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2015年10月21日に現れなかった未来人――『バック・トゥ・ザ・フューチャー2』の日を迎えて

松谷創一郎ジャーナリスト
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の3人(写真:REX FEATURES/アフロ)

ナイキが実現させたスニーカー

2015年10月21日――それは映画ファンにとって特別な一日だった。1989年に公開された映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー2』(以下『BTTF2』)で、マーティーたちが向かった未来のあの日だったからだ。

日本でもアメリカでもさまざまなイベントが開かれたが、話題になったのは映画のなかの2015年と現実の2015年の違いだ。なにが実現し、なにが実現しなかったかって答え合わせ。たとえば、以下の記事がそれを上手くまとめている。

オークション形式で限定販売される「THE 2015 NIKE MAG」
オークション形式で限定販売される「THE 2015 NIKE MAG」

ゴミで動くデロリアンを日本のメーカーが開発したって話題もあったけど、嬉しかったのは自動で紐を結んでくれるスニーカーをナイキが限定発売してくれるって発表だ。それとホバーボードは、日本のメディアアーティスト・八谷和彦さんが「エアボード」って機体を15年以上前に創っている。むかし観に行ったけど、ジェットエンジンを使ってるからびっくりするほどの大音量だった!

映画が想像できなかった未来

もちろん『BTTF』が想像していなかった未来もやってきた。たとえば映画のなかでは、携帯電話やスマートフォンを誰も使っていない。でも、テレビ電話は登場する。これは手塚治虫のマンガでも同じだ。むかし半日かけて手塚SF作品に携帯電話が出てくるか調べたけど、まったく出てこなかった。でもテレビ電話は出てくる。SF作家は、携帯電話がここまで普及する未来をなかなか予想できていなかったのだ。

その理由はたぶん複雑な話じゃない。トランシーバーなど携帯無線通信は、かなり昔から普及していたからからだ。当たり前すぎて、逆に想像できなかったんだろう。スマートフォンは便利だけど、きたるべき未来は意外と凡庸ってことだ。

そういや先日、30年前の世界からマーティーとドクがデロリアンに乗ってやってきた。そして、アメリカ・ABCテレビの’’ Jimmy Kimmel Live’’というコメディ番組に出演したんだ。その模様は以下から観ることができる。なぜだかわかんないけど、彼ら老けてるんだよね(ちなみこれ、オフィシャルの動画)。

彼らは、現在が残念な未来だと強くショックを受けている。それは、ビフが共和党の大統領候補者で人気トップだから。ちなみにいまの彼の名前は、ドナルド・トランプだよ!

未来人が現れなかった理由

さて、そうしたことよりも私がひそかにドキドキしていたのは、この記念すべき日になにが起こるのかってことだった。だって、未来人がタイムマシンを発明していたら、絶対この日を見に来たいって思うはず。しかもデロリアン仕様の車に乗ってね!

タイムマシンは、理論上は実現可能なんだ。詳しくはわかんないけど、アインシュタインが相対性理論で証明したのはそういうことらしい。ただ、時間移動をするために必要なエネルギーは、ブラックホールが吸い込む力に匹敵するんだって。ってことは、現在の科学ではまぁ無理ってこと。以上、道頓堀のそばのタバコ屋のおじさんから聞いた話なので確実だ。

だけど、将来的には可能になるかもしれない。人類はこれからも素晴らしき発展をするはずだから。でも、結局未来人は現れなかった。つまり、タイムマシンを未来人は完成できなかったんだ。なんだよ未来人、もっとがんばれよ!

……ってまずは思うんだけど、未来人が現れなかった理由としてもうひとつ考えられることがある。それは『BTTF』が忘れられる未来が到来してるってことだ。それは果たしてどういう未来なんだろう?

『BTTF2』では、『ジョーズ19』が3Dホログラム映画として公開されていたけど、まだ現在は実用化されていない(そのうちされるだろうけど)。たしかに映画館はアトラクション化する傾向にあるけれど(そしてこれは映画の先祖返りって評価されたりもするけど)、さすがに『BTTF』が忘れられる未来がくることはないだろう。

そうなると考えられるは、おもいっきり恐ろしい未来だ。もしかして人類は絶滅しちゃうの……? それ、怖くてたまらないんだけど……。

未来の技術はスゴイはず!

いくらなんでもそれじゃ怖すぎるので、もうひとつの可能性を示しておこう。

『藤子・F・不二雄大全集 T・Pぼん 1』(2011年/小学館)
『藤子・F・不二雄大全集 T・Pぼん 1』(2011年/小学館)

そのヒントは、日本の代表的なふたつのSF作品にある。ひとつが筒井康隆の『時をかける少女』(1965~67年)で、もうひとつが藤子・F・不二雄の『T・Pぼん』(1978~86年)だ。「土曜日の実験室!」が合言葉の『時をかける少女』は、27世紀から来た未来人が記憶を消す能力を持っている。これは4つの映画版でも同様だ。タイムパトロールを描いた『T・Pぼん』では、周囲の人物の記憶を消す「フォゲッター」(そのまんま)という機械が使われている。これは、タイムパトロールの主人公たちの存在が歴史に大きな影響を与えないための技術だ。

そう、だから2015年10月21日には、世界中のいたるところに未来人が実は来ていたんだよ。みんな、記憶を消されているだけ。だから、もしあなたが21日に『BTTF』のイベントに参加していてそこで写真を撮っていたら、それをじっくりと調べるといい。もしかしたら、そこに変わった恰好をした人物が写っているかもしれない。それが未来人かもしれない!(ただの変人かもしれないけどな!)

というわけでみなさん、Have a nice future!

ジャーナリスト

まつたにそういちろう/1974年生まれ、広島市出身。専門は文化社会学、社会情報学。映画、音楽、テレビ、ファッション、スポーツ、社会現象、ネットなど、文化やメディアについて執筆。著書に『ギャルと不思議ちゃん論:女の子たちの三十年戦争』(2012年)、『SMAPはなぜ解散したのか』(2017年)、共著に『ポスト〈カワイイ〉の文化社会学』(2017年)、『文化社会学の視座』(2008年)、『どこか〈問題化〉される若者たち』(2008年)など。現在、NHKラジオ第1『Nらじ』にレギュラー出演中。中央大学大学院文学研究科社会情報学専攻博士後期課程単位取得退学。 trickflesh@gmail.com

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