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引退試合?マニー・パッキャオ復帰戦の相手を予想する

杉浦大介スポーツライター

Photo By Kotaro Ohashi

「パッキャオはこれからこの試合、さらにはテレンス(・クロフォード)のファイトの映像を見て、対戦相手の決断を下すことになる。私が選ぶわけではないんだからね」

11月7日にラスベガスで行われたティモシー・ブラッドリー対ブランドン・リオス戦後、ボブ・アラムは会見場でそう語っていた。

この日の試合ではブラッドリーが9ラウンドTKOで圧勝。HBOで全米中継されたファイトでの好パフォーマンスで、近未来のビッグファイトに名乗りを上げた。最近では来年4月9日に予定されるマニー・パッキャオの次戦の対戦相手が業界の話題の1つになっているが、アラムの言葉通り、ブラッドリーも候補の一人に違いない。

10月下旬には、アラムが“パッキャオは次戦限りで引退する”という趣旨のコメントを残して話題を呼んだ。

来夏には政治活動に専念するというのがその理由だが、ボクサーの“引退”ほど疑わしいものはない。経済的問題を抱えているというパッキャオが、依然として一戦ごとに1000万ドル以上を稼げる現時点で本当に身を引くかどうか。しかし、真偽はどうあれ、9月のフロイド・メイウェザー対アンドレ・ベルト戦同様、この試合も“引退試合”に近いキャッチコピーで売り出されていくのだろう。

さて、それでは、パッキャオの“ラストファイト”の相手には誰が選ばれるのか。

ケル・ブルック、ファン・マヌエル・マルケスの名前が挙がっているが、この2人はもはや現実的ではあるまい。ブルックは実力的には“メイウェザー以降”のトップレベルでも、アメリカ国内では絶対的な知名度不足。膝に爆弾を抱える宿敵マルケスは昨年5月以降は一戦も行っておらず、しかも第4戦でのKO勝ちに満足しているようで、ライバルシリーズはこのまま終了が確実だろう。

そんな2人を除いた上で、今回は4人の最有力候補をピックアップし、それぞれの可能性を探っていきたい。

ティモシー・ブラッドリー(32歳/33勝(13KO)1敗1分1無効試合)

今年中にジェシー・バルガス、リオスと実力者に連勝したブラッドリーが、3度目の直接対決実現の可能性を上げたのは事実に違いない。

パッキャオとは2012、14年に対戦して1勝1敗。同じトップランク、HBO傘下ゆえにマッチメイクは容易で、本来ならラバーマッチが“決着戦”として盛り上がっても不思議はない。特にリオス戦のダイナミックな動きを見た後で、第3戦ではブラッドリー有利と予想する人も多いのではないか。

ただ、最初の2戦では確かに星を分けたが、実際にはパッキャオが明白に連勝したとみるファン、関係者が大半。現時点での実力は伯仲していても、ブロッドリーの絶対的なスター性のなさもあって、第3戦は一般的な希求力に乏しい。興行的にも苦戦する可能性が高く、HBOが積極的に動くとは到底考えられないのが現実である。

筆者個人としても、パッキャオ対ブラッドリー戦にはもう興味は持てない。32歳のWBO世界ウェルター級王座には、新鋭サダム・アリとの指名試合、あるいは2013年3月に死闘を繰り広げたルスラン・プロボドニコフとの再戦に向かって欲しいというのが正直なところである。

テレンス・クロフォード(28歳/27 戦全勝(19KO))

本当に次戦がパッキャオのラストファイトだとすれば、その相手としてクロフォード以上に適任の選手はいない。

多くの媒体から2014年の年間最優秀選手に選ばれ、今年も圧倒的な内容で2戦2勝。28 歳と年齢的にも今が全盛期のスピードスターは、本格的なスターダムの一歩手前にいる。やや地味なパーソナリティもあって現時点ではまだ地元オマハでしか集客力はないが、パッキャオに勝てば多くが変わる。

「(10月24日のティエリー・ジャン戦での)クロフォードの出来は際立っていた。彼の試合前後の姿勢も素晴らしかったし、マニー・パッキャオ戦を実現できたら良いだろうね。あとはマニー次第だよ」

