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安倍トランプ会談、日米同盟強化に「拷問」リスク―小泉ブッシュの過ち繰り返すな

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
昨年、トランプ私邸を訪問した安倍首相―内閣広報提供

安倍晋三首相は、日本時間で11日未明にも米国のドナルド・トランプ大統領と会談する。会談にむけ、安倍首相は「日米同盟をさらに強固にする」としているが、無条件に米国のやり方につき従うことは、日本にとってもリスクを伴う。安倍・トランプ両政権の関係は、「日米史上最高の良好な関係」と言われた小泉・ブッシュ両政権の過ちを繰り返す恐れがある。

〇拷問容認の衝撃―トランプが再開の「ブラックサイト」とは

CIAブラックサイトについての調査報告書
CIAブラックサイトについての調査報告書

就任早々、世界中のメディアから批判されているトランプ大統領。その政策にはいくつも問題があるが、対テロでの捜査や情報収集の手法として、拷問を認めるとトランプ大統領が主張していることは看過できないことだ。ブッシュ政権時代、米国は国内法に抵触するとして、国外にいくつもの拷問施設をつくっていた。その「ブラックサイト」と呼ばれる拷問施設は、オバマ政権によって閉鎖されたのだが、トランプ大統領はこのブラックサイトを再開させようとしているのである。新たに米中央情報局(CIA)の副長官として、トランプ大統領に指名されたジーナ・ハスペル氏は、まさにそのブラックサイトでの拷問に深く関わった人物で、米紙「ニューヨーク・タイムズ」(今月4日付)や英紙「ガーディアン」(今月3日付)等、いくつもの海外メディアがハスペル氏とブラックサイトとの関係について報じている。そのブラックサイトの実態はどのようなものだったのか。米国の上院情報特別委員会が2014年12月9日に公開した調査報告書によって、ブラックサイトでの、おぞましい所業の数々が明らかにされている。具体的な事例をいくつかあげよう。

・ある被拘束者は、ひと月の間に83回もの水責めを受けた。この水責めとは、溺死する寸前まで被拘束者の頭を水中につっこみ続け、苦痛を味わせるというもの。凄まじい苦痛を伴うため、米国内では非人道的として禁止されている。

・長時間、立たせたままで睡眠をとらせないことも頻繁に行われた。ある被拘束者は、180時間以上もの間、そうした状態に置かれた。こうした拷問により、錯乱状態になる被拘束者も多かったという。

・殴る蹴るの暴行は当たり前。氷水の中に長時間つからされたり、棺桶のような窮屈な箱の中に数日間にわたって閉じ込められ続けるなどの拷問も行われた。こうした拷問の結果、命を落とす被拘束者もいたという。

問題は単に拷問が行われていただけではなく、証拠不十分であるにもかかわらず、不当に拘束され、拷問をうけた人々もいるということだ。報告書によれば、確認されている119人中、少なくとも26人が、本来は拘束するべきではなかった、とされている。また、こうした被拘束者の中には、その本人自体はテロとは無関係にもかかわらず、テロ組織のメンバーだと疑われる家族について、尋問するために拘束された者もいたという。

トランプ大統領はテロを防ぐためには拷問もやむなし、としているが、そもそも情報収集の手法として拷問は有効ではない、との問題もある。米国上院情報特別委員会のブラックサイトについての報告書は、「強化された尋問」(つまり拷問)を受けた被拘束者は、作り話をするので、CIAは誤った情報を得ることになった、被拘束者から正しい情報を引き出し、協力させることに失敗した、と結論づけている。これは、筆者のイラクでの取材の経験からも同意できるものだ。米軍側は十分な証拠もなく、ただ米軍への攻撃があった地域に住んでいただけで、無差別に地元の人々を拘束し、尋問をおこなっていた。激しい拷問を受ければ、その苦痛から逃れるために、拘束された人々は尋問する側が望むような話をする。それが事実であるか否かは関係ない。こうして、誤った情報を得た米軍は、それに基づく作戦で、さらに罪のない人々を拘束したり、殺害してしまったりしていたのだ。

