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過労死ライン超える長時間労働、時給400円、追い詰められた女性実習生(3)徳島や佐賀でも課題山積

巣内尚子研究者、ジャーナリスト
会見する徳島労連の森口英昭事務局長。筆者撮影、東京・霞ヶ関。

全労連は7月28日、東京・霞ヶ関の厚生労働記者会で記者会見を開き、「外国人技能実習制度に関する提言」を発表し、日本政府は技能実習制度の抜本的改正に向けた法案を再検討すべきだと訴えた。

その中で、全労連東海北陸ブロックの榑松佐一議長と岐阜県労連の平野竜也事務局長により、時給400円や過労死ラインを超える長時間労働など、岐阜県の縫製業で働く技能実習生の深刻な状況が説明されたことを、「過労死ライン超える長時間労働、時給400円、追い詰められた女性実習生(1)全労連が実習制度の改善要求」「過労死ライン超える長時間労働、時給400円、追い詰められた女性実習生(2)表に出る問題は氷山の一角」で伝えた。

だが、技能実習生が困難に直面しているというのは、なにも岐阜の縫製業だけの話ではない。

徳島労連の森口英昭事務局長によると、徳島では多くの技能実習生が縫製業で働いているものの、ここでも受け入れ企業による違反行為や技能実習生に対する人権侵害といった課題が出ているという。また、佐賀県労連の稲富公一事務局長は、佐賀でも技能実習生からの相談が入っているとする。

◆高額の手数料や保証金を払い子どものために日本へきた母親が直面した困難

会見する全労連幹部。筆者撮影、東京・霞ヶ関。
会見する全労連幹部。筆者撮影、東京・霞ヶ関。

森口事務局長によると、徳島の縫製業で働いている技能実習生もやはり大半は女性だとみられるという。

こうした女性たちは、独身者もいるが、中には子どもを故郷に残して日本に働きに来ている母親たちもいる。

中国出身の女性が2012年に、徳島地方裁判所に提出した陳述書には、子どもを故郷に置いて徳島で働いた彼女の苦境がつづられている。

女性は来日前、既に結婚し、一時は専業主婦だったが、その後に縫製業で働き、縫製のスキルを身につけていた。

そんな中、友人から日本行きの話を聞き、自分も日本で稼ぐことで「子どもにいい教育を受けさせたい、家族を楽にさせたい」と思い、日本へわたることを希望したという。そして、派遣会社を通じ、面接を受けるなどした上で、来日することになった。

当時、派遣会社の広告には、「週6日勤務で、基本給が保証される。残業は午後5時以降で、残業代は研修生の期間が1時間当たり300円、実習生になってからは1時間当たり420円」といった内容が示されていた。

また、女性は派遣会社に、手数料として2万6,000元(約39万9,740円)、保証金1万元(約15万3,750円)を払った。さらに、来日当初の9カ月間分の給与から毎月4万円を派遣会社に支払うことになっていた。

その上で、女性は家の権利証の原本、親戚の家の権利証のコピー、公務員の親族の在職証明書を提出した。同時に、女性が日本にいる間になにか問題を起こした場合には、家の権利証と保証金が没収されることになっていたという。

その後、女性は2008年に来日し、技能実習生(当時は研修生)として、徳島の縫製会社で働くことになった。

◆夜遅くまで続く長時間労働、午後7時以降は「トイレ禁止」に直面した女性実習生

一方、女性が日本に到着した日、徳島にはその日の午後4時半ごろに着いたというが、受け入れ企業の指示により、女性はその後、午後5時半には仕事にかかり始めたという。

さらに、実際に日本で働きだしてみると、その受け入れ企業には決まった勤務時間はなく、朝はだいたい8時ごろに仕事が始まり、たいてい夜の10時か11時ごろまで働いた。とりわけ、忙しい時期には、朝は早めに仕事を開始し、夜は12時くらいまで仕事をしているという状況だった。

また、残業をしていることが周囲にわからないよう、夜の6時をすぎると、工場の窓にカーテンがひかれるほか、工場の玄関のシャッターがおろされていた。

休憩時間は午前と午後に10分ずつ、お昼休みは40分程度で、そのほかの休憩はなかった。

その上、夜7時以降になると、トイレに行くことを禁止されていた。どうしてもトイレに行きたい場合は、雇用主から怒鳴られながら、トイレに行くほかなかった。

彼女を落胆させたのは、このような労働状況だけでなく、給与についてもだった。給与が月に6万円しか与えられなかったからだ。女性は毎日、夜遅くまで働いているにもかかわらず、給与が6万円しかなかった。しかも、給与は統一性がなく、同じ時間働いても人によって受け取る額が異なっていた。