パッキャオ引退後の後継者を育てたいボブ・アラムが、このマッチメークに随分と執心しているようなのは理解出来る。

ただ、来月で37歳を迎え、しかも右肩の故障上がりのパッキャオが、この危険な相手を望むのかどうか。実際に対戦すれば、すでに多くの関係者がクロフォード有利と予想することも考えられるカードである。特にアラムの言葉に反し、パッキャオ本人がもうしばらく現役続行し、まだまだ稼ぎたいと考えているとすれば話は変わってくる。

一方、まだエリート級との対戦経験がないクロフォードにとっても、初の挫折を味わうリスクを十分に秘めたファイトであることを忘れるべきではない。

勝者の読みづらい新旧対決は魅力だが、結果次第で片方の商品価値に大きな傷がつく。そんな状況下で、本人たち、プロモーター、そしてテレビ局が最終的にどういった判断を下すかに注目が集まる。

アミア・カーン(28歳/31勝(19KO)3敗)

11月上旬、ある英国タブロイド紙が“パッキャオ対カーン戦が決定”と伝えて話題になった。この報道をアラムは強硬に否定したが、交渉がなされているのは事実なのだろう。

カーンのマネージャーであるアル・ヘイモンをトップランクが訴えていることを考えれば、そもそも対戦話がある自体が意外に思える。アラムによると、カーンとヘイモンの関係はそれほど深くなく、トップランクはカーン陣営と直接交渉ができる。両者の間で交渉成立すれば、ヘイモンも乗り気だという。

元ワイルドカードジムの同僚同士の対戦は、面白いマッチメークではある。カーンの世界的な知名度はクロフォードより上で、ある程度の興行的成功は約束されている。パッキャオにとってクロフォードよりやり易い相手であり、勝機も十分。特に自分たちが主導で興行出来るならば、トップランクにとって旨味のあるイベントに違いない。

ただ・・・・・・アラムがなんと言おうと、ヘイモンは本当に政治的な垣根を越えたカードを承諾するのかどうか。メイウェザー対パッキャオほどの莫大なイベントにはならないだけに、その根本部分の疑問は消えない。

また、過去数年のカーンはメイウェザー、パッキャオとの対戦実現を待ち続けるばかりに熱心で、リング上で目を引く実績を積み重ねていない。にも関わらず、喋りすぎるがゆえにやや反感を買い、メイウェザーにも他選手との交渉を有利にする材料として利用されてしまった感がある。

そして、それと同じことが、今回のパッキャオとの交渉時にも起こると考える関係者は決して少なくない。

フロイド・メイウェザー(38歳/49戦全勝(26KO)

9月のベルト戦後に現役引退を発表したメイウェザーだが、早期復帰を疑う声は後を立たない。目立ちたがりな性格の上に、派手な散財も趣味の1つ。加えてまだトップレベルの実力を残しているのであれば、ビッグマネーファイトでのカムバックを早々に決断しても誰も驚かないだろう。

5月2日のメイウェザー対パッキャオ戦の内容への米国内での評判は、日本で考えられている以上に悪い。以降のPPV売り上げが軒並み期待を下回っていることが示す通り、業界全体がしばらく影響を受けそう。来春頃にリマッチが行われたとして、興行成績は半減、あるいは1/3程度に激減するのではないか。

ただ・・・・・・例えそうだとしても、現在の業界において、現実的に考えられる中で、メイウェザー対パッキャオ以上の興入を叩き出せるカードは依然として存在しない。

先月上旬には、パッキャオ本人が「メイウェザーと再戦交渉している」と発言して話題になった。ここでのコメントは先走りだったようだが、今後に話が再燃してもまったく不思議はない。すでに手の内を晒した相手との稼げる再戦は、メイウェザーにとってもむしろ美味しい話のはずである。

プロモーターの違いに端を発する交渉の難易度を考えれば、来春のリマッチ成立はやはり考え難い。ただ、この2人がともに戦える力を残している限り、再戦の噂は消えない。これから先も、いつまでも、“世紀の第2戦”は常に可能性の1つとして語られ続けることになるのだろう。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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