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C・ロナウド不発でまたドローのポルトガル。得点力不足より心配な弱点

杉山茂樹スポーツライター

ポルトガル対オーストリア。この試合の一番のハイライトは、クリスティアーノ・ロナウドがPKを、ポスト直撃弾にしてしまった後半34分のシーンになる。

左サイドでアンドレ・ゴメスとワンツーを決め、縦突破に成功した左サイドバック、ラファエル・ゲレイロが中央にグラウンダーのセンタリングを、マイナス気味に送った瞬間である。オーストリアのCB、マーティン・ヒンターエッガーが、シュートを狙いに飛び込んだC・ロナウドを故意に引っかけ、ポルトガルにPKが与えられた。

PKスポットにC・ロナウド本人が直接ボールをセットした。すかさず手元の双眼鏡で、その表情を追えば、自信満々という顔ではなかった。外すかもしれない――とのこちらのヨミは、的中してしまった。

ポルトガルはそれまでチャンスを多く作り、オーストリアに攻勢をかけてきたが、ゴールを奪うことができなかった。試合は0−0で推移していた。第1戦で露わになった得点力不足を、この試合でも引きずることになった。

ポルトガルが抱える内的要因もさることながら、オーストリアの健闘についても触れる必要がある。ポルトガルが第1戦で戦ったアイスランドにも言えるが、真面目なのだ。プレーが勤勉、実直で、隣国のドイツのメンタリティを彷彿とさせる敢闘精神にも溢れている。

ドイツをヘタにした分だけ、真面目さをさらに加えたようなチーム。勤勉、忠実、真面目とは日本のサッカーの専売特許だが、彼らは狡猾な反則も辞さない図々しさ、ふてぶてしさも持ち合わせている。その、オーストリア式ゲルマン魂とも言うべき気質に、C・ロナウドが嫌悪感を抱いていたことは確かだった。気持ち悪ささえ覚えるイヤなムードから逃れたい。PKを蹴る前の彼の顔にはそう書かれているように見えた。

オーストリアのマルセロ・コラー監督は後半20分の段階で、専守防衛に転じていた。1トップ下で、オーストリア唯一のインターナショナルプレーヤー、ダビド・アラバ(バイエルン・ミュンヘン)をベンチに引っ込めたのだ。ただでさえ泥臭いチームは、これを機にその濃度をいっそう高めることになった。

だが、ポルトガルのボール支配率は結局59%に留まった。これがスペインなら65%はいきそうなものだが、それには理由がある。ボールを奪還するのに手間取ったからだ。

ポルトガルのCB、リカルド・カルバーリョとぺぺは、言ってみれば歴戦の勇士だ。欧州サッカーを代表する顔だが、その守りはいささか不安定だった。それは最終ラインが深すぎたことと大きな関係がある。

ともにベテランだ。走力に自信がないので、背後を突かれたくないと考えているのか。理由は定かではないが、その結果、守備的MFとの間にスペースがぽっかり空くこともしばしばだった。そこを大してボール操作術の高くないオーストリアに突かれた。決定機、惜しいチャンスを何度か作られ、ヒヤリとさせられている。そこにポルトガルの弱点を見た気がした。

とはいえ、これまでなら、C・ロナウドを反則で止めたヒンターエッガーにはイエローカードではなくレッドカードが出されているシーンだった。ペナルティエリア内の決定的シーンを反則で止めれば、赤紙&PKだった。以降、オーストリアは10人の戦いになっていたはずだ。残り時間は10分とプラスアルファだったが、もしオーストリアが10人なら、ポルトガルには大きなチャンスが巡ってきただろう。PKは外すわ、11人の戦いに持ち込まれるわ。今大会から導入された新ルールがポルトガルに災いしたことは確かだった。

大会前、ブックメーカーから6、7番手に推されていたポルトガルは、これで2戦引き分けになった。アイスランドとオーストリア。若干タイプは違うが、ともかく真面目だった。欧州のひのき舞台で、ひと泡吹かせたいと願う両者のモチベーションは、ひしひしと伝わってきた。ポルトガルの2引き分けは、それに面食らった結果だと言える。

本大会出場国の16から24への増加は、このようなチームにチャンスが与えられることを意味する。16チームでは日本が勝てるかもしれない相手は少なかったが、24になると現実的になる。つい日本と比較して見ている自分がいる。日本はアイスランド、オーストリアに勝てるのか。彼らが強国に向かう術を持ち合わせていたのに対し、日本はどうなのか。

ポルトガルの最終戦の相手は、すでに勝ち点4を挙げているハンガリー。こちらにはポルトガルの得点力不足より、ディフェンスラインの下がり過ぎの方が心配に見える。相手のレベルが上がれば、カウンターの餌食になるような気がして仕方がないのだ。

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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