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世界ヘビー級チャンプが受け取った脅迫状

林壮一ノンフィクションライター
Timが公開した脅迫状

1997年に出会って以来、私は元世界ヘビー級チャンピオン、ティム・ウィザスプーンと付き合って来た。10年間取材し、ある試合ではセコンドにまでついた。今でも連絡を取り合い、「ブラザー」と呼び合う仲だ。

拙著『マイノリティーの拳』(新潮文庫)では、彼の章を作った。<どうしても書きたい男>だった。

ティムはプロモーターに金を毟り取られ、奴隷契約に泣いたチャンピオンとして知られる。その相手に怒りを示すこともあったが、「まぁ、あんな輩もいるんだよ」と、達観した言葉を吐いていた。インタビューを重ねるなか、ティムは時折、「もう思い出したくない」という顔も見せた。

が、今回、自身の手でプロモーターとの法廷闘争中に受け取った脅迫文を公開した。脅し文句と銃弾が2発。彼の名と共に、娘の名前も書かれている。

実に生々しい。

脅しに屈せず、和解を勝ち取るまでティムは法廷でファイトした。その後、40代半ばまでリングに上がった。全ては「子供を守るため」だった。「もう引退したほうがいい。怪我をする前に…」と語りかけたこともある。

今回、この脅迫文を目にし、ボロボロになりながらも父親として闘った光景がまざまざと蘇った。

現在58歳のティムは、子供&孫たちに囲まれ、幸せそうに暮らしている。「親とは何か?」を教えられた気がする。

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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