拷問は、拷問した側への激しい怒りを招く。かのIS(いわゆる「イスラム国」)も、米軍がイラク南部バスラのブーカ刑務所で行っていた拷問から生まれたのだ。IS幹部が英紙「ガーディアン」に話したところによれば、IS指導者アブバクル・バグダディ容疑者は、最初は、それほど過激思想ではなかったが、ブーカ刑務所で激しい拷問を受ける中で、過激化していったのだという。筆者の知人の身内も、ブーカ刑務所に拘束されていたが、彼の話によれば、同刑務所内には米軍への怒りが充満していて、「まるでテロリスト製造工場だった」という。前述の米国上院情報特別委員会の報告書にも、「CIAによる拘束や拷問は、世界における米国の地位を貶め、高い代償を払うことになった」と書かれている。

〇米国に無条件に従うリスク

イラク・バグダッドの住民を無差別に拘束していく米兵達 2004年7月筆者撮影
イラク・バグダッドの住民を無差別に拘束していく米兵達 2004年7月筆者撮影

米国の無法ぶりを、無条件に肯定し付き従うことは、間違いなく日本にとってもリスクとなる。イラク戦争時の小泉政権がブッシュ政権に対する姿勢がまさしくそうだった。イラク南部サマワに人道復興支援のためと派遣された自衛隊が、イラクの人々から「米国の占領に加担するもの」と受け取られ、それが日本人の誘拐事件(2004年4月)や、襲撃・殺害事件(2004年5月)にもつながった。筆者自身、イラク西部ファルージャの取材中、銃を持った現地の若者達に取り囲まれ、「日本は米国の犬だ、我々の敵だ」と罵声を浴びたことがある。小泉政権がイラク戦争を無条件に支持していたことは、イラクの人々にとって周知のことだった。イラク戦争では、アブグレイブ刑務所などでの、米軍による組織的な拷問や虐待の実態が明らかになったが、こうした国際人道法でも禁止されている行為についても、小泉政権は何も咎めることもなく、ブッシュ政権のイラク占領政策を支持し続けた。他方、米国と共に対イラク攻撃有志連合の中心となっていたイギリスでは、アブグレイブ刑務所での拷問・虐待事件や、ファルージャなどでの無差別殺戮について、米国側に「現地の人々の反発を招き、民主的な新政府をイラクにつくるという復興プロセスに悪影響が及ぶ」として、ブレア政権がブッシュ政権に幾度も苦言を呈していたことが、昨年7月に公表された独立調査委員会の報告書の中でも明らかにされた。安倍政権が2020年の東京オリンピック・パラリンピックを成功させたいのであれば、そして何より日本の人々の安全のためにも、拷問を容認するトランプ政権とは、一定の距離を置いた方が賢いのだろう。

〇米国の下僕に成り下がるな―イラク戦争の教訓を

良き友人というものは、時には相手の良くない部分について、改めるよう助言するものだ。安倍首相が何の「助言」も、トランプ大統領に対し発することもなく、嬉々として一緒にゴルフに興じているだけならば、日本という国の国際的なイメージも悪化する。つまり、「人権に対して無関心な国」というイメージだ。経済的規模で言えば、中国などの新興国より小さな欧州の国々が、今なお先進国として国際社会の中でリーダー的存在を担っているのは、人権という国連やその関連組織の共通の理念を守ろうという姿勢を建前上であっても明確にしているからである。単に、経済規模や軍事力があるだけでは尊敬されないのだ。そのような意味において、今回の安倍トランプ会談は既に失墜している日本のイメージをさらに落とすことになりかねない。また、イラク戦争の評価が二転三転しているトランプ大統領だが、ISのみならずイランや、パレスチナのハマス、レバノンのヒズボラ等も「対テロ戦争」の相手にするとしている。今後の展開によっては、再び米国が中東での対テロ戦争に前のめりになっていく可能性もある。そうなれば、日本もイラク自衛隊派遣のように負担を強いられることになるだろう。「小泉ブッシュ」の過ちを繰り返さないためにも、そして安倍首相自身が第一次安倍内閣でイラク戦争を支持・支援してしまったことの反省としても、トランプ大統領との会談が、無条件に付き従う「米国の下僕」宣言になっては困るのだ。

(了)

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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