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4年前の中村俊といまの本田が、少しばかり重なって見える。

杉山茂樹スポーツライター

ザックジャパンは「本田ジャパン」だ、とは、前から述べていることだが、本田がいない試合を立て続けに見せられると、改めてそういいたくなる。

それは、岡田監督の下で戦った南アW杯から始まったことだ。ご存じのように、本田がスタメンに抜擢されたのは、本大会直前。その初戦、対カメルーン戦で岡田監督は、なんの前触れもないままに、彼をセンターフォワードとして起用。この「0トップ作戦」が、カメルーン戦の勝利、ひいては日本のベスト16進出を導き出すことになった。

監督がザッケローニに替わると、本田はポジションを一つ下げ、4−2−3−1の3の真ん中で起用された。そこで圧倒的なボールキープ力を見せつけた。本田に預けておけば安心。時間が作れるというわけで、日本代表に欠かせない選手になった。

日本は中盤天国だ。客観的に見て、中盤に優秀な人材が多い国である。中田英、小野、中村俊、名波、藤田、遠藤、中村憲等々、枚挙にいとまがないほどだが、本田に似たタイプはいない。

現代表で同じ高さ(4−2−3−1の3)を担当する香川、清武、乾とも違う。巧緻性を売りにするる従来の中盤選手とは、一線を画している。

真ん中もできれば、サイドもできる。所属のCSKAモスクワでは、守備的MFも経験している。名古屋グランパス時代には、左サイドバックの経験もある。すなわち、プレイ可能なエリアが広い。ユーティリティ性が高い。

状況に応じて、身体の向きを変える特徴も見逃せない。胸と背中をヒラヒラさせることで、調整を図っている感じだ。相手のディフェンダーを背負うプレイも苦にしない。

同じタイプが2人といないところにその価値があるのだが、それは同時に、替わりになる選手がいないことを意味する。香川の替えは存在するが、本田の替えは存在しないのだ。

最もいなくなって困る選手。誰よりもチーム力に影響を及ぼしている選手。

日本代表がカナダ戦、ヨルダン戦と冴えのない試合を演じた理由はハッキリしている。予想されたことといってもいい。

その前戦であるオマーン戦でも苦戦した理由も同様にハッキリしている。気温差の激しいモスクワから、試合間際になって現地マスカット入りした本田のコンディションに原因があった。

そして本田はその後、左足首の怪我が悪化。所属クラブでも戦列から離れている。先行きは不透明だ。アジア予選はそれでも通るだろうけれど、本大会における活躍は、その回復の程度と大きな関係がある。

本田ジャパンと言いたくなる所以だが、それは決して好ましい話ではない。誰か1人いなくなると、サッカーゲームの戦いに大きな影響が出るようなチーム構成ではまずいのだ。本田がいてもいなくても同じコンセプトで試合ができるチームを監督は作るべきなのだ。

オマーン戦。前述の通り、本田の調子は最悪だった。誰の目にもそれは明らかだった。にもかかわらず、ザッケローニは彼をフルタイム出場させた。そこに僕はザックジャパンの問題点を見る気がした。メンバー固定化の弊害を。

○○中心のチーム。とはよく聞く言い回しだ。岡田監督時代も中心選手はいた。遠藤と中村俊だ。2009年6月、タシケントでウズベキスタンに勝利し、南アW杯出場を決めると、岡田監督はこういった。

「南アW杯には遠藤、中村俊中心で臨む」と。

しかし、南アW杯が近づくにつれ、中村俊の調子が低下。それと呼応するように、日本代表も下降線を辿った。まさに固定化の弊害に悩まされることになった。

そこに現れたのが本田。中村俊に替わり本大会で、0トップとしてスタメンを飾ると、カメルーン、デンマーク戦で勝利の立役者として大活躍。突然のメンバー変更について質問を受けた岡田監督は、絞り出すように一言、こう述べた。

「主力選手の不調」

本田の怪我の程度を知る身ではないが、4年前を思い出さずにはいられなくなる。「失速パターンにはまり込みそうだ」と、かねがね述べてきたが、ザックジャパンの最近の戦いを見ていると、その心配はいっそう膨らむ。皮肉にも、4年前の中村俊といまの本田が、少しばかり重なって見えるのだ。

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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