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10ヶ月の戦いを乗り越え、ピッチヘ。

高村美砂フリーランス・スポーツライター

プロ1年目シーズンとなった昨年。悪夢に襲われたのはJ1リーグ最終節を目前に控えた11月29日のことだった。チームが優勝争いを続ける最中、途中出場を果たした試合で『ゴール』という結果を残していた川西翔太(23)は、J1リーグ戦、33節のベガルタ仙台戦でJ1リーグ戦に初先発。アウェイで行われる34節の清水エスパルス戦も先発出場の可能性が濃厚だった。そんな最中に起きた練習中のアクシデント。接触プレーにより川西は右けい腓骨々幹部骨折の重傷を負う。その2日後、手術を終えて発表された診断結果は『復帰まで約6ヶ月の見込み』。退院後、練習場で初めて顔を合わした際に彼が口にした言葉を今でも鮮明に覚えている。

「こんな大ケガをして、僕、またサッカーが出来るようになるんですかね?」

もちろん、ケガの状態を思えばこそ、安易に頷くことも出来ず、そのときは術後の経過や今後のリハビリについて話をして別れたが、あれから約10ヶ月。夏を過ぎ9月に入り、川西は自ら答えを出すべく、再び、ピッチに戻って来た。と言っても、簡単に完全合流とはいかず、接触プレーのあるトレーニングは避けたり、彼自身も足の状態を確認しながらのプレーが続いているが、芝の上でボールを蹴れる喜びを噛み締めながら川西は笑う。

「やっぱり、楽しいですよ、サッカーは。今はまだ本当に元通りのプレーが出来るのか、など不安ばっかりですけど、それは自分で解消していくしかないですから。それに、ピッチに戻った以上、ケガは言い訳にしたくないし、周りにもそう思われたくない。やる限りは質を高めて、ゴールという結果を残したい。」

その思いの裏にはリハビリの間、自分を支え続けてくれた人たちへの感謝の思いも込められている。共にリハビリに励んだり、食事に連れていってもらったり、言葉を掛けてくれた仲間に。時に八つ当たりをしてケンカになったり、彼の性格を理解した上で励ましたり、怒ったり「アメとムチを使い分けながら支えてくれた」トレーナーに。今も、足の状態を見極めつつ、彼の昂る気持ちをなだめたり、盛り上げたりと、一緒になって完全復活に向かってくれているフィジカルコーチに。そして、応援し続けてくれたファンのみんなに。

川西は今、そうした全ての人たちの思いに、『ゴール』で恩返しをする決意でいる。

フリーランス・スポーツライター

雑誌社勤務を経て、98年よりフリーライターに。現在は、関西サッカー界を中心に活動する。ガンバ大阪やヴィッセル神戸の取材がメイン。著書『ガンバ大阪30年のものがたり』。

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