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自衛隊派遣ありきが南スーダン和平の障害に!日本人NGO職員が語る現場のリアル

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
世界食糧計画による食料配給を待つ女性。南スーダンでは食糧危機が深刻化している。(写真:ロイター/アフロ)

自衛隊がPKO部隊として派遣されている南スーダンについて、厳しい現地情勢を無視した、稲田朋美防衛大臣の「言葉遊び」が繰り返されている。そこで筆者は、この間、南スーダンでの人道支援活動を行っている日本国際ボランティアセンター(JVC)の今井高樹さんに話を聞いた。今井さんの話から浮かび上がってきた現実は、自衛隊を派遣している限り、日本は南スーダンの内戦終結に貢献できないというものだった。

○内戦中の南スーダンに紛争当事者がいない?!

昨年7月の首都ジュバでの大規模な戦闘以来、内戦状態が続く南スーダン。同国への自衛隊派遣は、その根拠となるPKO協力法での5原則に抵触するものではないか、との国会質疑に対し、稲田防衛大臣の答弁には、不誠実さが目立つ。先月20日の衆院予算委員会では、緒方林太郎衆議院議員(民進)の質疑に対し、

「(南スーダンに)紛争当事者はいないんです。(副大統領派の)マシャールさんは紛争当事者になり得ないんです。国外に行っているわけです」

と声を張り上げた。「紛争当事者がいない」ならば、今、南スーダンで続いている内戦は、一体何なのか。緒方衆院議員の質問の趣旨は、南スーダンの大統領派のみに日本政府として対応するのか、それとも同国の紛争におけるすべての関係者に中立的な姿勢をとるのか、というものだったのだが、稲田防衛大臣の答弁は噴飯ものの詭弁だろう。JVCの今井さんは眉を顰める。

「稲田大臣のおっしゃっることは、PKO法上において、『国または国に準じる組織』として、マシャール派を紛争当事者と定義していない、ということなんでしょうけども、現地の状況とはあまりにかけ離れています。南スーダンでは現大統領のサルバ・キールが率いる政府軍と、リヤク・マシャール前副大統領が率いる反体制派武装勢力SPLA-IO、さらにいくつもの武装勢力による戦闘が続く、戦国時代のような状況。マシャール前副大統領自身は、国外に脱出しているものの、マシャール派は南スーダン北東部のいくつかの地域を実効支配しており、政府軍ともこの1月から幾度も激しい戦闘を行っています。南スーダンのエクアトリアと呼ばれる一帯でも、この地域に進攻し、破壊や略奪を行っている南スーダン政府軍に対し、現地部族による武装勢力がいくつも組織されています」

なぜ、稲田大臣は「南スーダンには紛争当事者がいない」ということにしたいのか。それは、PKO協力法で自衛隊を派遣できる条件としての5原則に「1 紛争当事者間で停戦合意が成立していること」と定められているからだろう。つまり、マシャール派ほか、反大統領派の各勢力を「紛争当事者」と認めてしまうと、このPKO5原則に反してしまい、南スーダンへの自衛隊派遣が違法ということになってしまうのだ。

南スーダンで活動する自衛隊を視察した稲田防衛大臣。防衛省提供
南スーダンで活動する自衛隊を視察した稲田防衛大臣。防衛省提供

○キール大統領のみを全面的に後押しする安倍政権

稲田大臣、そして安倍政権が自衛隊派遣ありきで「南スーダンには紛争当事者がいない」としていることの弊害は、南スーダンの和平にも悪影響を及ぼしかねない。今井さんが指摘する。

「日本政府の対南スーダン外交の最大の問題点は、キール政権のみを全面的に後押ししていることだと思います。昨年末、キール大統領は、南スーダンの和平のため、『国民対話』を行うと発表しましたが、そこには次のような問題点があります。マシャール派を含めた反大統領派の武装勢力を、対話の対象にしていないこと、開催場所が南スーダン国内であるために、命を狙われるような反大統領派のメンバーには、実質的に対話参加への道が閉ざされていることなどです。本気で和平を目指すのであれば、反大統領派の各勢力を交え、第三国で国民対話を行うよう、日本政府も働きかけるべきでしょう」

国民対話は、昨年末、キール政権による数々の虐殺や人権侵害を懸念し、南スーダンへの武器輸出を制限する国連安保理決議に、安倍政権が賛成しない理由としてあげたものでもある。曰く、「キール政権が国民の和解に向けての方向性を打ち出したタイミングで、安保理が武器禁輸を決議することは、かえって悪いメッセージを送ることになる」とのことだ。それならば、より一層、国民対話がかたちだけのものにならないよう、日本も働きかけるべきだろう。だが、実際には、安倍政権が対南スーダン武器禁輸に賛成しなかった理由は、武器禁輸で南スーダン政府の機嫌を損ね、同国に派遣された自衛隊への悪影響が及ぶことへの懸念であったことが、米国のサマンサ・パワー国連大使(当時)によって暴露されている。つまり、南スーダンでの虐殺の危機への対応より、自衛隊派遣を優先したということだ。

キール政権の下、各国から派遣されたPKO部隊の活動も南スーダン政府軍に妨害されている。「南スーダン政府軍があちこちで、PKO部隊の移動に制限をかけ、『従わないなら攻撃する』と脅したりもしています。PKOの中でも、現地の人々の安全確保を任務とする、地域防護部隊を各地に展開させることも、キール政権は同意したはずですが、実際にはその約束は果たされていません。PKO5原則の2、PKO活動が受入国の同意を得ているとは言い難い状況です」(今井さん)。

南スーダンでの支援活動中の今井さん。JVC提供
南スーダンでの支援活動中の今井さん。JVC提供

○自衛隊派遣ありきが対南スーダン外交・支援の障害

和平どころか、むしろ緊迫している南スーダン情勢。今井さんも「国内外で避難生活を余儀なくされている人々は南スーダンの国民の3分の1にも上ります。飢餓も深刻で、国民の約半数が食料危機にあります」と訴える。南スーダンの内戦を終結させ和平を実現することは急務だが、自衛隊派遣ありきの安倍政権のスタンスが、日本のできることを制限していると言えるだろう。つまり、自衛隊の派遣を正当化し、そして現地での活動に悪影響が及ぶことを恐れるがゆえにキール政権のご機嫌を損ねないようにしてばかりいる。「南スーダンに紛争当事者はいない」とし、国民対話がかたちだけであることや、PKOの地域防護部隊が展開できていないなどの現実を直視していない。南スーダンへの武器輸出規制にも賛成できない。自衛隊が駆けつけ警護などをして、現地武装勢力と戦闘になれば、日本人自体が敵視され、NGOなどの活動も危険なものとなる。それならば、いっそ自衛隊を撤退させた方が良いだろう。その上で、

・キール政権に反大統領派の各勢力も国民対話に参加させるよう働きかける

・南スーダン国内外の避難民支援

・南スーダンへの食料支援

など、日本ができる貢献をしていくことが望ましいのだ。

(了)

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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