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今、カジノ合法化に向けてなすべき事

木曽崇国際カジノ研究所・所長

ここ1,2ヶ月、安倍政権が選挙で大勝した事を好感視してか、国内外の様々な金融機関、コンサル会社などが「日本のカジノ合法化は近し」などという観測レポートを発信し続けています。僕が手元に持っているだけでも、その種のものが5つくらいある。

しかも、その中の多くのレポートは今年の臨時国会で法案成立などというシナリオを描いているのが実情で、毎回どこからともなく意図を持って流される「観測情報」に、あいも変わらず世間が振り回されているのだなぁと感じるところ。ただ、実際のところを言えば、この秋国会でカジノ法案が成立する可能性というのは非常に低いですよ。その辺りは、以前の投稿を参照。

秋の臨時国会でカジノ合法化!?いやいやいやいやいや

http://blog.livedoor.jp/takashikiso_casino/archives/7960163.html

私から各社アナリストの方々に申し上げたいのは、日本ではここ4、5年に渡って「次期国会で法案成立か!?」なんていう何の根拠もないいい加減な情報が毎年繰り返し発信され続けているわけで、もはやその種の情報を吐く人達を頭から信用してはならないですよという事。例えば、先月産経Bizによって報じられた以下の報道の中では…

【遊技産業特集】(2-1)

http://www.sankeibiz.jp/business/news/130726/bsd1307260500001-n1.htm

(カジノ合法化は)実際、参院選まで動きはなく、選挙後、秋に向けて動きを見せることになる。ただ、政治的には与野党を含め非常に高いレベルでコンセンサスが取れている状況で、年内のカジノ法案成立も視野に入ると思われる。[...]

「非常に高いレベルでコンセンサスが取れている」などという関係者コメントが掲載されていますが、実は上記の報道がなされた直後に某所で行なわれた勉強会の中で、講師として招かれた現役の経済閣僚の口から「(政権内での)カジノの合意はまだできていない」という真逆のコメントが出されています。

要は、業界の中には個人的な「見込み」や「思惑」に基づいて、カジノ合法化に対してポジティブ「すぎる」情報を発信し続けている人達が居るワケで(しかも何年にも渡って)、そういう方々の発した情報に惑わされるのは非常にバカバカしい。実際はというと、カジノ合法化にとって「ビッグイヤー」となるのは2014年であって、逆に最悪でもそれが2015年の通常国会までに成立しないとなると、その先の日本でのカジノ合法化は段々と旗色が悪くなってくるでしょう。(そこには各種根拠があるのですがこの場では割愛)

では、それを実現するために我々は具体的に何をするべきかという話になるのですが、少なくとも「すわカジノ合法化か?」などと世間をやたらめったら煽ることでなくて、むしろ現政権に「やるべきこと」を粛々と進めさせることであります。安倍政権は、今年の6月にカジノ合法化への準備も含めた「観光立国実現に向けたアクション・プログラム」という行動計画を閣議決定しています。

観光立国実現に向けたアクション・プログラム

http://blog.livedoor.jp/takashikiso_casino/archives/7919491.html

(4)IR

○統合型リゾート(IR)について、IR推進法案の制定の前提となる犯罪防止・治安維持、青少年の健全育成、依存症防止などの観点から問題を生じさせないために必要な制度上の措置の検討を関係府省庁において進める。

かつて民主党政権時代にも政府によって類似した文書が出されたことは有りますが、上記のアクションプログラムは、過去の政権から出されたものとは性質が全く異なります。

民主政権の前原国交大臣時代に出された「カジノ合法化を検討すべし」とする文書は、あくまで民間の委員が集まった大臣諮問機関が作成した「政策提言書」でありました。一方、今回安倍政権で閣議決定された文書は、「観光立国推進関係閣僚会議」と名付けられた安倍総理を座長とした閣僚会議によって作成し、示した「行動計画書」です。その意味は「ただ諮問機関からの提言書を受け取りました」というものとは違って、内閣による一定のコミットメントが含まれているわけです。

繰り返しになりますが、今、我々がカジノ合法化に向けて為すべき事は、安倍政権が示したこの行動計画を粛々と前に進めさせることです。残念ながら上記アクションプランには、検討実施のためのフレームワークやタイムラインは全く示されていません。それを、まずは内閣に明示させ、予算上の措置を講じさせ、約束した行動計画を実施に移させることです。

10月中旬に始まるとされる国会の委員会審議の中で、誰かがこれを内閣に向って問わなければなりません。役割としては、カジノ合法化を支持するIR議連に所属する与党議員か、もしくは先の参院選でカジノ合法化を公約に掲げて戦った日本維新の会かみんなの党の所属議員となるでしょうか。我々カジノ合法化を支持する者としては、それをやりましょう、やらせましょうという事です。

繰り返しになりますが、「法案制定の前提となる犯罪防止・治安維持、青少年の健全育成、依存症防止などの観点から問題を生じさせないために必要な制度上の措置の検討を進める」というのは、安倍政権自体がすでに示している行動計画であります。これを着々と進めさせれば、自ずとその先に法案の制定が見えてきます。逆に言えば、ここに示されている「各種社会問題への対応策の検討」が進められなければ法の制定プロセスに移れないワケで、冒頭で述べた通り、非常に短いこの秋国会で法案が成立するなどという観測は常識的に考えてオカシイという事はご理解頂けるものと思います。

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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