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盛り上がりはもう一つ?中南米夢決戦、ミゲール・コット対カネロ・アルバレスの興行成績の行方を考える

杉浦大介スポーツライター

Photo By Kotaro Ohashi

11月21日 ラスベガス

マンダレイベイ・イベンツ・センター

WBC世界ミドル級タイトル戦(155パウンド契約ウェイト)

前王者

ミゲール・コット(プエルトリコ/40勝(33KO)4敗)

サウル・“カネロ”・アルバレス(メキシコ/45勝(32KO)1敗1分)

PPV売り上げは意外にも苦戦か

コット対カネロの中南米ライバル対決は、挙行決定の時点では興行的な成功が約束されていると思われた。しかし、ファイト直前になっても全米的なBuzz(興奮した噂話)は思ったほどに高まっていない。

一般公開された計量こそなかなかの盛り上がりをみせたものの、この時点で依然としてチケットは残っていたという。ファイトウィークを通じて、ラスベガスでは興行失敗の可能性を囁く関係者も少なくなかった。

予想されるPPV売り上げは50~70万件程度。アメリカ人ではない選手同士の激突でこれだけの数字を稼げば、本来なら御の字のはず。しかし、メインの両選手に高額のファイトマネーが保証されているがゆえに、利益を出すためには100万件近くを売る必要があると喧伝された。

直前になって発表された報酬は、コットに1500万ドル、カネロに500万ドルと予想よりもやや低額。だとすれば、プラスに持っていくために、単純計算で60万件がボーダーラインか(前座の総報酬額、入場料収入などによって違いは出てくる)。正直、これだけの数字を稼げるかどうかは微妙なところだろう。

「黙っていても売れる試合。カネロと私からどんなファイトが期待できるかは誰もが知っていること。私は準備ができているし、カネロも同じのはず。ファンが望んでいるものをお届けしたい」

ミゲール・コットはそう語っていたが、実際にPPVで100万件近くを売ろうと思えば、普段はこのスポーツに熱心でない層も多少なりとも巻き込む必要がある。

コット対カネロがボクシングマニア垂涎のマッチアップなのはご存知の通り。しかし、一般のスポーツファンにまでその熱気が届いているかといえば、必ずしもそうとは言い切れない。

“Buzz”が思ったほどではない理由は幾つか浮かんでくる。

カネロ、コットの2人の母国後はスペイン語であり、英語でのスピーチは必ずしも得意ではない(カネロは通訳付き)。コットが属するロックネイション・スポーツの親玉Jay-Zが、プロモーション活動にほとんどと言って良いほど参加していない。また、高額のタイトル承認料支払いを渋ったコットが、直前にWBCタイトルを剥奪されたことも助けにはならないはずだ。

”世紀の一戦”の影響

コット、カネロは過去に高数値をマークするPPV興行の主役になったことはあるが、それはすべてフロイド・メイウェザー、マニー・パッキャオというメガスターの相手役を務めた”Bサイド”でのものだった。

どちらも現時点で米国内での知名度は業界を超越しているとは言えない。だとすれば、プロモーション活動がスムーズでない場合、影響を受けるのは仕方あるまい。

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また、前回のコラムでも記した通り、5月2日のメイウェザー対パッキャオ戦の注目度が異常なほど高まった上で、内容が消化不良に終わったことへの反動を指摘する声も後を絶たない。

それ以降に行われたメイウェザー対アンドレ・ベルト、ゲンナディ・ゴロフキン対デビッド・レミュー戦のPPV売り上げも予想をかなり下回るもの。この傾向はもうしばらくは続きそうで、コット対カネロが影響を受けることは十分に考えられる。

そういった状況下で行われるがゆえに、21日のファイトはこれまで以上に内容が問われるという見方もできる。

筆者も最終的なPPV売り上げは50~60万件程度に落ち着くと見ている。主催者の理想からは遠いとしても、この数字は今年度No.2。メイウェザー対パッキャオ戦に続き、今戦までも期待外れで終わるようなことがあれば、米国内のファンの“PPV離れ”がさらに進んでも不思議はない。

もっとも、スタイル的にコットとカネロの試合が凡戦に終わることは少々考え難いのも事実ではある。真っ向から噛み合った好ファイトは必至で、もともとこの試合が熱望されたのはそれが最大の理由だった。

PPVの数字はどうあれ、“ボクシング界の切り札”と呼べるビッグファイトが、予想通り、いや予想以上の激闘になり、劇的な結末を迎えることを願いたいところだ。大舞台での優れた試合内容こそが、何より、この業界の明る未来に繋がっていくはずなのである。

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スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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