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内山高志を撮り続けたフォトグラファーによる「ベストショット」

林壮一ノンフィクションライター
内山を撮り続けるフォトグラファー、山口裕朗による渾身の1枚

「この写真は、東洋太平洋タイトルの初防衛戦で内山高志くんが山崎晃をストップした時の写真(2008年2月2日)です。リングに上がると能面のように表情を見せない内山。相手への敬意を持ち、勝っても絶対はしゃがない男が、しぶとく粘る山崎をストップに持ち込んだ時に、最初で最後の咆哮をあげた時の写真です」

山口裕朗と内山高志の出会いは、11年以上前のことだ。新人だった内山が、東洋太平洋&世界タイトルを獲得し、長く防衛を重ねて日本を代表するチャンプとなっていった様を、山口はファインダー越しに眺めて来た。勿論、タイトルマッチは全てリングサイドから撮影している。2015年には「漸進」というタイトルの、内山高志写真集も刊行した。

今回、その山口に私は頼んだ。これまで何千枚内山を撮影したか知らないが、ベストショットを選んでくれと。

当初、「難しいことを言うなぁ…」と山口は頭を抱えていたが、3日後に送られて来たのが、この1枚である。

山口は、2016年クリスマスまでのおよそ1年半を、アメリカを拠点に活動した。渡米前、私は「アメリカ社会にどっぷり浸かって、あちらでしか撮れない写真を沢山撮っておいで」と、アドバイスした。しかし山口は、内山の試合の度に帰国し、リングサイドでカメラを構えた。

それは、ゴロフキンやマディソン・スクエア・ガーデン、アトランティックシティー・コンベンションセンター以上に、「内山高志」を撮影したかった彼の心境を表している。

デビュー間もない内山を紹介された山口は、本人からアマチュア時代の経歴をまとめたファイルを手渡される。

「その時は、礼儀正しい青年だな、と。4戦目に、ドリームジムの遠藤智也選手と試合をしたんですよ。その試合を撮影しました。不器用な遠藤が愚直に攻め、内山がそれを迎え撃って、素晴らしい試合になりました。まぁ、内山はほとんどパンチを貰わなかったんですが。

内山は試合終了後、グローブも外さず自分の控え室にも行かずに、まずは遠藤の控室に直行し、『今日はありがとうございました』と頭を下げたんです。芝居がかっているような気配もなく、爽やかなその姿に魅せられました。人間性を感じたというか…」

以来、山口は、フォトグラファーとして、元ボクサーとして、あるいは一人の男として、内山から目が離せなくなった。

「とにかく、周囲に対する気遣いを忘れない男なんです」

2連敗した内山を山口は次のように見詰めている。

「衰えは感じないですね。作戦ミスだとも思わない。でも、相性が悪くて、相手の方が強かったということだと思います」

そして、こう続けた。

「体も傷んでいないでしょうし、彼の試合をまた見たいなとは思います。でも、彼が今後どんな人生を歩んでいくかは本人にしか決められない。それは、他人がとやかく言えることではないですね」

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ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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