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ゴロフキン対レミュー戦は興行成績にも注目 〜世界ミドル級統一戦直前レポート

杉浦大介スポーツライター

Photo By HoganPhotos/GBP

10月17日 ニューヨーク マディソンスクエア・ガーデン

WBA, WBC, IBF世界ミドル級王座統一戦

WBAスーパー、WBC暫定王者

ゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン/33戦全勝(30KO))

IBF王者

デビッド・レミュー(カナダ/34勝(31KO)2敗)

MSGの大アリーナが完売状態

今年度屈指の人気興行となったゴロフキン対レミューのミドル級統一戦は、試合2日前の時点ですでに入場券のソールドアウトが発表された。

マディソンスクエア・ガーデン(MSG)の大アリーナは小さく仕切られることはなく、当日は約2万人を動員することが確定。危険なパンチャー同士の対戦であり、ゴロフキンにとって全国区に向けての“ショウケース”と呼ばるイベントは、素晴らしい雰囲気の中で行われることになりそうだ。

「カナダ、カザフスタン、ニカラグア、ハワイ、キューバの選手たちがメインの興行で大アリーナがソールドアウトになるのはアメリカくらい。この国に住んでいる人たちはなんてビューティフルなんだろう」

試合前の会見時に、レミューのプロモーター、オスカー・デラホーヤは大げさにそうまくしたてていた。

ただ、実際に前座に登場するローマン・ゴンザレス(ニカラグア)、ブライアン・ビロリア(アメリカ、ハワイ)、ルイス・オルティス(キューバ)も、ニューヨークがベースの選手ではない。そのカードがこれほど人気になったことが、ゴロフキンの商品価値の高まりを証明しているのだろう。

そこで気になるのが、PPV放送がどれだけの数字を叩き出すかである。

カネを払っても見たいか

ゴロフキンにとってHBOデヴューとなった2012年9月のグジェゴシ・プロスカ戦では平均視聴者数は68万5000人に過ぎなかったのが、前戦のウィリー・モンロー Jr戦では134万人。20連続KOを続けるカザフスタンの怪物が、ボクシングマニアにとって必見の存在であることはもう間違いない。

しかし、少なからずのスポーツファンが、約50ドルのPPV料金を払ってまで試合を見たいと思うかはまだ未知数。知名度急上昇中のゴロフキンも、正直、PPVで視聴者を限定するのはあと1戦早かった印象もある。

ハードルを上げるには、レミューのようにインパクトのある相手をHBOのレギュラー放送で倒してからでも良かったのではないか。そんな声は業界関係者の間からも少なからず聴こえてくる。

「ゲンナディとレミューにとっては初のPPV。私たちとゴールデンボーイ・プロモーションズはそのリスクを理解している。購買数が20万件に届かなければ落胆することになるが、試合が近づくにつれて楽観的になっている。20万件を越えれば成功。30万件に近づけば大成功と言って良い」

K2プロモーションのトム・ロフラー氏はそう語り、実際に売り上げ20万件を突破すれば投資額との対比で利益が出る公算だという。

フロイド・メイウェザーがコンスタントに100万件前後を売り上げているのに比べ、目標が随分と低いと思う人もいるかもしれない。しかし、メイウェザー、オスカー・デラホーヤ、ミゲール・コット、マニー・パッキャオといったビッグネームも、初めてメイン格を務めた際のPPV売り上げは25万〜35万件だった。

どれだけスター性があっても、“追加料金を払ってでも見たい”と思われる選手になるにはそれなりの時間が必要だということだろう。

未来に繋げるために

10月17日にはカレッジフットボールのビッグゲームが予定されている。また、現在のニューヨークはMLBのメッツの快進撃に沸いていて、ゴロフキン対レミュー戦は時間的にナ・リーグ優勝決定シリーズ第1戦とかちあってしまう。

そんな背景を考えれば、PPV売り上げは20〜25万件程度に落ち着くことが妥当ではないか。逆に言えば、もしもここでプロモーターが基準に挙げた30万件に届くようなことがあれば、ゴロフキン人気も本物ということになる。

「興行的にも成功すれば、他の王者たちをリングにおびきだすための交渉時に有利な材料になる。今回のようなイベントをゲンナディが成功させれば、他の選手たちにも自信を持ってオファー出来るからね」

ロフラー氏の言葉通り、ここでの興行成績は、ゴロフキンの今後を考えたときにも大きな意味を持ってくる。

レミュー戦に勝てば来月に行われるミゲール・コット対サウル・アルバレス戦の勝者との対戦が義務付けられるが、このミドル級“決勝戦”の現実性を疑う声は後を絶たない。カネロはともかく、35歳になった小型ミドル級のコットが勝ち残った場合、ゴロフキンのビッグファイト路線が再び暗礁に乗り上げることは十分に考えられる。

「ゴロフキンは知名度が低く、対戦しても全米的なイベントにはならない」

これまで対戦を避ける際の常套手段だったそんな言い訳を、今後は許さないためにーーー。アメリカ国内でも正真正銘のスターだと認識されるだけの数字を、ここで残しておけるかどうか。待望のゴロフキン対レミュー戦では、試合内容、結果にとどまらず、数日後に発表される興行成績の行方からも目が離せない。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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