五輪決勝で疑惑の判定に泣いたパウンド・フォー・パウンド最強男
1988年ソウル五輪の決勝で、圧倒的優位に試合を運んでいたにもかかわらず、ホームタウンディシジョンに泣き、銀メダルに終わったロイ・ジョーンズ・ジュニア(47)。
本来なら、彼は間違いなく金メダルを手にしていた。実際、コンピューターがはじき出したクリーンヒット数もジョーンズの78に対し、相手の韓国選手は32に過ぎなかった。
プロ転向後は、ミドル、スーパーミドル、ライトヘビー、そしてヘビーと4階級を制し、長くパウンド・フォー・パウンド最強と謳われた。特に、2003年3月にWBAヘビー級王者、ジョン・ルイズからワンサイドの判定勝ちでタイトルを奪ったファイトは圧巻だった。15kgも重い相手に対し、スピードとテクニックで終始リングを支配した。
同試合はラスベガスで最も大きなハコ、Thomas & Mac Centerで行われた。ファイト中の最終ラウンドに、ジョーンズが飛び上がってガッツポーズした姿が忘れられない。
しかし、ボクサーは誰もが老い、リングを去っていく…。ジョーンズも伏兵にKOされてダメージを負い、スピードを失った今、引退するのが普通なのだが………47歳となっても尚、戦いを続けている。8月13日、故郷であるフロリダ州ペンサコーラのリングに上がるそうだ。
HBOの解説もこなし、喰うには困らない筈のロイ・ジョーンズ・ジュニアは、私が『マイノリティーの拳』で描いたファイターたちとはまったく違うタイプである。
なのに何故、まだ彼は闘うのか?
「リングでしか感じられない高揚感をひたすら追い続けているのだろう。止められないんだよ」
とはロス五輪に出場した元ボクサーの言葉だ。
とはいえ、致命的な怪我だけは負ってほしくない。私と同じ歳であるだけに、特別な感情がある…。1999年にレイクタホでインタビューした時、ロイ・ジョーンズ・ジュニアは言っていた。
「ボクシングほど美しく、やりがいのある仕事はない。最高のスポーツさ」
”生きる場所”を見付けられない人間に比べれば、幸せな男だと思う。が…やはり危険だと言わざるを得ない、ロイ……。