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2014年・映画ヒット状況を振り返る――『アナと雪の女王』が歴史的大ヒットを記録した一年

松谷創一郎ジャーナリスト

映画界の2014年

先日、今年ヒットした映画のトップテンが発表されました。『アナと雪の女王』が歴史に残る大ヒットを記録した2014年とは、映画界にとっていったいどんな一年だったのでしょうか。ランキングを振り返りながら、それを考えてみたいと思います。

歴史的大ヒットとなった『アナと雪の女王』

今年は、やはり洋画(外国映画)から振り返る必要があるでしょう。前述したとおり『アナと雪の女王』が驚くようなヒットとなったからです。

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興行収入254.7億円の『アナと雪の女王』は、同304億円の『千と千尋の神隠し』(2001年)、262億円の『タイタニック』(1997年)に次いで、史上3番目のヒットとなりました。なお、これはあくまでも興行収入ベースの記録であって観客動員数の記録ではありません。時代(物価)や作品によって入場料金が異なるからです。ちなみに、『アナと雪の女王』の累計観客数は、入場料金が2000円だった『タイタニック』を優に上回り、2000万人を超えています。それを踏まえると、1970年代以降では二番目に入場者数が多かった映画だと推定されます。やはり異常なほどの大ヒットだったのです。

『アナと雪の女王』は北米でも4億ドル(400億円強)の大ヒットになりましたが、世界各国の興行収入を見ると日本が突出して高いことがわかります。

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日本の映画マーケットは北米と中国に次ぐ世界3位の規模ですが、それでも群を抜いています。また、日本の7割ほどのマーケットに成長している韓国でも大ヒットとなりました。『アナと雪の女王』は、抑圧された女性がそれを跳ね除ける内容の作品でしたが(詳しくは拙文「『アナと雪の女王』でディズニーが見せた『再帰的王道』」)、女性の高学歴率が高くかつ社会進出率が低い日本と韓国で大ヒットしたのは、気になるところです。

ディズニー以外は停滞した洋画

そんな『アナと雪の女王』の恩恵を強く受けたのは、興行収入65.3億円の『マレフィセント』でした。映画館に『アナと雪の女王』を観に行った方はご存知でしょうが、『マレフィセント』の予告がかかっていたのです。近年、ダークファンタジーは日本ではあまりヒットしない傾向がありますが、そのなかでこれほど65億円ほどのヒットとなったのは、やはりあの予告の宣伝効果にあったのでしょう。

しかし、それ以外は実はパッとしない傾向でした。10位圏内に興行収入10億円台の作品が4本あり、しかも10位の『ノア 約束の舟』は13.7億円ほどです。過去15年間では、2012年に10億円台の作品が3本、10位の『TIME/タイム』が18.2億円という記録が最低でした。2000年代後半から洋画の不調は続いていますが、今年は『アナと雪の女王』に一極集中しているだけで、その傾向は変わっていないと見ることができます。

また、この洋画10位圏内には、『GODZILLA ゴジラ』、『トランスフォーマー ロストエイジ』、『オール・ユー・ニード・イズ・キル』と、日本のコンテンツをベースにしたハリウッド映画が3本も入っています。つまり、日本では親しまれやすい映画なわけです。これらも踏まえると、日本の観客はやはり内向きな傾向が強まっているように思えます。

例年どおりの傾向の邦画

次に、邦画(日本映画)に目を移してみましょう。目につくのは興行収入80億円台のトップ2本が山崎貴監督作品ということでしょうか。

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全般的にきわだって例年と異なる傾向はありません。『永遠の0』を除けば、マンガ原作の実写、シリーズアニメ、そしてジブリと、概ねいつもどおりです(『ポケモン』が少し低いのは気になりますが)。

ただ、ひとつ例年と異なる特徴を挙げるとすれば、テレビドラマの映画化作品がひとつも入っていないことでしょうか。公開されなかったわけではありません。とは言え、これで「ドラマ映画は飽きられた!」などと騒ぐのは短絡的な反応でしょう。『トリック』や『相棒』などは、以前ほどではないものの堅実にヒットしました。来年夏には木村拓哉主演の『HERO』も待機しています。

こうした状況を考えるには、2000年代以降の日本映画状況を見てみるといいかもしれません。以下は、00年代以降を5年ごとに区切ってヒット作の原作割合をグラフにしたものです。

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これを見るとわかりますが、00年代中期からマンガ原作とドラマ映画化のヒットが増え、アニメは堅調に三分の一ほどを占め、小説原作やオリジナルが低調な様子が見て取れます。90年代までは、『釣りバカ日誌』や『あぶない刑事』などはありましたがマンガ原作やドラマの映画化は少なく、小説原作(文芸大作)やオリジナル作品が目立っていました。その結果として、映画産業は低迷を極めていたのです。つまり、日本映画産業が00年代に復活したのは、映画の隣接分野であるマンガやドラマのファンを取り込んだことがやはり最大の要因と言えるでしょう。

総興行収入は史上最高に?

さて、こうした2014年の日本映画産業は、最終的にはそれなりに明るい結果に終わると予想されます。10月までの興行は前年比120%弱で推移しており、11~12月の成績しだいでは、最終的に総興行収入が2200億円台に着地すると見られます。過去最高は、『アバター』など3D映画の大ヒットが相次いだ2010年の2207.4億円でした。消費税増税の影響もありますが、今年は興行収入ベースでは史上最高の結果を出しそうな一年なのでした。

ジャーナリスト

まつたにそういちろう/1974年生まれ、広島市出身。専門は文化社会学、社会情報学。映画、音楽、テレビ、ファッション、スポーツ、社会現象、ネットなど、文化やメディアについて執筆。著書に『ギャルと不思議ちゃん論:女の子たちの三十年戦争』(2012年)、『SMAPはなぜ解散したのか』(2017年)、共著に『ポスト〈カワイイ〉の文化社会学』(2017年)、『文化社会学の視座』(2008年)、『どこか〈問題化〉される若者たち』(2008年)など。現在、NHKラジオ第1『Nらじ』にレギュラー出演中。中央大学大学院文学研究科社会情報学専攻博士後期課程単位取得退学。 trickflesh@gmail.com

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