する男性を車でひき、女性の首を締めて昏倒させる…22日、安倍政権が強行した、沖縄県の東村高江周辺の米軍のヘリコプター発着場(ヘリパッド)の増設工事は、同政権の「沖縄潰し」の強硬姿勢をまざまざと見せたものだった。工事のための建設資材の運び入れを防ごうとする約200人の市民を、他県からも集められた機動隊員、約500名が襲いかかる。座り込みで抗議していた市民を力づくで排除していった。

〇容赦ない機動隊員の暴力

機動隊と市民との衝突は既に21日の夕方に始まっていた。同日18時半、ランドクルーザータイプの警察車両の前で座り込みをしていた50代の男性が、突然、ひかれた。しかもその警察車両を運転していた警察官は機動隊に守られるようなかたちで、その場から退散。事実上の「ひき逃げ」状態となった。しかも、怒った市民側が「事故」の現場検証を求めたにもかかわらず、警察は現場検証を行わなかったのだ。「警察が、『駐車禁止』の立て札を置こうとしたんです。ヘリパッド周辺の道路は、駐車禁止じゃないのに、抗議で集まった人々への嫌がらせですね。そこで、私が警察車両の前で抗議して、座り込んだところ、頭にゴツンとバンパーが当たって、そのまま押しつぶされるようなかたちになりました」(ひかれた男性談)。この男性は搬送先の病院で検査を受け、今のところ、重篤な障害は出ていないという。「ただ、非常にショックでした。殺されるかと思いました」(男性談)。なお、一応、病院で沖縄県警の交通課から状況について聞かれたというが、その後責任追及がきちんと行われるかは、まだわからないという。

現場にいた市民が撮影した動画。

辺野古2016https://youtu.be/N58VnQzOhD4より

22日、早朝4時すぎ、夜を徹して座り込みを続けていた人々を、地元沖縄だけでなく、東京や千葉、神奈川などからも派遣された機動隊員500名程が、強制排除を試みる。市民側も自分たちの乗ってきた車をバリケードにして対抗。車の間に座り込んだ。そうした人々を次々に機動隊員が抱え上げ、排除していく。そうした際に、機動隊員に強く押され、倒れる人々も多く、機動隊員がさらに押してくる中で、あわや将棋倒しになりかけたので、取材中の筆者も「危ない、倒れている人がいる!強引に押すな、落ち着け!!」と機動隊員に叫び、介入せざるをえなかった。また、機動隊員らと抗議する人々が折り重なり、メディアから目が届きにくいところでは、機動隊員らが人々に殴る蹴るの暴行を加えることも少なくなかったようだ。22日の抗議活動に参加した60代の女性は「機動隊員の硬い靴でけられたり、ひざで蹴られたりしました」と言う。機動隊員の靴は爪先に金属が入っており、ほとんど凶器だ。「以前、(やはり米軍基地移設が計画される)辺野古に抗議に行った時も、機動隊員に拳で殴られて肋骨が折れました」(60代の女性談)。

写真の女性は何度も機動隊員に殴られたり蹴られたりしたという
写真の女性は何度も機動隊員に殴られたり蹴られたりしたという

機動隊員による首絞め事件が起きたのは、午前9時過ぎ頃。ヘリパッド搬入口前にバリケードとされた車を撤去させる攻防で、抗議中の女性が機動隊員にロープで絞められ、救急車で搬送されるということがあった。その一部始終を見ていたという、別の女性はこう証言する。「彼女は車につなぎとめられたロープにつかまっていたんです。それを引きはがそうとした、機動隊員が彼女の頭部に絡まったロープを強引に両手で締め上げたんです。あれは事故ではなく、故意にやっていました」「彼女の身体は痙攣していました。本当に死んでしまうかと思いました。目の前取材をしていた独立系メディアの女性記者も、ショックを受け、過呼吸で失神する程だったのです」(目撃者の女性談)。結局、前日の21日を含め、5人が救急車で搬送されることになった。

〇「強制撤去に法的根拠なし」弁護士が指摘

レッカー移動させられるヘリパッド反対派の車。弁護士は「法的根拠なし」と指摘
レッカー移動させられるヘリパッド反対派の車。弁護士は「法的根拠なし」と指摘

激しいもみ合いになった一因は、機動隊はヘリパッドに反対する地元住民らが設置したテントやバリケードとして置かれていた車を撤去したからだが、「撤去には法的根拠がない」と現場に立ち会った小口幸人弁護士は指摘する。「テントに勝手に立ち入り、撤去すること、車をレッカーしていくこと、県道を封鎖すること、全て何の法的根拠もなしに行われています。機動隊員らが根拠とする警察法2条の『安全と秩序の維持』も訓示的なものであって、これをもって個人の自由を無制限に侵害できるわけではないのですが、機動隊の振る舞いは、政府が示した秩序を守るためには、沖縄県では何をやってもいい、という無茶苦茶なものですね」(小口弁護士)。

〇本土のマスコミは沖縄の状況を伝えろ

今回の抗議行動の指揮を取った山城博治・沖縄平和センター議長も「安倍政権による沖縄潰しだ」と憤る。「機動隊員らのあまりに酷い暴力に、一旦、抗議者たちを撤退させざるえなかった。苦渋の決断です。本土のマスコミは、沖縄で安倍政権が何をやっているのか、しっかり伝えてほしい」(山城さん)。今後も山城さんらは、ヘリパッド増設工事への反対運動を続けていくという。 沖縄の基地問題は、過剰な負担を負担を押し付ける本土の問題でもある。日本全体として、沖縄の置かれている状況について考えていく必要があるだろう。そのためには、報道が重要だが、NHK、テレビ朝日、日テレ、読売新聞、朝日新聞などが取材に来ており、ニュースも配信されたようだが、いずれも現場で実際に起きていることに比べ、控えめに思える。なぜ、米軍基地や安倍政権に沖縄の人々がこうも憤っているのかを、きちんと伝えるべきだろう。

(了)

【参考】高江ヘリパッド問題とは

沖縄県北部の東村と国頭村にまたがる米軍の北部訓練場の半分を返還するとした、1996年の日米合意で、条件とされたのが、東村高江周辺に、6か所のヘリパッドを新設することだった。しかし、ヘリパッドが集落を取り囲むような位置で建設されること、騒音や事故率が高いとされる米軍輸送機オスプレイが配備されることなど、さらには建設地周辺の貴重な生態系が破壊される恐れがあることなどから、現地の住民らは強く反発。2007年に、政府はヘリパッドの建設工事を始めたが、住民らの反対もあり、完成したのは、2か所のみで、残る4か所については、工事が行われていなかった。

ヘリパッド着工強行に各都道府県から動員された機動隊員は約500人
ヘリパッド着工強行に各都道府県から動員された機動隊員は約500人
人が重なりあってカメラで撮りにくいところで、機動隊の暴力は激化する
人が重なりあってカメラで撮りにくいところで、機動隊の暴力は激化する
救急車で搬送される女性
救急車で搬送される女性

*写真の無断使用を禁じます。

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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