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俳優・森田剛の凄さに興奮せずにいられない。『ヒメアノ〜ル』

杉谷伸子映画ライター
(c) 2016「ヒメアノ〜ル」製作委員会

『金閣寺』『血は立ったまま眠っている』など、舞台でも高い評価を得ている森田剛。その彼が、映画初主演と銘打たれた『ヒメアノ〜ル』(原作・古谷実/監督・吉田恵輔)で連続殺人鬼を演じる。しかも、作品はR15指定。いったい、どんな世界を見せてくれるのか。俳優・森田剛の凄さに一度でも触れたことのある人なら期待せずにいられないはず。その想像をはるかに超えたものを見せて、森田剛の凄さを改めて突きつけつけてくるのが『ヒメアノ〜ル』だ。

ビル清掃会社で働く岡田(濱田岳)の平凡な日常と、高校の同級生である森田くん(森田剛と区別するため、劇中で岡田が使う呼び方を使用)の凶行が交錯する世界。

前半は、森田くんの暴力性を描く一方、カフェで働くユカ(佐津川愛美)に恋する職場の先輩・安藤(ムロツヨシ)のキューピッドをつとめることになった岡田の“恋と友情の板挟み”な日々が笑いを誘いながら綴られていくのだが、その岡田も森田くんのターゲットになっていくなか、凶行が繰り広げられる後半は、R-15指定も納得のハードさ。

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そのハードな描写がくらわす衝撃は、中盤にタイトルを差し込む大胆な構成も記憶から吹っ飛んでしまうほど。森田くんの犠牲になる人数もさることながら、女性にはこたえるシーンも少なくない。(“森田くん”と書いていながら、その響きと彼の凶行とのギャップに違和感を覚えずに入られません)

しかし、露骨な描写を極力避けつつも、森田くんの凶行を生々しく伝える吉田監督の手腕もお見事なら、森田くんが抱える狂気をこれ見よがしに演じるのではなく、森田くんを壊れた存在として感じさせる森田剛が素晴らしすぎる。再会した岡田と居酒屋で話す平板なトーンからして、感情表現の苦手ないまどきのフツーの青年のようでいて、その奥に彼が抱える不穏なものを感じさせるのだ。その口調から、彼の心がある時点で止まっていることが伝わってくるシーンには、鳥肌が立ちそうなほど。

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作品の空気感を和らげると同時に、不安や恐怖、そしてせつなさといった森田くんへの想いを観客に共感させてくれる濱田岳。恋についての名言に思いがけず感動させる一方でコメディリリーフとして本領発揮のムロツヨシ。と、演技陣もそれぞれに魅力的。SEXシーンやクライマックスに見せる佐津川愛美の女優魂にも惚れぼれだ。

とはいえ、森田剛という俳優の凄さと監督の力量に興奮しつつも、森田くんの凶行のおぞましさや、みぞおちに重く響くような感覚に打ちのめされるのも事実。その感覚は、観終わって何日も経っていても、ふとした瞬間に蘇る。この衝撃も作品も消化するのに時間がかかりそうというか、いや、消化できなくて正解なのかもしれない。まずは、俳優・森田剛の凄さを目の当たりにしてほしい。

『ヒメアノ〜ル』は5月28日(土)TOHOシネマズ新宿ほか全国公開

映画ライター

映画レビューやコラム、インタビューを中心に、『anan』『25ans』はじめ、女性誌・情報誌に執筆。インタビュー対象は、ふなっしーからマーティン・スコセッシまで多岐にわたる。日本映画ペンクラブ会員。

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