◆湿気がひどくゴキブリやムカデの出る寮、外出の制限

女性が暮らしていた寮にも問題があった。

工場と同じ敷地内にある寮で他の実習生と共同生活をしていたが、倉庫のようなところに二段ベッドがいくつも詰め込まれていた上、湿気がひどいほか、ゴキブリやムカデが出るなど衛生面でも課題があったという。

女性は陳述書の中で、「初めて寮に足を踏み入れたとき、ゴキブリの多さに本当にびっくりし、血の気が引く思いでした。置いてある鍋は使い古され、底が黒く、ゴキブリがびっしりとはり付いていました。床も掃除が全くされておらず(そもそも掃除をする時間的な余裕、体力的な余裕などありません)、蟻やゴキブリがうじゃうじゃしており、おぞましい光景でした」とつづっている。

外出についても、1人での外出は禁止され、必ず複数で外出するよう言われていた。また、買い物が終われば、すぐに帰宅するように言われ、夜9時すぎに帰宅した際には帰宅が遅すぎるとし、罰として雇用主に1万円を没収されたこともあった。

◆雇用主からの暴言、「中国に帰れ」

そのほか、彼女が直面したのは、雇用主からの暴言だった。

雇用主から「仕事が遅い」「中国に帰れ」「態度が悪い」などと言われた上、殴る真似をされたこともあった。

実際に、雇用主から嫌われたことで、中国に帰されてしまう人もいたようだ。

また、雇用主は機嫌が悪いと、女性たちにあたり、部屋に立たせることもあった。こうした雇用主の在り方から、彼女たちは精神的にも消耗したという。

◆職場でのいじめ、暴言・半日外に立たされる、「日本人が怖い」

一方、佐賀県労連は先に、ベトナム出身の男性技能実習生から職場におけるいじめの相談を受けた。

佐賀県労連の稲富事務局長によると、この男性は佐賀の建設業で技能実習生として働いていたが、同じ会社で働く日本人から「お前はいらない」「日本語がへたくそ」と常に言われていたという。

また、「仕事ができない」と言われたほか、邪魔だと言われ、外に半日にわたり立たれたこともあった。

その上、日本で働き始めて半年で解雇されてしまった。

その後、管理団体が4月に男性を引き取り、ようやく最近になって埼玉での仕事が決まったという。

ただし、仕事が決まるまでの間、4カ月間、男性は朝6時半から夜10時半まで日本語の勉強をさせられていたほか、監視もされるなど、ほぼ監禁状態にあったようだ。

男性は日本語がほとんどできないために、通訳なしには相談もすることができない状況にある。

さらに、いじめを受けてきたため、日本人を怖がっており、稲富事務局長以外の人とはなかなか話をすることができない状態だという。

◆未払い賃金や損害賠償金の回収が困難、対策が急務

会見する徳島労連の森口英昭事務局長。筆者撮影、東京・霞ヶ関。
会見する徳島労連の森口英昭事務局長。筆者撮影、東京・霞ヶ関。

技能実習生をめぐっては、労働状況や生活環境にとどまらない、他の問題も山積している。

徳島労連の森口事務局長によると、徳島における深刻な問題として挙げられるものとして、実習生の受け入れ企業に対し勧告や裁判の判決が出ても、受け入れ企業に支払い能力がなく、未払い賃金や損害賠償金の回収ができず、実習生が泣き寝入りしなければならないケースがあることだ。

そのため同事務局長は、受け入れ団体などが出資して基金を創設し、未払いや損害賠償が確定した場合、その基金から支払うようにさせることが必要だと指摘する。

さらに、他にも対策が必要だという。

例えば、「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律案」には、「外国人技能実習機構」を認可法人として新設した上で、同機構が技能実習計画の認定を行うほか、実習実施者・監理団体に報告を求めたり、実地に検査するしたりすること、さらに実習実施者の届出の受理や監理団体の許可に関する調査、技能実習生に対する相談・援助など担うことが盛り込まれている。

これに対し、森口事務局長は、「(予定される)機構の職員数は少ない上、取締・捜査権限がなければ、国際研修協力機構(JITCO)と変わらないことになる。JITCOはこの際、解体し、捜査・立件権限のある機構職員を増やして配置すべき」とする。同時に、各自治体で、実習生を救済・保護できる部署や施設の確保、実習生の母国語通訳の確保など対応策を指導することが求められるとしている。(了)

研究者、ジャーナリスト

東京学芸大学非常勤講師。インドネシア、フィリピン、ベトナム、日本で記者やフリーライターとして活動。2015年3月~2016年2月、ベトナム社会科学院・家族ジェンダー研究所に客員研究員として滞在し、ベトナムからの国境を超える移住労働を調査。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了(社会学修士)。ケベック州のラバル大学博士課程に在籍。現在は帰国し日本在住。著書に『奴隷労働―ベトナム人技能実習生の実態』(花伝社、2019年)。

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